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大阪で浮上している第三セクターへの懲りない投資

1998年06月15日(月)
萬晩報主宰 伴 武澄

 大阪の泉佐野コスモポリタン、宮崎のシーガイア、北海道の苫小牧東部開発。第三セクターによる地域開発の破綻が昨年来、新聞紙上をにぎわしている。官と民との共同出資という経営責任のあいまいさが巨額な負債を生む土壌となった。

 地下鉄たった1駅に1500億円をつぎ込む発想

 この事実はもはや自明の理となっているが、ここ大阪で性懲りもなく第三セクターによる鉄道建設計画がいくつも浮上している。まず近畿日本鉄道が、関西文化学術研究都市(京阪奈学術都市)と大阪都心を結ぶ京阪奈新線(生駒−高の原、12.2キロ)の建設を計画しており、今年中にも事業主体となる第三セクターが設立されることになっている。総事業費は1600億円、第一期の生駒−登美ケ岡間の8.7キロは2005年に営業開始される見通しである。

 一方、京阪電鉄は地下鉄中之島線(天満橋−玉江橋)のたった3.1キロに1500億円をつぎ込む計画。着工は2005年の予定だが、大阪へのオリンピック誘致が決まれば着工時期を早めるとしている。阪神電鉄も負けじと大阪市内に新線を計画している。

 市民の足である鉄道は都営や市営があるのだから自治体が民間の電鉄会社と共同出資の会社を設立してどこが悪いと言ってしまえばおしまいである。投資額に注目して欲しい。近鉄の年間の営業収入は2500億円で、京阪は1100億円でしかない。そんな企業が第三セクターとはいえ1500億円前後の設備投資をしようというのである。しかもほんの短距離である。

 民間鉄道が単独事業として経営不能の新線を自治体となら建設できるという発想自体がもはや過去のものであるはずなのに、京阪奈新線には、1998年度の政府予算に調査費が計上されるなど関係者の間では建設にゴーサインが出たとみられている。中之島新線の場合、特にひどいのは、現在、淀屋橋まである地下の線路を二つ手前の駅である天満橋から別のトンネルで掘り進むことになるが、実質的に淀屋橋から駅がひとつ延長されるにすぎない。ちなみに玉江橋周辺は大阪の外れである。多くの通勤客は淀屋橋で降りる。重ねて言う。そんな新線に1500億円を出費しようというのに批判の声は一切聞かれない。

 自治体予算にマスコミのチェックを期待するのは的外れ

 そのたった一駅のために1500億円のお金をつぎ込めば、40キロ以上ある現在の淀屋橋−京都間の運賃に跳ね返ることは必至である。アメリカだったら住民投票で建設の可否を問うような巨額投資がいつのまにかどこかで決定してしまうのが悲しいかな日本の行政の意思決定手法である。

 経済分野を専門とする経済担当記者が記事化する国の予算の場合でもチェック機能が働からいていないのに、まして自治体の予算となればほとんどノーチェックだ。言葉は悪いが、1億円以上は10億円でも1兆円でも「巨額」でしかない社会部記者が受け持つ自治体行政にマスコミのチェックを期待する方が間違いだ。

 日本だけではないと思うが、マスコミは事件になって初めて報道される。金融機関の不良債権問題でも破綻して初めて記事になる。第三セクターによる新線計画などは格好の"抜き合い"の対象となる。書かれた記事に採算性を問題視する姿勢はまったく見られないから始末が悪い。

 問題は、マスコミだけでない。自治体の中で、議員や役人といえども採算性を疑う発想を持ち合わせていない。自治体の官官接待の実態を暴いたのは、マスコミでも議員でもなかったことをよく覚えておこう。

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