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覚醒剤と鎮静剤を一緒に打ち続けて錯乱に陥った日本経済

1998年04月10日(金)
萬晩報主宰 伴 武澄


 この7年間、67兆円もの追加景気対策にもかかわらず、日本経済が長期低迷を余儀無くされている。原因を探ると市場経済を無視した政府の関与に行き着く。

  ●ビタミン剤、強精剤から覚醒剤投与への歩み
 1970年代、日本経済はオイルショックを迎えると長期不況に陥った。原油価格が1バレル=3ドルから30ドル以上にまではねあがり先進国経済を揺さぶった。日本政府は公共事業など財政の出動に加えて政府主導の産業構造転換策に出た。具体的にいえば素材産業でカルテルが復活し、ハイテク産業でも政府が業界を引っ張る形の研究開発体制がとられた。

 いわば税金を使った産業育成が図られたわけだ。国債残高が300兆円に迫るなど現在の財政を圧迫している根源はこの1970年代後半からの国債増発に端を発する。国債発行額は急カーブで増え、なかでも赤字国債が初めて発行されたのは76年度からだった。あとで詳しく述べるが翌年度の法人税を先取りして財政を歪めたのも77年度からだった。

 やがて国債=借金という「強精剤」が効き始め、日本経済は再び走り出し先進国の優等生となった。その後も不況に陥ると「ビタミン剤」を飲み、強烈な円高でも「覚醒剤」を打ち続けた。自然治癒という手法をとらない薬物の投与は劇的効果を発した。1980年代ジャパン・アズ・ナンバーワンと呼ばれ経済閣僚も経営者も鼻高々だった。やがて90年代に入るとその副作用がやってきた。日本経済はバブルが崩壊した後、どんな刺激も効き目のない体になってしまった。

  ●スクラップ帳をめくって記事を書けば「独自ダネ」
 にもかかわらず現在の経済界の反応をみると「対応が不足」「対応が後手」となりふり構わぬ。薬物汚染されている日本経済にさらに強力な強精剤や覚醒剤を打てといっているに等しい。本来、こうした患者にもはや打つ手はないはずだ。強制入院による長期のリハビリなしには回復不能といってよい。

 本来ならば、苦しくとも薬の助けなしに生活できるよう長期療養に入る覚悟が必要なのだ。 なぜ、日本経済は薬物汚染状態に陥ったか。経済官庁が過去の経済対策の効果や副作用について反省するはずはないが、残念なことに経済学者も経済評論家も検証しようとしていない。

 実は、市場経済の基本があまりにもおろそかにされていたのだった。これまでの経済対策といえば「公共事業増額」と「減税」、それに「公定歩合の引き下げ」。10年間の経済対策を振り返ってみれば分かる。生活関連とか情報通信を重視するといったところで金額的には微々たるもの。

 総額が違うだけで中身はほとんど同じなのだ。マスコミが新たな経済対策を予想するとき、スクラップ帳をめくって記事を書けば「独自ダネ」として紙面を賑わすことができるという笑い話があるほどで、政府が考えることは完全にマスコミに先読みされているのだ。

  ●覚醒効果がやがてもたらす鎮静効果
 確かに「政府による過去の景気対策の速効性は高かった。しかし公共事業増額と減税とも国債の大量増発を伴う。国債発行は国民への借金である。市場経済学的には、公債の大量発行は金利上昇を誘う。金を借りたい人が多ければ、貸し方が優位に立ち市場金利が上がるのは素人目にも分かる経済原則である。

 にもかかわらず、この経済大国日本では金利の市場原理が機能してこなかった。過去の日本の景気対策では、逆に公定歩合を引き下げて金融機関に市中金利の低下を強要した。覚醒剤を打ちながら鎮静剤を飲むに等しい。1980年代のアメリカの高金利は「強いドル」を求めたレーガンの経済政策にもよるが、赤字財政による国債の大量発行にこそ最大の原因があった。

 日本がバブルに酔い、経済成長を謳歌していた時代に欧米諸国が経済政策の手詰まりを起こしていたのはまさに赤字財政が誘因する高金利にあったと言ってよい。

 国民経済的にいえば国債依存による公共事業の上積みや減税は一時的には「覚醒効果」をもたらすが、行き過ぎると、国債の大量発行=金利上昇という「鎮静効果」を引き起こす。人間に覚醒剤と鎮静剤を同時に打つような医者はいないが、1985年以降の景気対策は公共事業の大規模増額と公定歩合の大幅引き下げを連動させたもの。これがバブル経済という「錯乱状態」をもたらし、今回は市場の無反応という「手詰まり状態」を引き起こしている。

  ●大量に発行でも未消化とならない日本の国債市場
 問題は、国債の発行が金融機関による入札制度をとっているにもかかわらず、未消化という事態が発生しないことである。発行条件は当然ながら短期金利動向に左右される。しかし、その短期金利市場への参加者は基本的に都銀など有力金融機関に限られる。

 ここでも市場の閉鎖性が市場機能を阻害している要因がある。国債は残高300兆円に迫る。郵便貯金などを活用した財政投融資残も300兆円に近づいている。なにしろ国の息のかかった金融商品は合わせて600兆円もある。だから公定歩合の調整という国の政策意図の大枠の範囲内でしか市場機能は反映しない。

 金融機関は不良債権問題で首根っこを押さえつけられており、国債の発行市場でも金融機関は大蔵省の意のままといってよい。

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