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国家による倒産銀行員への損失補てん/阪和銀退職金上乗せ事件

1998年1月22日(木)
共同通信社経済部 伴武澄
税金で退職金割り増しに離職手当て

和歌山市に本店を置く阪和銀行の従業員の退職金の上乗せ額が86億円にも上ることが分かった。うち85億円は預金保険機構が負担する。ほとんど全額である。名目は「地域の雇用安定」だろう。一昨年11月、1900億円の不良債権を計上、大蔵省から戦後初の業務停止処分を受けて破綻、1月26日に正式に清算が終了する銀行である。

これまでの労使交渉で解雇の条件として、規定の退職金の1.5-4.5倍を支払ったうえで、離職手当てとして基本給の1-20倍支給する協約を結んでいた。失業する従業員に対して追い打ちをかけようというのではない。

昨年11月に自己廃業を発表した山一証券はこの3月31日までに廃業に向けた清算事務を終える予定であるが、阪和銀行は15カ月のも長い期間がかかった。銀行業務は昨年3月末で終わっているが、この間、400人以上の従業員に給料とボーナスを払い続けた。あげくに退職金の上乗せである。しかも預金保険機構の負担で支払うことが決まっていた。

金融機関でなかったらこんな手厚い解雇条件は引き出せなかったはずである。製造業やサービス業には業界の保険など存在しない。会社がつぶれたら、債権者に借金を支払って、残った資産を株主と従業員とで分けてそれでおしまいである。阪和銀行は1900億円を超える不良債権を抱えて倒産した。清算に当たっては、預金保険機構がその不良債権を買い取った上で、さらに従業員の解雇対策として85億円が上乗せされたのである。

素人考えでも理不尽ではないか。

預金保険機構は、個別の銀行が倒産したときの負債を穴埋めするため、銀行業界が毎年度末の預金残高に応じて積み立てている保険だ。任意の保険ではない。政府・日銀が義務づけている制度だ。大型金融金の破綻が相次いだ昨年以降は、預金保険機構自体のお金が底をつき、日銀が巨額の融資を続けている。もはや預金保険機構のお金はイコール国民の税金を言っていい。

阪和銀行員は救済できても阪神大震災はだめ

国民の税金で、倒産した阪和銀行の従業員の解雇対策費まで賄われていることになる。3年前の住専破綻で、国費が6750億円つぎ込まれた時、国民的反発が起こった。百歩譲って「日本の金融システムの安定」のための出費だったと考えよう。だが、今回の85億円はまったく性格が違う。政府は、いまでも阪神大震災で被災した人々に「国費による個人資産の救済はできない」と言い張ってきた。

阪和銀行の預金保険機構による1900億円の救済はまさに「日本の金融システムの安定」のためにという理由になるかもしれないが、85億円といえども退職金上乗せや離職手当ては、まったく救済の対象にならないはずだ。

この理屈がまかり通るのだったら、製造業やサービス業の倒産にも当てはめるべきだ。今回の措置はまさに「国家による倒産銀行員への損失補てん」にほかならない。金融機関と名が付けば政府は倒産の時まで優遇するのである。

政府は、昨年12月23日、「金融安定化策」を発表した。「金融システム安定」の美名のもとに金融機関に最大30兆円もの資金を準備する法案が間もなく国会に上程される。高水準の給与と週末のゴルフが保証されたまま。



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