HAB Reserch & Brothers Report


政府による優先株発行の強要はルール違反

KYODO NEWS Deputy Editor 伴 武澄
HAB Reserch 1998年1月13日(火)

14日、東京三菱銀行は、大蔵省による金融機関への優先株発行の受け入れを明らかにした。強要である。強要はルール違反である。1980年代後半から大蔵省は数々のルール違反を犯してきたことは1997年10月17日の「劣後ローン、優先株、まだ足りぬか金融救済」ですでに指摘した。

 まず、企業が市場から資金調達するにはそれなりに経営が安定していることが前提。市場が経営破綻寸前の企業の株式を受け入れるはずがないからである。経営難に陥った企業が唯一頼れるのが「第三者割当増資」である。大株主や取引先がその企業の存続を望む場合、採算を度外視して増資に応じる仕組みである。

 優先株は、ふつう株主総会での議決権がない代わりに普通株より高い配当をする株式を言う。資金は欲しいが、株主権の行使を嫌がる場合にのみ発行される。数年前、自己資本比率の国際基準(BIS)達成が困難になったさくら銀行や日本債券信用銀行などが発行した。国民や預金者はもとより、政府も金融業界もまだ「破綻の到来」を実感してはいなかった。さくら銀行は96年10月に1株2000円で7500万株発行した。普通株の配当8.5円に対して優先株の配当は45円だった。そして、さくら銀行は1500億円を手にした。

 大和銀行は95年7月、1000円で5000万株、総額500億円である。配当は24.75円(普通株4.6-6円)。さくら銀行も大和銀行も優先株の配当額は普通株の5-6倍。配当利回りはなんと2.5%にもなった。公定歩合が0.5%の時である。優先株の発行は、これくらいの高額配当がなければ機関投資家が応札しない。これは市場原理である。

 ちなみに、配当原資はさくら銀行の場合で年間33億7500万円の負担増となった。95年3月期の当期利益は244億円でしかない、大和銀行は12億2500万円の負担増で、同当期利益139億円だった。優先株はコストがかかるのである。

 破綻した北海道拓殖銀行の優先株は詐欺に近い。96年9月、500円で5600万株、280億円を調達、配当は普通株2.5円に対して10円だった。97年3月期には10円配当したが、高配当は1度で終わった。優先株の株主は発言の機会も与えられないまま、北洋銀行への営業譲渡が決まった。現在、普通株の株価は1円である。280億円を優先株につぎ込んだ生保などは279億4400万円をどぶに捨てた勘定である。北洋銀行に吸収された後、優先株の取り扱いはどうなるのだろうか。

 日本債券信用銀行は97年7月に320円で3億8600株、総額1235億2000万円を調達した。配当はゼロである。”投資”したのは生損保である。みんな国民の保険金だ。老後の心配から加入している生命保険の金が、「金融機関の安定」の美名の元でこんなところに”投資”されているのである。こんなばかな話があるだろうか。



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