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ユーロ圏はどうなるか −財政赤字の「持続可能性」について

2010年05月09日(日)
ドイツ在住ジャーナリスト 美濃口 坦


ドイツ在住ジャーナリスト 美濃口 坦
先週末ユーロ圏諸国と国際通貨基金(IMF)は、財政危機にあるギリシャに3年間で1100億ユーロ(14兆円)規模の共同融資を行うことを決定した。インターネットで日本の反響について読んでいると「EUの選択:統合か解体か」という記事が目にとまる。これは5月3日付けの英フィナンシャルタイムズに掲載されたものでhttp://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3400で読むことができる。

その要旨は今回の救済政策の真意がポルトガルなどの他の国々に波及することを阻止する点にあり、ギリシャの財政再建につながらないとする。数字と今からこの国が直面する状況(歳出カット→経済活動衰退→税収低下)を考慮すると、赤字も増大するいっぽうで、いつの日か債務再編が避けられない。
次にギリシャだけでなく、今後ポルトガル、アイルランド、スペインに火の粉が飛んで来ると、1兆ユーロ以上の支援が必要になる。どこの国民も他国の赤字の補填をのぞまないのでEUは解体するしかない。そうならないためには、ユーロ圏全体で共同ユーロ債を発行したり、加盟国の財政主権を廃止したり、また他の加盟国に対する救済を禁するリサボン条約・125条を廃止したりするなどして統合を前進させるしかないという。

今から私の感想をしるす。
確かにギリシャの実体経済を厳密に検討すれば財政再建など至難の業であることがわかる。また他のPiigs諸国にソブリン債危機が波及することも阻止できない。これまでの経過からわかるように、格付け機関のご託宣があって市場が購入を控えたら国債利回りが上昇し大騒ぎになるからである。

ここまでは私も筆者に同意する。でも今どき購入した国債が絶対もどると確信できる国があるのだろうか。少し前に超優良とされるドイツ国債の30年モノが残ってしまって話題になった。助けることを期待されているドイツだってその財政は火の車である。今回ドイツが重い腰を上げたのは米国から圧力があったからといわれる。というのは、ソブリン債危機が先鋭化し国際社会が敏感になったら、米国も困るからだ。

今年の2月25日付けのワシントン・タイムズに掲載された記事には「バーナンキFRB議長が、昨日の水曜日彼らしくない露骨な口調で議会に対して、米国もまもなくギリシャと同じような財政危機に陥る危険があると警告した」とあり「10年後とかった先のことでない。この怖れが現在市場を動揺させている。(毎年発生する1兆ドル以上の財政赤字の)持続可能性についてボンド市場がいつなんどき心配しだしても不思議でない。私たちは今日にも利回りの上昇に直面するかもしれない」というバーナンキ議長の発言が引用されている。http://www.washingtontimes.com/news/2010/feb/25/bernanke-delivers-warning-on-us-debt/

バーナンキ議長からみたら、米国だけでなく、断トツで別格の日本を筆頭に、また英、独、仏などの多くの国々も、多かれ少なかれギリシャと似たような状況にあることになる。財政赤字を抱える国のあいだに相違があるとしたら、それは先頭のほうを走っているか、それとも少し遅れて走っているかで、いわば程度の差である。< /span>

ここでいう財政赤字は一度限りのことでなく、借金返済のための借金を繰り返す状況が継続する現象である。上記のバーナンキ議長の発言にもあるように、怖れとか不安とかいった漠然とした気分が人々の意識の底にあって、財政に関して心配したり問題にしたりしないでいようとする暗黙のコンセンサスができていて、これが財政赤字の「持続可能性」を支える。ところが、何かの拍子でこの暗黙のコンセンサスにひびが入って、この気分が具体的な心配に変わった途端、事態は収拾できなくなる。この事情は、童話にでてくる、子どもが「王さまは裸だよ」と叫ぶ状況に似ているかもしれない。

昨秋ギリシャは財政赤字・見通しを3,7%から12、5%に修正した。当時、この国の統計があてにならないことが昔から知られていたと人々から指摘された。私もどこかで読んだ記憶があって知っていた。この事情も、心配したり問題にしたりしないでいようとする暗黙のコンセンサスをしめす。でも該当国自身が粉飾決算を認めたことで「裸の王さま」的状況になり、この暗黙のコンセンサスが維持できなくなった。

どこの国も叩けば埃が出るのに、国際社会はそれ以来「借金を踏み倒す国」ギリシャのバッシングにはげむ。こうするのは、「借金を踏み倒さない国」の存在を自分にむかって間接的に強調することであり、財政赤字の「持続可能性」を支える心理的コンセンサスの修復につながるからだ。

一度、昨年選挙に勝って登場したギリシャ新政権が前政権の数字を踏襲して知らん顔をしていた場合を想像するべきで、今でもこの国の国債が買い続けられていたと思われる。このことからも、国際金融が実体経済からいかに乖離しているかが、わかるのではないのだろうか。

最後に、上記の記事の中で指摘されているEUの「統合か解体か」の二者択一にふれる。これ以上統合を前進させることは不可能に近い。というのは、庶民や一般大衆が欧州統合やユーロに対して抱く反感がこれまでも強かったが、ギリシャ危機で今後ますます強まるからだ。となると解体するしかないが、でもそうならない可能性もある。
欧州中央銀行は、2008年の金融危機以来、銀行救済のために格付けがトリプルB以上の債権を担保として認めることにしていた。昨年末この規則を延長したが、それはギリシャ国債を担保として受けいれるためである。今回のユーロ圏加盟国の融資合意後も、欧州中央銀行はギリシャ国債を今後も担保として認めると発表した。http://www.ecb.europa.eu/press/pr/date/2010/html/pr100503.en.html 金融機関はこうして紙切れ同然のギリシャ国債を担保にして資金を供給してもらうことができるので、この措置は欧州中央銀行による強力な援護射撃である。

今後ポルトガなどの他の財政赤字国にソブリン債危機が波及する可能性が強いし、その兆候が見られる。欧州中央銀行は今後、国際金融市場からの圧力に対抗するために、危機に陥った国の国債を購入するなど、より柔軟で狡猾な金融政策を展開すると予想される。中央銀行がすることは、お金を提供したり貸したりする話と異なって、(大多数の政治家を含めて)普通の人にはピンと来ない。だからこちらで対抗するほうが得策であるかもしれない。

ジャンクボンドを担保として認めることも、また自国政府・発行の国債を購入することも、けっきょく紙幣の増刷に等しく、安定通貨(=良貨)を重視する中央銀行がしてはいけないことである。とはいって、米国や英国などの中央銀行もかなり前から盛んに実行していることである。「悪貨は良貨を駆逐する」でユーロ圏が解体する道をたどらないために、欧州中央銀行がこのような処置にでるのもしかたがないことかもしれない。

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