日米の両方のシンクタンクに勤務しながら、大きな落差を感じる。そのギャップの本質は、個人に力点を置くか組織を重んずるかに起因するように思われる。本当に日本人はもともと組織を好むのだろうか。ふと次のような疑問が湧いてきた。
日米のスポーツの特徴から考える
日本には、古くから伝わるスポーツに組織を重んじるスポーツはほとんど存在しないのに、欧米のスポーツは団体や組織が主流である。剣道、柔道、空手、相撲など日本の伝統的なスポーツは、個人技を中心にしている。一方、欧米のラグビー、サッカー、野球などは団体・組織のスポーツである。
ところが、ラグビーを例に取ると「One for All,All for One」という標語を思い出す。日本では組織のために個人があるという考えが強いが、欧米では個人のために組織がある、という考え方が優勢だ。後者の「All
for One」に力点を置いている。
アメリカで、イチロー、松井、ダイスケなどが大リーグで生き生きとプレーしている姿に接し、明らかに大リーグは、個人の能力を自由に発揮できる環境を提供しているように感じる。しかし、日本のプロ野球は、勝利のために組織やチームプレーが重んじられ、個人が萎縮しているように思われてならない。
シンクタンクはペンタゴンである
ブルッキングス研究所はロバート・ブルッキングスが90年前に設立した世界で最も古く権威のある研究所の一つである。同研究所に勤務したとき教わったのが、「Think,
Learn, Lead」という3つの言葉だった。それは、Think(感性で考え)、Learn (理性で学び)、Lead(積極的に世の中に問いかける)である。加えて、Independent
Research Shaping the Future (独立した研究で将来の構想を描く)との標語が大会議室の正面に掲げられている。
ブルッキングス研究所で活動しながら、ふと興味深いことに気がついた。それは、シンクタンクの役割である。日本の社会構造は、政界、財界、官僚機構の鉄の三角形(トライアングル)で成り立っている。そして新聞、テレビ、書籍、インターネットのメディアの勢力が力を増し、4角形(スクエア)になり、これにアカデミズム、市民団体、NPO,NGO,宗教団体、医者、弁護士などのプロフェッショナルな集団を入れると、5角形(ペンタゴン)や6角形になるとも考えられる。
日本ではいまだにシンクタンクは機能していないようだが、アメリカのシンクタンクは、独特な役割を演じている。例えば、ワシントンの著名なシンクタンクの研究員は、政治、官僚、財界、メディア、大学、弁護士、宗教団体、国際NGOなどあらゆる経験をし、それらの世界に精通している人物が多い。いわゆる”専門馬鹿”ではない。しかし日本の社会でこれらを経験するのは、余程のチャンスに恵まれるか、”異端児”でなければ不可能である。
世の中を動かすシンクタンク
政・官・財・メディア・学・市民などのペンタゴンの構図の中心に入り、その調整機能を果すのがシンクタンクの醍醐味であるように思う。
メディアとは、「真実・うわさ・嘘」の3つしか伝えない。真実をうわさや嘘に変貌させさり、うわさや嘘を真実に変えたりするのも、シンクタンクの力であるように思う。
日本人のDNAに反する日本型会社組織
スポーツから日本の社会に目を向けてみると、日本の会社組織は、世界に稀なほど組織を重んじる社会だと思う。終身雇用や年功序列などは、組織の一員として、One for Allとして勤務するのには良いが、組織やチームワークを乱す、革新的、創造的な行動や新構想は排除される。
日本社会は、農耕社会や村社会に見られるような組織社会だという考え方もある。しかし、日本の伝統的スポーツが個人中心であることを見れば、必ずしも日本人が組織社会に満足しているとは考えられない。
農耕社会が始まり数千年もたっているが、それ以前の何万年前の時代は狩猟時代であり、また、日本人には蒙古斑が存在することから、我々の先祖は、ユーラシア大陸を遥か太平洋の彼方まで移動してきた民族であり、狩猟遊牧民族的なDNAを備えていると考えることができる。
そう考えると、戦後の個人を生かさない組織の構図は、本来の日本人のあるべき姿ではない。もしも仮に、敗戦国日本の宿命として、明治維新から20世紀初頭にかけて輩出したような人物を生み出さないように教育したアメリカの対日政策が存在していたとするなら、見事にそれは今日にも機能しているように思われる。
日本に必要な本格的シンクタンク
新しい国際秩序の構築が想像以上のスピードで進展している中で、日本にも本格的なシンクタンクが必要である。しかし、それが組織に力点を置くものならば、シンクタンクとしては機能しないと思う。
理想は、日本の古来からのスポーツである剣道や柔道などの個人技を重んじながら、大リーグのような個人の能力を十分発揮できる「All
for One」のシンクタンクの力量であろう。
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