へき地の医師不足が、いよいよ深刻になってきている。
島根大学医学部では「生まれ育った地域が県内のへき地に該当する高校卒業者で、へき地の医療機関および社会福祉施設で適正評価を受け、市町村長等による面接を受けた者」に対する「地域入学枠」を設けた。
この「適正評価」とは、入学志望者が医療機関であれば少なくとも7日以上、社会福祉施設なら3日以上の医療福祉体験活動を行い、活動記録と感想文を提出し、それらの医療機関か福祉施設の「長」の評価を受けること、と定められている。
評価を下す長が「情実」で判断したら元も子もなくなるが、へき地医療を担おうとする強い「動機」を入学要件に掲げたことは、従来の偏差値一辺倒の入試選抜からの本質的転換を意味する。
「地域に生まれ育った若者が医療で地域に報いる」との価値観は、同時に「地域が医師を育てる」側面を含んでおり、偏差値でランキング化された大学医学部のピラミッド構造に揺さぶりをかけるだろう。
この「地域と医師養成」の循環を、ダイナミックに実現しているのが、キューバの「ラテンアメリカ医学校」である。00年11月時点で23カ国、3433人の学生が在籍。学生は医療過疎地から重点的に選ばれ、生活費、授業料は全額キューバ政府が負担する
。
10年間で約6千人の医師を輩出し、彼らは地元に還るほか世界各地の医療事情の悪い地域にも赴任して活躍している。
特筆すべきは、経済制裁を課してきているアメリカ合衆国出身の若者にも門戸を開いている点だ。
米国の最貧困地帯ミシシッピ・デルタのアフロ・アメリカン、ヒスパニック、ネイティブ・アメリカンなど医師教育を受けたくても受けられない若者250人への完全奨学金による教育プログラムを準備しているという。
なぜ、あなたは医師をめざすのか?
この問いは、医学を志す若者だけでなく、医師として生きる私たちにも向けられている。
財産、名声、地位は「結果」であって、偶然の出会いや運のようなもので決まる。
若者はこれらを「直接」目指し、うまくいかないと「自らの努力が足りないせいだ」と自縄自縛になろう。
むしろ、日本古来の「おたがいさま」「おかげさま」の感覚を取り戻し、地道に努力する、与えられた役割を担って仲間とともに歩む、そんな姿勢のほうが、友だちも増えるし、人生の目的の実現に近づけるというものではないだろうか?(佐久総合病院内科医師・いろひらてつろう)
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