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サダム・フセイン

2006年12月30日(土)
Nakano Associates シンクタンカー 中野 有澄
 サダム・フセインの処刑が、数時間以内で行なわれるとのニュースがワシントンで聴くラジオから流れている。このコラムが配信されるまでにサダム・フセインの運命は決まっているだろう。

 今、イラク、或いは中東は、まさに歴史の分岐点に立っている。フセインが処刑されることで、スンニ、アラブの主流にとってサダム・フセインは永遠に英雄視されると考えられる。英雄というものは、最後の死にざまによって決定されることがある。そのインパクトが大きい程、精神的、歴史的出来事として受け継がれていく。

 いずれにせよサダム・フセインは、文明・宗教の衝突が起こっている今日、世界に最も大きな影響を及ぼした人物として歴史に刻まれるだろう。サダム・フセインが今、世界が注目される中で処刑されることにより、サダム・フセインを英雄として祭り上げてしまう。それが問題である。とりわけ、サダム・フセインが最後に発したメッセージが世界を益々混乱させる。「イラクを攻撃した他国の人々に憎しみを持ってはいけないことを願う」。(I also call on you not to hate the peoples of the other countries that attacked us ・・・)

 スンニとシーアの分離は、1400年近く前の預言者モハメッドの後継者の選定に発する。21世紀の今日、イラクにおいてシーアによるスンニのリーダーの処刑により再び精神的な分離が深まる。分離を緩和させる魔法は、フセインの最後の手紙にあるように憎しみを憎しみで報復しないことであろう。

 もう時を逸したが、国際社会は、サダム・フセインを精神的な英雄とする道を回避し、中東・世界の平和のためにサダム・フセインを利用する戦略を考察すべきであった。サダム・フセインを処刑せず、スンニの暴動を緩和させるというサダム・フセインのメッセージをイラク国民に直接伝える場を形成するという戦略もあった。そして、サダム・フセインを人知れずどこかの国へ亡命させ余生を全うさせる可能性を探ることが、イラクの大量破壊兵器の保有を大儀として先制攻撃を行なったブッシュ政権の情けになると考えるのは筆者だけだろうか。

 筆者は、25年前のバクダッドで生活し、米国や西側が支持するサダム・フセインの雄姿に接した。イラ・イラ戦争時のバグダッドには、チグリス川のほとりにアベックの幸せそうな姿も見られたし、酒も自由に飲めた。これらは、サダム・フセインの善の部分である。イラク戦争開戦前に比べイラクの生活事情は悪化している。

 イラクを治めるためには、リンカーンのようなリーダーが理想とされる。リンカーンのような立派な英雄でなくても、強いリーダーが必要だといわれている。それが、時には、サダム・フセインのような独裁者であっても仕方がない時代背景も必要悪だったかもしれない。

 昨年の年末に作成した萬晩報にサダム・フセインの将来http://www.yorozubp.com/0512/051226.htm を述べた。先日、ワシントンのシンクタンクでも昨年と同じ質問をした。講演者はリベラルな考えを持つ人であったので、その通りだが、ブッシュ政権にはその余裕がないとの答えであった。

 BBCのホームホームページを見ると世界中から何千というサダム・フセインの処刑に関するメッセージが寄せられている。人権団体の嘆願のみならず、各国のメッセージもこれから世界を席巻するだろう。2006年の最後にイラクの平和への大きなチャンスを逃すことを非政府個人(NGI)として嘆いている。

 中野さんにメール nakanoassociate@yahoo.co.jp

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