Who killed the Electric Car という興味深いドキュメンタリー映画が昨年、アメリカで制作され、今年上映された。制作はソニー・ピクチャーだからマイナーではない。最近、DVDが発売されているから日本でも観られるようになった。
■電気自動車にスポットライト
1990年代、環境問題から電気自動車にスポットライトが当てられた時期があった。筆者はその時、機械クラブに所属していた。トヨタはRV車のRAV4に電気自動車バージョンを開発し、発売した。400万円という価格は普通のサラリーマンには手が届かなかったが、自動車の明るい未来を見たような気がしていた。同じころGMもまたEV1という電気自動車スポーツカーを売り出した。環境問題に取り組む自動車メーカーの本気が伝わっていた。
電気自動車が出現した背景には、アメリカのカリフォルニア州の深刻な環境問題があった。特にアメリカの典型的な車社会であるロサンジェルスでは排気ガスによる大気汚染が社会問題化していた。1990年、州政府は州内で自動車を販売しているメーカーに対して、2003年までに年間販売台数の10%を無公害車つまりZero Emission car(排ガスゼロの車)とするよう義務付ける州法を制定した。メーカーが本気にならざるを得なかったのはそうした事情があった。
そんな環境が一変したのがブッシュ政権の誕生だった。電気自動車に対する熱気は失せ、カリフォルニアのくだんの州法も廃止されてしまった。それよりも多くの期待を担ってきた電気自動車そのものも道路から姿を消してしまったのだ。
■一部から熱狂的に受け入れられたEV1
GMのEV1は1996年発売、価格は33,995ドルから43,995ドル。生産台数が限られていたため、販売ではなくリース契約でのスタート。月額リース料は349ドルから574ドル。価格からみて決して誰もが買える車ではなかったが、一部の人には熱狂的に受け入れられた。カリフォルニアとアリゾナ州で1200台が販売され、長いウェイティングリストができる状態だった。
いまでも残っているいくつかのサイトにはEV1の試乗レポートが書かれていて、ポルシェと坂道で競争できただとか、一回の充電でたとえ100マイルしか走れないとしても食事の休憩だとかにこまめに“給電”すれば1日に200マイルぐらいは走れるといった体験談が多く報告されている。
そもそもモーターのエネルギー効率は内燃機関の2倍といわれている。原油から発電、送電をして充電した場合、その27%が動力エネルギーになる。ガソリンエンジンはたった15%しか動力エネルギーを引き出せない。100年前の自動車創生期には内燃機関車とモーター車の比率は半々だったそうだ。有名なポルシェ博士が世に問うたスポーツカーは電気自動車だった。T型フォードの誕生はガソリン車の価格破壊をもたらした点で評価されているが、実は電気自動車に引導を渡したという意味でも画期的だったのだ。
産業革命以降、動力は蒸気機関から内燃機関(エンジン)とモーターに移った。鉄道はモーターに軍配が上がったが、市内交通機関としては路面電車、トロリーバスが全盛の時代があった。しかし軌道が道路を占有することや架線がじゃまになることから撤退が続いた。そして最終的にエンジン車が電気自動車を駆逐したのがこの100年の歴史である。
■ リコールされ野積みにされたEV1
しかし、やがてEV1はGM自身の手ですべてリコールされ、事実上、公道から姿を消した。車はリサイクルどころか廃車処分となり、次々と野積みにされた。2003年のことだった。
Who killed the Electric Carという映画はそんなアメリカの事情をドキュメンタリーで描いたものである。映画は関係者に対する多くのインタビューを通じてだれがEV1に引導を渡したのか、何が原因だったのかを迫っていく。アメリカ政府、GM,石油業界などが容疑者として登場するが、映画自身は答を出していない。
電気自動車の弱みは充電に時間がかかることを1回の充電で走行できる距離が短いことである。ガソリン車の場合、5分のほどの給油で燃料を継ぎ足せばどこまででも走ることができる。しかし考えてみれば、それはガソリンスタンドが存在すればという前提がある。
20年前の中国では自家用車という概念がなかったから当然、ガソリンスタンドは大都市の外国人のいるところにしかなかった。ちょっと町を出ればスタンドはないから、1回のドライブはガソリンを満タンにして走れる距離が限界だった。
いってみれば今の電気自動車が抱える問題は充電スタンドが存在しないということでもある。すでに高圧電気によって短時間でバッテリーに給電できるシステムは存在しているが、問題はそんな給電スタンドが公道沿いにないということではないだろうか。
逆に考えれば、ガソリン車の普及はガソリンスタンドの普及と相俟っていたとすれば分かりやすい。そうなると世界中にガソリンスタンド網を築いてきた石油業界にとって電気自動車の復活は死活問題となる。電気自動車の普及はとんでもないことになる。
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