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ウィルソンセンターで学んだイラク戦争の教訓

2006年10月04日(水)
Nakano Associates 中野 有
 第28代米国大統領のウッドロー・ウィルソン大統領の功績を称え設立されたウッドロー・ウィルソンセンターは、ホワイトハウスの近くにあります。歴代大統領で博士号を取得したのは、ウィルソン大統領だけです。ウィルソン大統領は、プリンストン大学の学長も務めた学術と実務の両方を兼ね備え、国際連盟を提唱した人物です。このウィルソン大統領の国際協調の流れを継ぐウッドロー・ウィルソンセンターは、年間500回のセミナーを開催しています。

 先日、「方向を見失ったアメリカ外交」というウィルソンセンターのセミナーに出席しました。講演者は、ブッシュ政権のイラク戦争の失策を詳細に分析し、悲観的な要因が11月の中間選挙に影響するのみならず、米国の外交が孤立主義に向かう可能性があるとの見解を述べていました。

 こんな質問をしてみました。「イラク戦争を通じアメリカ国民が悲観的になり、アメリカの威厳と信用度が低下したという状況にも拘らず、どうしてアメリカの経済、とりわけ米国の株価が最高値を示しているのでしょうか。その矛盾をどのように認識すべきであり、この教訓からアメリカは何を学んだのでしょうか」。

 講演者の説明は、「世界の軍事費の大半をアメリカ一国が占めている状況における皮肉な結果であり、中東の不安定要因を吹き飛ばす中国やインドの経済の拡張がアメリカ経済のプラス要因となっている」とのことでした。

 この説明では納得がいかないので、セミナー終了後、イラク戦争開戦時から今日までワシントンのシンクタンクを通じ学んだことを振り返ってみました。

 開戦の半年前にブルッキングス研究所に入り、最初に考えたのが、イラク戦争の行方、とりわけフセイン大統領に対しては、信長の「鳴かぬなら殺してしまえホトトギス、秀吉の鳴かせてみせようホトトギス、家康の鳴くまで待とうホトトギス」の3つのシナリオがあるとの見方でした。ブッシュ政権とフセイン大統領の相性から察すると信長のシナリオである先制攻撃の可能性が最も高く、外交努力の結実で秀吉の思考が成り立つとの考えでした。家康のシナリオでは、9.11の同時多発テロの報復を行わないアメリカは孤立主義へのメッセージを送ることになり、国際テロへの弱腰は不安定要因を高めるとも考えました。

 開戦を急ぐ米英のアングロサクソンが、フランス・ドイツ・ロシアの戦争に反対する「平和への枢軸」と対立状況にある時、日本が成すべきことが必ずあると考えました。それは、日米同盟を堅守することを前提に「待てば海路の日和あり」で、少なくともフランスが1ヶ月待てば参戦するとの状況の中、日本がそれを実践するに適役であるとの考えでした。

 イラク戦争の出口が見えなくなるほどに、3年半前のイラク戦争開戦時でも今夏のレバノンの紛争でフランスやドイツが軍隊を派遣したようなシナリオが可能だったとの考えが増えているように思われます。ワシントンではその空気を感じます。

 理想は戦争回避であっても、イラク戦争の影響でアメリカの軍事予算は伸び、石油価格が上昇することで産油国のプラスになるというのが一方の現実でもありました。この戦略の恩恵を受けるのがテキサス州出身の大統領であり、軍事を基軸とするブッシュ政権であるなら、理想と現実のハードルは高かったようです。

 ニューヨークタイムズのコラムニスト、トーマス・フリードマン氏は、石油価格の上昇と民主化は反比例するとの法則を示しています。また、イラク戦争のおかげで石油が上昇し、エタノールなどの代替エネルギーの開発が進み、むしろ石油価格が下降することで代替エネルギーの開発が止まることを懸念すると述べています。

 イラク戦争、石油価格の上昇、環境にやさしい代替エネルギーの開発と実用化、その三角関係は、どのような影響をもたらすのでしょうか。その答えを得るまでに、少なくとも数年かかり、その間、世界情勢はどのように変化して行くのでしょうか。

 中野さんにメール nakanoassociate@yahoo.co.jp

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