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人手不足で減り続けるマニラの私立病院
〜医師、看護師の海外流出で〜


2005年12月09日(金)
長野県南相木村診療所長 色平(いろひら)哲郎


 医師や看護師の海外流出で比の私立病院の約60%が閉鎖に追い込まれてしまった――。

 22日、マニラ市内で開かれた比私立病院協会(PHAP)の年次総会で、アントニオ・チャン会長が悲痛な報告を行った。チャン会長によると、2000年には国内に1700あった私立病院が01年には900、05年には700まで減少した。今月中だけでも廃業した私立病院は12を数えるという。

 開業している病院でも、海外流出により医師、看護師、助産師などが不足しており、介護士を養成して使うことでしのいでいる状況だという。チャン会長は「特に地方に住む人たちの健康状況に懸念を覚える」と語り、自身の経営するビコール地方マスバテ州の病院では医師が50床に一人しかいないと告白した。

 また、人材不足への対策として、厚生省に私立病院向けの「医療従事者雇用センター」の設立を求めた。比国内での病院勤務医、看護師の月給が1万2000〜1万8000ペソ(1ペソは約2円)であるのに対し、英国などヨーロッパでは10万〜25万ペソに達するという。(先日入手した「マニラ新聞」05年11月23日付け記事より)

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 問題を直視せよ 〜医師の海外流出問題〜

 加速する医療従事者の海外流出をどう解決するのか。この課題へのサントトマス労働雇用長官の対応は「問題に目をつぶる」ことらしい。医療従事者連盟のエベサテ事務局長やガルベス元厚生長官が深刻な人材流出に対し相次いで危機感を表明した。

 しかし、サントトマス長官は彼らの指摘を根拠のないものだと退けた。医師歴25年の男性外科医は40人の同窓生のうち三分の一以上が海外移住したと語った。女性産婦人科医も1998年に共に卒業した300人の婦人科専攻生のうち半数以上海外で働いていると明かした。

 しかし、同長官にとってはこのような事実も問題ではないようだ。一体どんな事態に陥れば彼女は深刻に考えるようになるのだろうか。フィリピン大学のデータによると、2001〜04年までに3000人の医師が看護師として働くために国外に出た。WHO(世界保健機関)が算出した人口1万人当たりの理想的な医師数と比のそれを比較すると医師の数は2分の1以下である。

 もしこの厳然たるデータを同長官が問題視しないのなら、このような事態がわが国の医療システムに与えている影響を考えるべきだ。私立病院協会によると、過去5年間で人材の海外流出で1000の私立病院が閉鎖され、現在運営されている病院は700にすぎない。

 同長官は、すべての事実に抵抗し、問題を直視することを回避している。彼女が重視しているのは、国の優秀な人材が失われることでなく、海外就労者のドル建て送金だけなのだ。国が生き抜くためには海外からの送金に依存することが重要で、国民が医療従事者の不足によって命を落とすことは問題ではないようだ。(11月24日付けフィリピン・インクワイアラー紙論説より翻訳)

 色平さんにメール mailto:DZR06160@nifty.ne.jp

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