5月1日(日曜日)。今日はグルジア正教の復活祭だ。
敬虔な信者達は夕べの内に教会のミサに出かけ、夜12時のキリスト復活を伝える鐘の音が鳴り響くと同時に周りの人達とお祝いのキスを交わしたことだろう。グルジアでは赤く染めたゆで卵しか作らないけど、私が子供の頃はできるだけ多くの色の卵を作り、籠に入れたパスハ(復活祭用の特別のパン)のそばにきれいに並べ、一家そろって東京神田のニコライ堂に出かけたものだ。
ヴィクトリア家にはここから歩いて15分程の丘の上に住むネリコから復活祭パーティへの招待があった。「ニーナお願い! あなたの歌をプレゼントしたいの」とヴィカに言われて断る訳もない。
アパート玄関先の路上花屋でチューリップとカラーの花束を買い、ヴィカ、リューバ母さん、ナターシャ、私の4人で出かけた。ネリコの家に着くと「フリストス、ワスクレースィ!」「ワイーシナ、ワスクレースィ!」とキリスト復活のお祝いの言葉を交わし右、左、右と3回ほっぺたにキスをする。
部屋に入るとまぶしいほど真っ白なテーブルクロスの上にすでにたくさんのご馳走が並べてあり、ひとつに2本分ぐらい入りそうな赤と白の大きなワインデキャンタもおいてあった。ご馳走とワインの量からして10人ぐらいのお客様になるのだろうと想像したが、意外にも少し遅れてナターシャの幼馴染だという老人が一人来ただけだった。早速ワインで乾杯してご馳走を食べ始める。何かにつけて乾杯するから帰るまでに何十回となくクリスタルグラスのチーンといういい音が響いていた。
- 今日のメニュー
- 子牛のハーブ煮、豚肉のグリル、鶏肉のくるみソースあえ、魚のグリル(チョウザメの親せき?)
- チーズ3種(豆腐をたてに6等分にしたぐらいの大きさに驚く)
- パン2種(ショーティプリ、コーンパン)
- サラダ2種 A トマト、きゅうり、ピーマン、タラゴンの葉、スィートピーマン等が皿の上にそのままある。塩をかけて食べる。
B サラダ菜ざく切りとハーブ類のみじん切り。
- カッテージチーズと塩
- ワイン赤、白
- デザート パスハ(ケーキパン)、赤いゆで卵、紅茶、コーヒー
カッテージチーズから作る甘いねりもの等など。
ひと通り食べてみたけど、どれもとてもおいしくてつい食べ過ぎた。
64歳のネリコはでっぷりと太っている。まさにグルジアのお母さんだ。夕べのミサに出かけて朝方帰り、4、5時間の仮眠をして、それからご馳走をつくり始めたそうだ。今日の日だというのに飾りっ気もなくムームーみたいな黒の服につっかけで台所とテーブルを行ったり来たりしてみんなの世話を焼く。台所では姪っ子が手伝っていたが、帰ってきた娘夫婦ともども一度もテーブルにつく事は無かった。何かきびしい掟?でもあるのかな。
かのじいさんはと見れば食べるのも忘れて帰るまでナターシャ(70歳)に釘づけだった。「ナターシャ! 君は50年前と変わらず美しい。君を思うと胸が痛いよ」とか言いながら有名な人の詩を朗々と語り愛の歌をうたい…。
実に率直にお芝居かのごとく自分の気持ちを伝えているのを見てると、こちらまで熱くなってくる。ナターシャはとても気分がよさそうににこにこしている。
頃合いをみて「ギターを弾いて」とヴィカから合図があった。私が歌い始めるとみんな目を丸くして楽しそうに聞いてくれた。特に日本語の歌は「言葉の響きがきれい! エキゾチック」とかいって喜んでくれた。でも2回目に唄った時にはみんな酔っ払っていて1時間以上も唄わされた。
ネリコの家はかなり高台にあり誘われてベランダにでると、星をちりばめたようなトビリシの街の夜景がそれはそれは美しかった。
「素晴らしいでしょう、この眺めと空気のおいしさが気に入ってこの家を買ったのよ」と彼女は満足げに微笑んでいた。うーん確かにアパートのまわりは車が多くて排気ガスもすごい。15分ほど高台に上がるだけで青山から箱根にでもいったような不思議な感じがする。
「素晴らしいですね、私もこんな所に住みたいです」と正直な気持ちを伝えた。
10時頃には帰りたかったのにのびにのびて結局2時過ぎた。食べて飲んでの8時間ものパーティは言葉も不自由な私はとても疲れる。それにしてもグルジアのご婦人たちは元気だなあ。体力に自信があった私もすっかり参りました。
復活祭2日目、ナターシャを案内してチャヴチャワゼ大通りの薬局へ行く。通常の半分以上の店のシャッターが閉まっていて何だか淋しかった。やっぱりここは車で込み合い人がぞろぞろいないと変な感じだ。
いつも買いに行く半地下のプリ屋(パン屋)も閉まっていて、薄汚れたランニングを着てプリを焼いてるひげちょびれの青い目のたぬき腹のおじさんの顔が見れなかった。やっぱり淋しい。
いつもにこにこと愛想のいいあの吸い込まれそうな青い目に惚れちゃったかな?? 露店花屋だけはいつもより多く出ていてナターシャはすずらんを買ってリューバ母さんにプレゼントした。それから残り少ないトビリシでの休日を惜しんで昨日のネリコといっしょに旧友の復活祭パーティへと出かけて行った。
ニーナにメール mailto:nina2173@v7.com
|