私がグルジアに行くと言う話はもう半年も前から始まっていた。3月になって具体的な予定を立てヴィカに伝えると、ヴィカはすぐに前より広いアパートへ引越しした。同時に住まいから目と鼻の先にカフェのための物件も確保した。
そんな訳で私がトビリシに着いた時、まだまだ荷物も片付いてなくてドアーを入って正面のリビングルーム(大広間)の半分はリニュアル中のイス、大小各テーブル、長椅子などで埋められていた。
昼過ぎ特に決まった時間でもなくやって来るサーシャじいさんがこの仕事を請け負っているのだが何だか仕事をしてる風には見えない。「どうしてもっと早くこないの?」とリューバ母さんに聞いたら何と大学の教授らしい。本業だけでは生活が苦しいのでアルバイトに来てるのだ。
サーシャじいさんは一見70歳代に見える。グルジア人は老けるのが早いと聞いていたから60歳代かも知れない。おしゃれなストライプのシャツにコールテンの黒のパンツ、若者が履いてそうなガチッとしたミニブーツといういでたちに最初はこちらの職人さんてこんなにこぎれい?と感心してたが大学の教授と聞いて納得した。
「ニーナ見て下さいこの家具類。日本だったら今頃とっくに終わってるはずなのにグルジアタイムではなかなかはかどらなくて本当に困るわ。これが出来ないとお客様も呼べないしどうしよう」
ヴィカは毎日ぼやいている。20年も日本に住んでいたので感覚はすっかり日本人のようだ。どんな契約? 時間? それとも個数? 布の張直し、金と黒の色塗り等で1脚150円と彼がいったのを500円払うから急いで仕上げて下さいと頼んだのだ。
こんないい仕事を何故ちゃんとやらないのか不思議だったが、3時頃に出されるめずらしい食事と一杯のウォッカが魅力らしい。よくよく聞いたらリューバ母さんの目をくすねて何時の間にかウォッカのボトルが空に近かったというから驚いた。それで遅ればせながらお酒の置き場所を変えた。
サーシャじいさんは2時間も仕事をすると大広間の隣のキッチンに行き、冷蔵庫を勝手に開けて何かを飲む。それから中庭への窓を開けて煙草を吸ったりしてしばらく休憩を取る。さてそれからひとふんばりと思いきや妻の具合が悪いのでとか言ってさっさと帰ることもたびたび。
これじゃあ仕事にならない。加えて経験が浅いせいか仕上げが悪い。ぶつぶつ文句をいいながら夜になるとヴィカが手直ししている。見かねて、いい加減時間の駄目押しをしたらどうかと提案した。
翌日、この数週間我慢していたものがいっきに噴出たヴィカはあと2、3日で終わらなければもう貴方は必要ないわ。「見てこの仕上げ! これでプロといえるの? プライドがあるならきちっとやり直して下さい!」とまくしたてた。
これがきいたらしい。携帯でもかけたのか、しばらくして帽子から靴までミリタリールックに身をかためた30歳代ぐらいの息子とやらがやってきて手伝いを始めた。おっ!こりゃ仕事がはかどるかも知れないと期待したが、きっと別の仕事のあい間にでも来たのだろう。やっぱり2時間もしないで帰ってしまった。
しかしサーシャじいさんはめずらしく6時過ぎまでがんばった。いやはや何時終わることやら。
ニーナにメール mailto:nina2173@v7.com
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