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日本のマスコミと「五四」

2005年05月22日(日)
早大アジア太平洋研究センター特別研究員 文 彬
 きょうは早大アジア太平洋研究センター(WJCF)特別研究員となった文彬さんがWJCFに最近書いた中国での反日デモに関するコラム3本を掲載したい。(萬晩報主宰:伴武澄)

 ■抗日記念日でない「五四」

 5月4日夜、ネットで読んだ中国動静を伝える共同通信記事のタイトルは「中国、反日デモ発生なし 抗日記念日に厳戒態勢」であった(共同通信- 5月4日20時17分更新)。

「5・4運動」記念日(中国では略して「五四」と呼ぶことが多い)を「抗日記念日」を呼ぶことに違和感を覚えた筆者はその後テレビ東京のニュース番組ワールドビジネスサテライトでも「抗日戦争記念日」という字幕を見た。そして、翌日多くの大手新聞も同じような表現を用いて記事を掲載し、用語解説もこの線を貫いている(例:中学生向けニュース毎日中学生新聞ニュースの言葉)。日本のマスコミでは概して「五四」は即ち抗日記念日となっている。

 しかし、これは読者や視聴者に対する恐ろしい誤導(ミスディレクション)である。抗日記念日や抗日戦争記念日でこの日を呼ぶのは、恐らくこの時期の日本マスコミだけではないか。国民の対立感情を煽り立てると指摘されても仕方がない考慮を欠いた表現である。中国では「五四」はまず若者の祝日・「五四青年節」であり、抗日記念日と呼ばれるのは7月7日(盧溝橋事件記念日)のみである。

「五四」のきっかけは「パリ講和会議」が不平等条約廃棄を求める学生デモだったが、「五四」そのものを「抗日」で締め括ることは事実を無視した激しい偏見だと言わざるを得ない。そもそも共産党の教育の中でも「五四」は「帝国主義反対、封建主義反対、思想解放、新文化提唱」の運動、「五四精神」は「科学と民主」と定義されており、ことさら「抗日」を強調するものではない。

 正確性を欠くセンセーショナルな報道は火に油を注ぐだけになるが、企業の中国情報収集はいっそう慎重にならなければならない。(5月7日)

 ■時代錯誤の抵制日貨

「抵制日貨」=日本製品ボイコット、これは今回の反日デモに良くあるスローガンの一つである。日本のマスコミではよく「愛国無罪」というスローガンが取り上げられているが、中文googleで検索してみると、「愛国無罪」の5万件に対し、「抵制日貨」はなんと127万件にも上っている。

 デモでは「日本の常任理事国入り反対」「日本製品ボイコット」「魚釣島を中国に返せ」などのスローガンの書かれた横断幕や中国国旗が掲げられ、抗日戦争を題材とした国歌が歌われた。九日北京での抗議デモでは、デモ隊が大使館前で警備する機動隊の部隊にせまり、ペットボトルやコンクリート片などを大使館に向かって投げつけた。また各地のデモでは日系スーパーなどが抗議行動の対象とされた。

「抵制日貨」は、1919年6月、山東省のドイツの権益を日本が継承することを定めたベルサイユ条約に反対する北京学生の反対運動から急速に反政府運動として全国に拡大したいわゆる「五四運動」のなかで掲げられたスローガンである。しかし、植民地化反対の最も有効な手段として使われていた「抵制日貨」は、今日では「憤青」達の時代錯誤以外の何者でもない。

 中日の年間貿易総額は1700億ドル、日本からの直接投資累計総額は666億ドル、進出日系企業は約2万社、日系企業で働く技術者は約920万人、日本製品ボイコットと言っても、その日本製品そのものが中国で中国人労働者の手によって造られているかも知れない。その謀叛の行動は双方の国民にとって百害あって一利なしである。

 反日デモの火が燃え広がらないうちに必死に消そうとしている中国は今、商務部部長(大臣)の薄煕来氏はじめ多くの有識者を表に出して、「抵制日貨」の害を説いている。(4月27日)

 ■暢気だった北京

 4月10日午前北京へ飛び、17日午後大連から東京に戻ってきた。出張期間はちょうど反日デモの最中とダブっていた。だが、直接デモ隊に遭遇したこともなかったし、訪問先々でデモが話題となっていたが、緊張感も危機感もまったく感じられなかった。私が見た北京も大連もいつもと同じくどこまでも暢気な風景が広がっていた。−−時には公園から老人合唱団の歌声が聞こえていた。

 帰ってからテレビを見てびっくりした。テレビの報道よりあたかも中国各都市でデモ隊が練り歩き、いたるところで破壊活動が行われている印象を受けている。中国では報道規制が敷かれ、デモのニュースはさほど流されなかったこともあるが、それにしても事実と報道の温度差に戸惑いを禁じえなかった。

 そう思っている人は決して中国人の私一人ではない。「ぺきん日記 / 中国・北京より」(http://beijing.exblog.jp/)という日本人留学生や駐在員によるブログがある。随所にその「少なからぬ北京在住の日本人が感じる"温度差" 」が書かれている。

「(デモ発生の)4月9日でさえ、ごく一部の人たちと一部の地域を除けば、ごくフツーの北京の一日だった。……」

「きのう(4月10日・日曜日)の午後、私は北京市東部にあるイトーヨーカ堂に買い物に行き(中略)、北京の人たちはいつもと同じように買い物をしていました。……」

「この日は老舗のお茶屋さんの隣の茶館に飛び込みで入り、撮影をお願いして撮らせてもらいましたが、「あんたたち、日本人?日本人は礼儀正しいね」とほめられ、親切に助けてもらって感謝。……」

 企業の海外リスクマネジメント担当者が、一方的にセンセーションを煽るテレビのみではなく、現地の日本人の生の声も常に聞く耳を持つ方がより正確な状況把握ができるのである。(4月24日)

 文さんにメール mailto:bun008@hotmail.com
 WJCFコラム http://www.wjcf.net/

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