TopPage
 Yorozubampo Since 1998
サイト内検索 ご意見 無料配信


「愛ちゃん」人気に便乗、高体連の「ルール違反」

2005年03月13日(日)
萬晩報通信員 成田 好三
 西武鉄道グループの総帥だった堤義明・前西武鉄道会長の逮捕関連ニュースと、ニッポン放送株の争奪戦をめぐるニュースで紙面が埋め尽くされている感がある新聞で、読んでいるうちに思わず吹き出してしまうような面白い記事に出合った。

 ニッポン放送株の争奪戦では、ライブドアの堀江貴文社長とフジテレビジョンの日枝久会長が、互いに相手の株取得方法を「ルール違反」と非難しているが、この記事の当事者が行った「決定」こそ、あからさまなルール違反である。当事者たちは全国の高校教師で組織する団体の役員たちである。面白がったり、笑って済ましたりできる話ではない。

 硬式野球を除いて、すべての高校スポーツを統括する団体である全国高校体育連盟(高体連)は3月5日、理事会・評議員会である決定をした。

 翌6日付朝日はスポーツ面で、「人気を配慮 愛ちゃん特例」「高校総体出場 プロを初承認」の見出しを付けた小さな囲み記事を載せている。短い記事であり、高体連の決定を無視した新聞も多かったので、記事全文を書き写す。

「全国高校体育連盟(高体連)は5日、東京都内で理事会と評議員会を開き、原則としてアマチュア選手だけが参加できる全国高校総合体育大会(高校総体)に、卓球のアテネ五輪代表、福原愛(ミキハウスJSC、青森山田高1年)が特例として出場できることを正式承認した。プロ的活動をする選手の出場を認めるのは初めて。高校総体の競技者規定は肖像権の広告使用や企業からの金銭的支援などを禁止、プロ的活動をする福原は規定に触れている。しかし、高体連は福原の全国的人気や、出場による大会競技レベルの向上、さらにプロとアマの境界線があいまいになったスポーツ界の現状を考慮。県予選からの参加や、ユニホームにスポンサー名を入れないなどを条件に特例を認めた。福原が参加するかは、現時点では未定。」

 卓球の「愛ちゃん」こと福原愛は、プロゴルフの「藍ちゃん」こと宮里藍とともに、スポーツ界だけでなく国民的アイドルである。高体連の理事や評議員たち、つまり高校教師たちは、愛ちゃん人気にあやかって高校総体を盛り上げたいと考えたのだろう。

 高体連のホームページを見たが、5日の理事会・評議員会の協議、決定事項は何も載っていない。全国で何百万人もの高校生選手を統括する彼らは、自らの協議、決定事項を部外者に告知する必要性などまったく感じていないようである。

 しかし、この決定は明らかなルール違反である。高体連にはアマチュア規定が存在するからである。

 高体連の「競技者及び指導者規程」は、第1章(総則)第1条(目的)で、「その活動はアマチュア・スポーツマン精神に則り実施されなければならない。」とうたっている。さらに、第2章(競技者)第3条(競技者のあり方)では、「スポーツ活動を行うことによって、物質的利益を自ら受けない。」「スポーツ活動によって得た名声を、自ら利用しない。」と規定している。

 福原愛は、記事にある「プロ的活動」をする選手ではなく、明らかにプロである。企業と所属契約を結びCMに出演している。

 高体連が高校総体に福原愛の出場を希望するのであれば、まず自らつくったルールを改正してからすべきである。「特例」を設けて出場させることなど、未成年に社会のルールを指導する高校教師がやるべきことではない。

 いまや高校生プロは例外的存在ではなくなった。宮里藍は高校時代にプロの出場する大会で優勝して、その特権を生かして卒業前にプロになった。トリノ冬季五輪でメダル獲得が期待される、全国的アイドル候補であるフィギアスケートの安藤美姫も高校生だが、トヨタ自動車の愛知万博関連のTVCMに出演、TVのバラエティー番組に顔を出している。

 国際競技スポーツの世界では、アマチュアの概念は存在しない。五輪を統括するIOCも、サッカーW杯の元締めであるFIFAも、そして国際陸連など主要な競技団体も規約からアマチュア規定を削除している。日本の競技団体でも陸連などが、遅ればせながらも、国際的流れに沿って規約からアマチュア規定を削除している。

 アマチュアの概念は、日本では奇妙なほどに神聖化されてきた。しかし、近代スポーツが生まれた欧州では、アマチュアの概念は、貴族階級が競技から労働者階級を閉め出すためにひねり出した、差別主義的概念である。

 国際的にも、あるいは日本でも五輪に出場するようなトップ選手はプロ化している。アマチュアでは五輪でメダルを獲得するどころか、五輪に出場することさえ、ほとんど不可能である。

 しかし、高校生の競技会が、プロの出場を認めるかどうかは別問題である。プロになった日本代表レベル、世界レベルの高校生が高校生レベルの競技会に出場する価値を見いだすかどうかもまた、別問題である。

 高体連は、安易に「愛ちゃん」人気に便乗することはやめるべきである。組織内でアマチュア規定を削除するかどうか論議し、高校生プロの出場について決定し、自らの判断とその理由をきちんと公表すべきである。(2005年3月12日)

 成田さんにメールは mailto:narita@mito.ne.jp
 スポーツコラム・オフサイド http://www.mito.ne.jp/~narita/

TopPage

(C) 1998-2005 HAB Research & Brothers and/or its suppliers.
All rights reserved.