日本最大の娯楽産業であるプロ野球ほど外部に対して閉ざされた世界はない。外部とのかかわりを拒否する「閉鎖系」システムは、球界を構成する選手、球団、機構、すべてに及んでいる。こうした「閉鎖系」システムを、外部に対して開かれた「開放系」システムに変革しない限り、球界再生への道はない。
日本独自のスポーツ文化である大相撲を除けば、日本の人気プロスポーツは、プロ野球のほかサッカー・Jリーグ、男女のゴルフツアーがある。ゴルフのオープン・トーナメントにはプロに交じってアマも出場する。女子ツアーでは昨年、当時高校生だった宮里藍が優勝した。プロとアマは同一の条件とルールのもとでプレーする。その違いは、アマは賞金を受け取らないことだけである。
Jリーグでは、ホームタウンやキャンプで、Jリーグ球団と地元やキャンプ地の高校生チームが練習試合を行う。天皇杯では、日本のトップリーグであるJ1チームから高校生チーム(高校生世代のクラブチーム)まで同一のトーナメントを戦う。
高校生や大学生がJリーグのゲームに出場することができる。東京ヴェルディの森本貴幸は中学生でJ1の試合に出場した。プロとアマの違いは、プロ登録しているかどうか、プレーすることによって報酬を得るかどうかだけである。
アマスポーツであるバレーボール、バスケットボール、ラグビーのトップリーグでは、チームはまだアマのままだが、チームと契約したプロがいる。アマからプロに移行する過渡期にある競技では、プレーすることによって報酬を得るプロが存在している。ラグビー日本代表の大畑大介、女子バレーボール・五輪代表のセッター、竹下佳江は所属チームとプロ契約を交わしている。
スポーツの最高の舞台である五輪にアマの概念は存在しない。いまからちょうど30年前(1974年)、IOCは五輪憲章から「アマ規定」を削除したからである。それ以降、五輪にプロの出場が可能になった。アテネ五輪に出場した世界各国の有力選手のほとんどはプロである。
野球では、サッカーのように、高校生や大学生、社会人がプロとともに練習することはない。アマ球団がプロ球団と試合することもない。アマとプロの間に分厚い壁があるからである。
プロ(球団)と高校生(高校チーム)の接触は禁じられている。プロは母校のグラウンドに足を踏み入れることさえできない。禁止されている「直接指導」に該当すると指摘される恐れがあるからである。ドラフトで指名される高校生は、それ以前に退部届を出す。高野連が部員の「身分」のままでのプロとの接触を禁止しているためである。プロ入りするその高校で最も優れた能力をもつ高校生は、卒業する3月まで部員ではいられない。彼らは「中途退部者」扱いになる。
アマを強引にプロ球団が引き抜いたことから起きた「柳川事件」(1961年)により、プロ・アマの関係が断絶するという歴史があったにせよ、「柳川事件」は40年以上前の出来事である。プロ・アマ球界ともこうした異常な関係を抜本的に改善する努力を怠ってきた。
近鉄とオリックスの合併問題に端を発した、もっと正確に言えば今年1月の近鉄の球団命名権売却問題に端を発した球界再編問題では、球団の赤字経営やその原因の1つとなったドラフト制度の改悪に焦点が当たっている。しかし、それらは「二次的」問題である。時代遅れのプロ・アマ対立をいまも引きずる、アマ球界を含めた球界全体の時代遅れのシステムにこそ根源的な問題がある。(2004年9月21日記)
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