日本の金融をめぐる動きがなにやら騒がしくなった。田中真紀子外相の更迭をきっかけに小泉内閣の支持率が急降下。財務省は銀行の持ち合い株式の受け皿となる「銀行等保有株式取得機構」に対して2兆円の資金を準備、週明けから株価維持に乗り出すことを決め、銀行への公的資金注入も検討段階に入った。
マスコミは円安、株安、債券安のいわゆる日本売りが始まったと報じているが、本当にトリプル安なのだろうか。政府・日銀はつい最近まで円安を歓迎する姿勢だったし、日経平均株価だって昨年の9・11後の株価を少し下回った水準でしかない。長期国債だって下落したといっても金利はたったの1.5%なのだ。金融機関が危ないのは今に始まったことではない。大方の読者は狐につままれたような気分なのではないだろうか。
●7.5兆円の公的資金投入時と似た状況
10年物長期国債の市場金利は昨年1.2%程度で推移していた。これが年明け以降、1,5%に急上昇した。政府にとって国債金利の上昇こそが最重要な問題なのである。
実は長期国債の金利をめぐって主要15銀行に7.5兆円の公的資金を投入した3年前の1999年と非常に似た状況が生まれているのだ。98年末に当時の宮沢蔵相が「これ以上財投が国債を買い続けることは出来ない」と発言したことを契機に、1.5%程度だった10年物国債の市場金利が99年1月には2%を超える水準にまで売られた。
今回は国債相場の急落を誘う閣僚発言はなかったが、田中外相の更迭をきっかけに国債金利が一気に1.5%を超えた。市場では「田中外相の更迭で小泉内閣の改革路線が揺らぎ、国債の増発を伴う従来型の景気対策を求める声が自民党内に台頭するのではないかという懸念」と説明している。しかし本筋は違う。財務省が10年物国債のシンジケート団(シ団)引き受けを段階的に廃止し、すべての発行を公開入札にすると発表したことが大きな影響を与えているのだ。
政府の借金の大半は10年物国債によって賄われている。これまで月々の発行額の6割を公開入札で発行、残り4割をシ団引き受けとしていた。公開入札で売れ残りが出た場合はシ団が売れ残り分も引き受ける慣行となっており、シ団引き受けが国債金利の安定に一定の役割を果たしてきた。
そのシ団引き受けを廃止し、全量入札制に移行すれば、売れ残りが生じることも避けらない。財政資金の確保を優先すれば、金利上昇は不可避となる。現実に80年代のアメリカは国債発行の未消化にたびたび泣かされ、10%を超える長期金利が続いた。
シ団引き受け廃止をうたえば、金利上昇を招くことは素人目にも明らかなはすだ。それをあえて「2月危機」「3月危機」が叫ばれているこの時期に打ち出したのだから3年前同様に相当な確信犯である。
●公的資金投入で国債市況も安泰?
3年前、危険水域とされた長期金利は2.0%だった。今回は1.5%でも危険水域だと認識された。たった1.5%の水準で政府が敏感に反応するのは、それだけ日本の借金財政が脆弱な基盤の上で成り立っているという証拠でもある。400兆円の国債発行残を抱える日本にとって1%の金利上昇は4兆円の財政負担の増加につながるから、金利が0.3%も違えば負担増は1兆円をゆうに超え、財務省にとって見逃すことはできない事態となる。
小泉首相が掲げた「国債発行30兆円」という上限設定でさえ、とんでもない借金財政である。それでもこれまで金利上昇を抑えることができたのは、低金利でも金融機関が文句も言わずに国債を買ってくれていたからだが、銀行にとって運用先に国債ばかりが増える経営は決して健全ではない。円の水準が中期的に「140円だ」「160円だ」といわれている時代に国債による運用枠を絞ったとしても不思議でない。底流に銀行の国債離れが進んでいるといっても過言ではないのだ。
そこで銀行への公的資金投入が再浮上する。3年前の公的資金の投入は金融機関の資本増強が名目だったが、7.5兆円の資金のほとんどが国債購入に充てられ、結果的に国債市況の「安定」に大いに役だった。政府が借金(国債発行)をして銀行に「投資」するというおかしな構図の再来だ。
政府が銀行の経営不安を煽っているとはいわない。しかし降ってわいたような「2月危機説」「3月危機説」はなにを意味するのか。株式取得機構の動きも含めてわれわれはじっくり考えなければならない。
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