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東京都が電力産業に進出する衝撃
2001年12月06日(木)
萬晩報主宰 伴 武澄

 東京都と東京ガス、シェルグループ子会社が3日、埼玉県三郷市にある東京都の浄水場で発電事業を立ち上げると発表した。朝日と日経が翌4日朝刊の経済面3段で報じている。後の新聞はベタ記事扱いだったが、筆者はこのニュースにけっこう興奮した。全国の自治体が発電事業を起こして地域の企業や家庭に供給すれば、電力会社の地域独占をいとも簡単に突き崩せるはずと考えるからである。

 東京都があえて事業に進出するのは東京電力の電力料金が高すぎるからである。電力料金の問題は10年以上も前の日米構造協議で改善を求められながら一向に是正されない課題の一つである。このほど倒産したアメリカのエネルギー企業エンロンが日本政府に販売の自由化と発電・送電の分離を求めてようやく規制緩和に動き出しているものの、地域独占の壁を突き崩すのは容易でない。

 東京都の計画は15−20万キロワットのガスタービン発電機を設置して発電。約2万5000キロワットを浄水場が利用するほか、民間にも販売する。投資金額は120−160億円で2005年度から発電を開始する。この発電規模だと、都庁本庁舎など東京都の大規模施設の電力すべてを賄うことが可能になるそうだ。

 1990年代後半に始まった電力販売の自由化というものは実は虚構であって、発電事業はもともと自治体も参画していた。筆者の地元の高知県ですらいくつかの水力発電所を持ち、長年、四国電力に売電してきた。民間企業だって「共同火力」といってコンビナートでは電力会社との共同出資の発電所は少なくない。

 問題はコスト意識だった。ただ漫然と売電していただけで、自治体の施設で使用するという発想はなかった。もちろん財政が許していたからだった。しかし緊縮財政が求められるこれからの自治体にとって自前の発電所の確保は有効な歳出削減策のひとつになるという意識を持ってもらいたい。

 ●都市型発電は一石三鳥の効果

 電力業界をめぐる話題として90年代を通じて関心を持たれたのが、企業による自家発電である。円高によって日本の電力料金が突出して高くなった結果、企業の防衛策として自前の発電所が工場や事業所に次々と建設された。大規模な地域開発では必ず一帯のビルに供給するための中規模の発電設備が併設され、郊外型の大型スーパーでも5000キロワットクラスの発電機が不可欠となった。

 発電所は規模が大きくなるほど発電効率が高くなるのは当然だが、発電所の立地は大型になればなるほど需要地から離れたところに建設することを余儀なくされ、送電コストが余分にかかる。ちなみにわれわれが月々支払う電力料金の約半分は送電コストといわれる。だから都会のど真ん中で発電すれば電力料金は半分で済むことになる。

 コンピューターの世界が汎用の大型機からパソコンに移行したように、電力もまた中小型機を需要地にたくさん建設すれば、発電効率が多少落ちたとしてもコストダウンにつながることは間違いない。

 萬晩報の皮算用はまだある。自治体には土地開発公社が抱える未利用の工業団地が多くあるはずだ。仮に電力料金を半額にすれば電力多消費型の産業の誘致にはもってこいだし、当然そこで雇用も生まれる。県民や市民もそのおこぼれに預かれるのだとしたら一石三鳥というものだ。東京都でいえば、臨海副都心や旧羽田空港跡地でどんどん発電してほしい。

 環境問題をうんぬんする方も少なくないと思うので、そちらの方にも言及しておくなら、あなたの近くの大型ショッピングセンターのほとんどではすでに分からないところで自家発電が行われているということを知っておいてほしい。今時の中小型の発電機はもくもくと煙などは出しはしないし、近所に騒音をまき散らすこともない。

 参考までに言えば、3000ccで300馬力の高性能エンジンを発電能力に換算すると225キロワットとなり、ほぼ70件分の民間住宅の電力を賄うことが可能となる。東京都が三郷市に建設する発電所は民間住宅の電力需要に換算するとほぼ6万件(約24万人)分となる。

 一番考えてほしいのは、官業が不効率がから民営化を進めろという小泉内閣の下で、東京都という「官」が電力会社の非効率に立ち向かおうとしているという、ほとんどパロディーのような世界にわが日本は突入しようとしているということである。

 【参考】
 1999年07月20日 沖縄電力に匹敵する神鋼の発電事業の能力
 1999年07月26日 発電余力を持て余す素材産業?
 1999年08月23日 団地で自家発電するという真夏の夜の夢

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