Yorozubampo

  新日鉄の前門のトラ、後門のオオカミ

  2001年11月29日(月)
  萬晩報主宰 伴 武澄

 新日鉄の経営が危ないなどとはだれもいわない。歴代の経団連会長を出してきた日本の屋台骨の企業が揺らいでいるといったら言い過ぎだろうが、世界の鉄鋼業界だけでなく日本経済に君臨する経営力を維持しているかどうか問われれば、間違いなく「揺らいでいる」と言わざるを得ない。

 粗鋼生産規模では3年前に韓国の浦項総合製鉄(POSCO=ポスコ)に抜かれ、フランスのユジノールに迫られている。新日鉄は1970年に八幡と富士が合併して世界最大の製鉄会社にのし上がったのだが、それから約四半世紀を経て、ヨーロッパの鉄鋼業界では国を越えた連携統合が進み、韓国では大規模な新鋭製鉄所が誕生、ポスコが世界の先端に躍り出るなど世界の鉄鋼業界は再び規模拡大の競争時代に突入している。

 日本だけをみていては世界経済は何も分からないことは昔から当たり前のことではあったが、これからはアジアをウォッチしないととんでもない間違いを起こすということになる。

 ●トン当たり2倍の価格を維持する新日鉄

 新日鉄の年間粗鋼生産は2500万トン台。対するポスコは2600万トン台。抜かれたといってもほぼ拮抗しており、生産に占める高付加価値鋼材の割合は高いことは確かだ。だがそんなことであぐらをかいているようでは孤塁は守れない。

 両者の鉄鋼部門の売上高を比較すると、新日鉄1兆8500億円、ポスコは1兆700億円である。新日鉄がトン当たり平均売り上げがほぼ2倍だから、「高付加価値製品の比率が高い証」とみることもできようが、筆者がそうはみない。高いコスト体質がそのまま売上高に反映しているとみたい。日本の自動車会社がポスコの自動車用鋼鈑を購入したという話は聞いたことがないから、たぶん日本国内の製造業が韓国より高い鉄を買わされていることになる。

 本来、自由貿易国家ではこれだけ円高が進めば、輸入品と競合して価格破壊が起きるのだが、どういうわけか日本では起きていない。いくら高品質だといっても自動車用鋼鈑ばかりを売っているわけではない。隣の国の鋼材と比べて2倍の価格を維持できるということは普通ありえない。

 実はこのほぼ2倍という数値は素材でも産業機械でも同じ傾向があるらしい。単に1ドルが200円台だった時代の価格が国内的にほぼそのまま保たれているだけの話で、国内産業を維持するために日本の企業同士が互いに国産品を愛用し続けているということのようだ。日本の素材産業が国家的に国際競争力を低下させてきた一番大きな原因が、こうした取引慣行にあることは10年以上も前から指摘されてる。

 市況価格は内外変わらないではないかという疑問もあろうが、新聞に掲載されている市況価格はあくまで「店売り」の価格で、大手企業同士がやりとりしている価格はまったく別物なのである。

 ●10倍以上の最終利益を稼ぐポスコ

 一年前の決算になるが、そんな高い価格で販売している新日鉄の最終利益が111億円で、ポスコは1430億円も稼ぎだしている。新日鉄の場合、退職金基金の積立不足を埋め合わせたため単純比較はできないが、10分の1以下ではあまりにもなさけない。ちなみにポスコは10年来一貫して1兆ウオン(約1000億円)レベルの最終利益を出してきているのに、新日鉄は500億円を超えたことほとんどない。

 日韓の鉄鋼大手の最終利益の格差に関して、多くのアナリストたちは人件費の違いが格差となっていると論評している。しかしこれもすべてではない。違いは借金の額の差ではないかと筆者は考えている。

 新日鉄の有利子負債は過去から比べて減っているとはいうものの連結ベースで2兆円をゆうに超えるのに対して、ポスコは3−4000億円でしかない。株主資本率で比べても、新日鉄21%に対してポスコは46%と余裕ある経営を続けている。簡単にいえば、新日鉄が間接金融にどっぷり浸かっているのに対してポスコは逆に直接金融への依存度が高いということになる。

 バブル時に新日鉄は市場から5000億円内外の資金調達を実施した。おかげで資本金が膨張、株式数が700億株に急増した。かつての経営トップが「税引き前700億円の利益がないとたった5円の配当すらできない」と嘆いていたことを思い出す。

 借金体質で新たなブレイクスルーが出来ないのは鉄鋼業界に限ったことではない。ポスコに負けない新日鉄の新しい体質改善を早くみたいものだ。


 トップへ 前のレポート

(C) 1998-2001 HAB Research & Brothers and/or its suppliers. All rights reserved.