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100年前、ウィーンで電話がラジオだった

2000年03月31日(金)
萬晩報主宰 伴 武澄



 100年前、「電話の番組表」というのがあったそうだ。オーストリア・ハンガリー帝国の首都、ウィーンでの話である。「プレジャー・テレフォン」という事業があったという。アメリカのグラハム・ベルが電話を発明したのは1876年だが、創生期に電話がどのような使われ方をしたのか実はわれわれはよく分かっていない。

 ●プレジャー・テレフォン

 「プレジャー・テレフォン」事業は、テレビはおろかラジオという言葉もない時代に貴族の邸宅と劇場を専用回線で結んで娯楽番組を「配信」していた。当時のヨーロッパにはコインを入れると音楽やニュースを聞くことができる「電話装置」もあったというから驚く。

 今様にいえば、インターネットそのものである。

 長いこと、電話回線は個人と個人とをつなぐメディアで、電波はマスのメディアの領域だった。インターネットの登場によって1990年代に、この境界がなくなり、単なる電話回線が「IT革命をもたらすネットワーク」に大きく変身したと考えられている。

 だが果たして電話回線は変身したのだろうか。そんな疑問をもっていたところに「100年前の電話番組表」の話を知って、われわれの思考が100年間、停止していただけなのだと合点した。思考が停止していたのは多くの国で電話回線が国家管理に置かれていたからからなのだろう。そんなことも考えた。

 ●解かれた国家独占の呪縛

 「電話回線」の面白活用が始まったのは、各国での電話電信会社の民営化と付合している。これは偶然ではない。インターネットの始まりは1960年代のアメリカでの軍事情報の分散管理にあると説明されているが、本当のところは、電話回線が国家の呪縛から解かれたところにインターネットの原点がある。

 国営電話会社の民営化の背景にはもろもろの事情がある。アメリカはAT&Tという民間企業が電話事業を行っていたが独占事業で、ほかの先進国の国営とあまり変わりのない運営だった。回線の利用には多くの規制があった。

 その間に、多くに民間企業が独自に「専用回線」を持つようになっていた。公衆回線の料金が高すぎたため、1980年代後半には電話料金がかさむ多くの大手企業にとって専用回線の利用が不可欠になり、衛星を利用した回線の使用も進んだ。

 国家独占の市場にいつのまにか「専用回線」という形で多くの民間企業が参入する形態が出来上がっていたといってもいい。

 4、5年前に電気通信の専門家に「民間の専用線ってのはひょっとしたらNTTに匹敵する通信容量をもっているのではないか。第二電電を含めればNTTなんてマイナーになる可能性がある」と質問したことがある。答は分からないということだったが、電力会社、JR各社、民鉄は大規模な光ファイバー網を持つし、大手事業会社や商社は衛星も含めた巨大なネットワークを持っている。

 問題はその巨大な通信回線が容量的にも時間的にも十二分に活用されていないということだった。ここでもわれわれは「NTTの独占」という偽りの情報に惑わせられていた。NTTが独占していたのは「最後の1マイル」と呼ばれる「市内回線」だけだったのである。

 ●半額になってもおかしくない市内回線料

 ここにも大きな幻想があった。2年前に郵政省は「公−専−公」という通話を開放した。つまり民間の余っている回線の両端を公衆回線につないで金儲けをしていいということだった。公衆回線とは市内回線ということである。

 これを利用すると国内に専用回線網を持つ企業はみんな電話会社の長距離線を使わずに、外部の顧客と通話が出来るはずだった。背景にはいかに多くの専用線が無駄に使われないまま放置されていたかという日本的問題があった。

 しかしせっかくの「公−専−公」開放というチャンスだったが、その後、「公−専−公」でもうけたという話は一切聞こえてこない。多くの企業が参入したものの、市内回線への接続料があまり高く、メリットはなかったということのようである。

 日本は通信革命で出遅れたといわれているが、光ファイバーの敷設が遅れているわけでもなんでもない。その原因をたどると「市内回線」の高さにたどり着く。

 インターネットの利用でNTTの市内回線の利用は倍増しているはずである。電話は回線に微弱な電流が流れているだけで、回線の利用に応じてコストが増えるわけではない。倍増しているならば、利用料金は半額になってもおかしくない。3倍増ならば3分の1で済むはずである。

 日本ではNTTの呪縛が続くのである。


 1999年07月01日 NTT再編(1)--不揃いの人員配置
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