早ければ来年4月から宮城県で水道が民営化される。言葉は悪いが、「やっぱり仏ヴェオリア社が出てきた」。先週、仙台の知り合いの弁護士から電話があり、最後まであきらめず反対運動を続けると言ってきた。

20年前なら僕も民営化に賛成していたかもしれない。2年前、僕は年柄もなく高知市議選に立候補した。理由はただ一つ。「政府が進める水道の民営化に反対の声を上げる」ためだった。その時は浜松市の上水道がヴェオリア社などに買収される寸前だった。市民による運動によって、鈴木市長は民営化を断念せざるを得なかった。

宮城県の村井知事は民営化の「フロントランナーになる」と豪語している。民営化によって本当に宮城県の未来が明るくなると信じているのだとすれば、ノー天気と言わざるを得ない。コンセッション方式による民営化は設備そのものは自治体が保有し、運営権だけを民間に委ねるものだとされるが、問題となっている老朽水道管の交換は相変わらず行政負担となる。これだけでもコンセッション方式は眉唾だと言わざるを得ない。企業はおいしい部分だけを得ることになる。

問題はたくさんある。民営化されたとたん、水道は情報公開の対象とならなくなる。企業経営は秘密のベールにつつまれる。ベルリン市の水道は今、公営に戻っているが、ヴェオリアらが経営していた時代は市議会議員にすら情報が秘されていた。どれだけ利益があることさえ分からなかった。勇気ある市議が裁判に訴えて情報公開を勝ち取ったが、勝利の対価は1500億円にもおよぶ損害賠償費用を必要とした。

20年という契約期間中、市民は自分たちの水道の経営内容を知らされないのである。パリ市は10年前、20年の契約更改時に公営に戻す公約を掲げた勢力が市長選挙で勝利し、損害賠償の負担なく経営権を取り戻した。その結果、水道料金は十数%も安くなった。

宮城県の場合、コンセッションで売却対象となるのは、上水道が大崎広域水道事業など2事業、下水道が阿武隈川下流流域下水道事業など4事業、工業用水が仙台北部工業用水道事業など3事業。対象区域内に約190万人が居住する。

「県の試算では、従来方式で3事業を20年間運営する総事業費は3314億円だが、コンセッション導入で247億円を削減できるという。受託企業にはそのうち200億円を削減してもらう計画だ。村井嘉浩知事はコンセッションにより「水道料金の値上げを抑える」と説明する。20年後に2割増えると予想される水道料金の引き上げ幅を、コンセッションで1割程度に抑えたい考えだ。」(日経新聞)

 昨年9月議会で民営化条例が成立し、今年3月から入札企業が公募され、3社が参入した。その結果、水処理会社「メタウォーター」が優先交渉者に選ばれた。フランスのヴェオリアグループの関連企業「ヴェオリア・ジェネッツ」、オリックスなど10社で構成するグループ。同グループの提案によれば20年間の水道事業費が287億円削減できると見込む。

 ただこれは現時点での計画にすぎない。この30年、世界中で行われた民営化ではどこでも「経費削減」がうたわれたが、結果、ほとんどの地区で値上げが行われている。ヴェオリアとスエズが経営するマニラ市水道は5-6倍に跳ね上がっている。

 一番の問題は民営化後、経営がうまくいかなかった場合、水道事業が転売される可能性があるということである。サッチャー首相によって民営化されたロンドン水道はドイツ企業に転売され、現在はオーストラリア企業が運営している。国防に関連する企業や放映権がからむ放送事業などには外資規制がかかっているが、日本の水道事業は全く無防衛だ。その証拠にフランスのヴェオリアを中心とした「メタウオーター」が優先交渉者となっている。メタウオーター社が経営難に陥り、社会主義国の企業に宮城県水道の経営権を売却する可能性だってないわけではない。村井知事はそんな事態になった場合、どう責任を取れるのか。

 このままでは6月県議会でメタウオーターへの経営権移譲が成立してしまう。今からでも遅くない。宮城県民は水道民営化をストップさせてほしい。水道民営化というウイルスを宮城県から他の都道府県、市町村にまん延させないでほしい。