神奈川新聞1988年10月15日


 山東半島保北側の開放都市、煙台市では経済開放を模索する中国の一つの側面を見た。煙台市郊外で日中合弁のワイン造りに乗り出した日中友誼葡萄公司で、日本人の塚本俊彦社長が昨年暮れ、副社長以下経営の足を引っ張っていると判断した人の解雇を断行した。この結果「企業の役に立たない者はやめさせられる」ことが分かって、社内にかつてない緊張感がみなぎり「経営は一気に軌道に乗った」(同社長)という。
 社会主義国では世ほどのことがない限り従業員の解雇は実現したい。
 人事刷新が当然に
 実はこの回顧劇の裏には愈正声煙台市長の並々ならぬ協力があったようだ。「われわれは山梨の中小企業。8億円もの金をつぎ込んだこの事業に失敗したら屋台骨が崩れてしまう」と塚本社長の必死の説得で愈市長が前面に出て合弁会社の人事刷新に乗り出した。
 このことについて愈市長は「外国企業との提携では、中国側がどれだけ有能な人材を提供できるかが勝負。能力のない人はやめてもらい、有能な人材を登用するのが煙台市のやり方」と自信たっぷり。
 中日友誼葡萄公司の解雇をきっかけに、煙台市では今年に入って企業の人事刷新が一気に進みつつある。「もはや外国系企業では解雇は当たり前。今では中国企業でも人事刷新は浸透しつつある」(孫佑天煙台日報編集主任)との見方があるほどだ。
 外資導入では遅れ
 山東半島はかつてドイツや日本の支配下にあったこともあり、繊維や食品産業が発達。石炭、石油といった資源にも恵まれ、中国の中でも一、二を争う経済発展への潜在力を持つといわれている。しかし、ここ数年、外資導入に関しては中国南部や天津、大連といった先進地区と比べれ「「遅れをとっている」(青島の日本商社筋)ことは否定できない。
「青島開発区にすでに74の企業誘致が決まっている」(汪少華開発区管理委員会建設部副部長)とはいうものの、外資との合弁は18件だけ。
 業種も繊維や食品加工など軽工業に隔たり、青島市が求めているハイテク産業は皆無だ。
 問題はまだまだ山積
 山東半島の経済界j法が期待外れに終わっている背景には、人材問題のほかにも、外国からの交通の不便さ、道路や港湾といったインフラストラクチャー(社会基盤)の未整備など山東半島には問題がまだ山積しているという現状がある。日本企業の山東半島への進出を中国が本当の望んでいるとすれば、「良質の労働力の提供に努力するとともに、インフラ整備のスピードを上げるなど外資受け入れ態勢を早急に整えていくことが不可欠」(日中経済協会)との指摘を忘れてはならない。(2021年4月アップ)