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でもしか知事だった横山ノックさん

1999年12月22日(水)
ジャーナリスト 北 まさひろ



 わが大阪府の知事だった横山ノックさんが、きょう(99年12月21日)、選挙運動期間中の女性運動員に対するセクハラ問題で、前日の検察庁の府庁捜索という強制捜査を受け、急きょ入院した国立循環器病センターから辞表を提出した。数日内に開かれる府議会臨時議会で同意の承認を受け、2期目半ばにして知事を正式に辞任することになる。

 ノックさんといえば、ご存知、「パンパカパーン、今週のハイライト」を売りに、一世を風靡した漫画トリオのリーダーであり、漫才をやめて参議院議員になってからも上岡龍太郎さんと組んで視聴者参加の番組で司会を務めた人気タレントであり、政治的には長く旧民社党に属した人である。

 大阪では、西川きよしさんと並んで、選挙に出れば、圧倒的な票を集め、自民党をはじめとする既存政党は、参議院選挙では戦う前から、ノックさんを指定席と勘定し、残る議席を争うことを前提としなければならないほど、強い候補だった。

 大阪ではなぜ、そんな「お笑いタレント候補」が強いのかと言われれば、昨今の「吉本人気」を思い出してもらえれば、わかってもらえると思う。40代半ばの私もそうだが、私の中学時代の同窓生の男子といえば、土曜の授業が終わると、家で昼食を食いながら、吉本新喜劇のテレビ番組を見ていた者が多いのであり、なにわの庶民の町を舞台にした、肩の凝らない、ギャグ連発の喜劇を半ば楽しみにし、チャンネルを合わせていたのである。

 横山ノックは、新喜劇には出ていないタレントではあるが、同じにおいをさせる庶民派の「おっさん」タレントであり、選挙期間中でもそうした自分の強さを忘れることなく、自転車で回る「パーフォーマンス」に、「ノックさん、頑張りや」という声をかけた主婦も多かったことは想像に難くない。

 そのノックさんのセクハラ問題の発端は、当選間違いなしの選挙運動期間中に起きた。得意絶頂のさなかのことである。ふと、魔がさしたのかもしれない。人は、調子がいいときほど危ない−−という人生教訓をそこから学びとるだけしかないほどの、極めて「個人的な事件」であった。もっとも、お笑いタレントであり、人気者であるノックさんには、知事としての力量を求めるというよりも、「とりあえず、ノックでもいいやないか。だれがしても、この財政赤字の府政、たいして変わらへん。

 大阪にはなじみの薄い高級官僚出身者にしてもらうより、なにわの舞台で育ったノックさんでいいやないか」という気持ちも大阪の有権者にあったことは間違いなかった。そして、実像のノックさんは知らないものの、ブラウン管や舞台のノックさんから、庶民的で話のわかる「おっさん」としてのノックさんに期待をかけ、ともすれば汚職疑惑がささやかれる人もいる議員さんたちや、庶民とはほんとに縁遠い労組や企業の「お偉いさん」とは違うことへの共感もあって、21世紀へつなぐ大阪府政の行司役を任せたのである。簡単に言ってしまえば、「ノックさんで、ええやんか」と。

 ノックさんでもいい。ノックさんでもできる。ノックさんしか私ら知らんし。大多数の雰囲気は、つまり、そんな具合であったのだ。ノックさんは、有権者にとって、まさしく「でもしか教師」ならぬ「でもしか知事」であったのだ。

 で、ここで、わからないことが一つある。それは、なぜ、ノックさんは知事になったのだということだ。有権者側からではない。有権者の大多数の意識は、多少、支持政党への「お義理」や「熱い心情」から、対抗馬に票を入れた人があったとしても、そんな人でも多くは「ノックさんで、いいやんか」という気持ちであり、政党各会派の議員さんたちも、本音はそんなところであると言っても、そんなに的外れではないと私は思っている。大阪人の融通無碍のところは生まれながらのものである。

 いわゆる世間が言う「偉い人」を、「偉い」とは思っていないことでは最たる「県民性」でもあり、高級官僚よりはノックさんの方が好きなのである。で、私の疑問は、ノックさんの心の中にある。つまり、「なぜ、ノックさんは知事になったのだろうか」、あるいは「知事になりたかった」のであろかということである。ノックさんは、担ぎ出されたというより、自分から出てきた人であった。

 単なる名誉欲だけだったのであろうか。知事報酬や政治献金が目的だったのか。本当の心情からにじみ出る政策ビジョンはなかったのか。 いよいよ辞職ということなり、記者会見などで、セクハラについて反論したときの表情を思い出すのは、私だけではなかろう。

 知事は、顔を紅潮させて、相手はうそをついていると主張したのであり、演技とすれば、スキのない迫真力であった。一瞬、本当にだましているのはどっちなのだろか−−と思ったほどである。多分、今後、予想されるのは、うそ付き呼ばわりした人が、うそを付いていたという結果である。大阪の庶民は、そんな場合、その人のブラウン管への「再登場」を許すだろうか。

 来年2月に予想される選挙では、もう、タレント候補はごめんだ−−という声も出てくるだろう。ノックの次はだれか。大物国会議員か。それとも、また、お笑いタレントか。あるいは、既成政党と距離を置いた第二の「橋本大二郎」か。今のところ、だれが最終的に出て来るか、予想もつかない。


 北さんにメールはwinocean@yo.rim.or.jp
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