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日韓はWin-Win関係という新着想

1999年12月19日(日)
萬晩報主宰 伴 武澄



 12月15日、韓国投資セミナーがに参加した。生まれ変わった韓国がテーマだった。通貨危機以降の韓国はIMFの管理下に入り、欧米の国際金融資本による支配の悲哀を相当ひどく味わった。そこで出てきた結論がアジアへの回帰ではないかと思う。このセミナーで感じたのは韓国が日本に投げかける熱い視線である。

 ●韓国が決断した対日門戸開放

 このセミナーを取り仕切った都銀に勤める友人は数ヶ月前からしきりに「日韓提携論」を言い出していた。このセミナーの準備のため足繁く韓国に通ううちに考え出したに違いない。その後に中国、台湾も続くのだが、まずは「日韓」であるという。

 ドル、ユーロに続く第三の通貨がアジアに必要だというのがこの友人の持論である。11月、マニラで日中韓の首脳会議が有史以来初めて開かれた。これまでのアジアの不幸は、日本と韓国、中国がそれぞれ一定の経済規模を持ちながら、「共同通貨」を語るフォーラムさえ持てなかったことである。いつも過去の歴史的経緯が融和に向かうとするお互いの心を阻害してきた。

 その一角である韓国がここ一年、日本に対して大きく門戸開放に動き出した。まず、日本文化の門戸開放である。長年禁止されていた日本の歌謡曲や映画が解禁され、次いで家電や自動車など耐久消費財の輸入を事実上禁止していた「輸入先多角化制度」が廃止され、段階的だが輸入が始まっている。

 日本文化の門戸開放は金大中(キム・デジュン)大統領の就任に始まった。昨年、鹿児島で行われた小渕首相と金鍾泌首相による日韓首脳会議は、非常に密度の高いものだったと信じている。政治的に対立していた両国が韓国から伝わった陶器という文化を媒介として日韓の将来を語り合ったはずである。

 先週の日韓セミナーで韓国の鄭徳亀(チョン・ドック)産業資源部長官は「新しいミレニアムには韓日が真の同伴者として生まれ変わらなければならない」と日韓の第二の協力時代を訴えた。そのためには「人の要素」が重要であるとし、お互いに「心の扉を開く」必要性を強調した。鄭長官によれば「韓日はWin-Winの関係。お互いに手を取り合って世界市場に乗り出せば、他のどの国よりも競争力がある」ということだ。

 ●なくなった日韓台の生活格差

 もともと日本の通産省はアジア指向だった。10年前、アメリカ抜きのAPEC(アジア太平洋協力会議)を画策した経緯がある。怒ったのがブッシュ政権のべーカー国務長官だった。表向きこのアジア経済協力の構想を持ちかけたのはオーストラリアのホーク首相だった。アセアン諸国、中国、韓国、台湾の了解を得つつ日本に向かっていたが、出迎えた日本で、構想がとん挫した。国務省からの圧力を受けた外務省が「アメリカ抜き」に強行に反対したからだ。

 当時の日本の経済はバブルのピークに達し、アジアは日本を先頭にした「雁行型経済」的発展の中にあるとの認識が広がっていた。当時の日本の経済的実力はアジアで突出しすぎ、アジアが独自の経済圏を形成するには未熟だったかもしれない。そもそも日本にアメリカの圧力を跳ね返す勇気があったとな思えない。

 それから10年。アジア経済には一段の飛躍があった。日韓台でみるサラリーマンの生活水準の格差はほぼ解消したとみていい。97年には通貨危機に見舞われたものの、今年前半から再び力強い回復をみせている。アジアは雁行型から水平型協力への移行期にも差し掛かっている。そしてなによりも大きな変化は97年の通貨危機で欧米の国際金融資本の力をまざまざと見せつけられたことである。

 韓国の回復を示す具体的数字をいくつか挙げると、まずことし第三四半期のGDPが12.3%に達した。海外からの直接投資はすでに100億ドルを突破し、年末までに150億ドルに達する見通しである。慢性の貿易赤字体質から脱却し、ことしは700億ドルの貿易黒字に達し、IMFから借りた134億ドルの構造調整資金はすでに返済済みである。この結果、金大中大統領は12月3日に「経済危機終了」を宣言した。

 ●アジア提携へ向け必要な戦略的準備

 そこで日韓である。すでにサッカーのワールドカップの2002年共同開催は決定している。この意味するところは大きい。前回のワールドカップ予選の際、背水の陣にあった日本代表に「一緒にフランスに行こう」と声援を送ってくれた韓国に、新しい時代の到来を感じたのは筆者だけではないと思う。

 NHKが大分前に放映していた若者のファッションを扱った番組で、高校生が好む渋谷のファッションの多くがMade in Koreaであることが分かった。1カ月、週単位で移り変わるファッションの変化に日本のアパレルメーカーがついていけないということだった。小回りの利くソウルのメーカーにどんどん発注が向かっているのだそうだ。

 この番組の中でアナウンサーが女子高生にインタビューし「この洋服、Made in Koreaってあるけど、どう思う」と聞いていた。くだんの女子高生は「韓国製でなにか悪いことでもあるの」と問い直していた。アナウンサーの意識が旧世代に属しているだなと感じた。

 話をセミナー会場に戻す。休憩時間にコーヒーを飲んでいた韓国人の通訳をちょっと話す時間があった。「専門用語が大変です」といっていた。韓国側は個別商談会向けになんと70人もの通訳を用意していた。果たして日本が韓国へ出向いてこれだけの韓国語通訳を準備できるか不安になった。

 日韓だけでなく、中国や台湾も参加した日中韓台の提携時代に入ると、共通語はきっと「中国語」になる。通貨は円が基軸になるだろうが、言語となるとそうはいかないだろう。日本もそろそろそんなところから戦略的な準備を国家的に始めなければいけない。


 Win Winについては、八木博さんが書いた
 1999年02月05日付萬晩報「アメリカで台頭する Win-Win という価値観」を参照してください。

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