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一日一言が伝える「セルフの風土」

1999年10月30日(土)
萬晩報主宰 伴 武澄



 ●朝日新聞はもともと大阪の地方紙だった
 全国に地方紙が60紙近くある。共同通信社はそういった地方紙を中心にニュースを配信している。地方を旅行していて違う都市で新聞を読んで同じ記事に突き当たったらそれは共同通信の記事ということになる。

 朝日新聞はもともと大阪の地方紙で(今は東京の地方紙)、読売新聞も東京の地方紙だった。戦後、全国で売ろうとしただけだ。東京が大きくなって東京発の情報が全国を埋め尽くすようになって久しい。

 情報が東京発ばかりになると弊害も大きくなる。東京で起きた出来事を中心とした紙面が全国で売られるから地方での出来事のニュースの価値がどうしても軽視される。

 昨年夏、神戸新空港に反対した市民の署名運動は30数万の署名を集めた。既存の市民運動家以外に広範な人々がこの運動に参加した点で従来の市民運動と一線を画したニュースだった。大阪にいてそう思った。しかし関西以外では概して扱いは小さかった。

 これが東京で起きていたら、新聞の扱いもテレビのキー局の扱いも大きかったに違いない。テレビ朝日のニュースステーションが報じた所沢のダイオキシン問題を想起すれば分かってもらえるはずだ。

 ●おっとどっこい生きている地方紙
 このことは逆に言えば、全国紙の普及で、地方で起きているニュースが全国に伝わらないという弊害をもたらしている。地方紙は基本的にその都道府県でしか読めないし、地方で販売している全国紙は「地方発全国ニュース」をそれぞれの地方版に押し込めてしまう傾向が強いからだ。

 北海道新聞から琉球タイムズまで地方紙の発行部数を合計すると2600万部に達する。朝日、読売、毎日にサンケイ、日経の発行部数を合わせてようやく届くか届かないという巨大な部数である。このことはあまり知られていない。おっとどっこい地方紙は生きているのだ。

 地方紙をすべて閲覧できるのは日本広しと言えども共同通信の新聞閲覧室しかない。それでも沖縄や九州、四国の新聞を読むには3、4日かかる。だが、ここでも読めると言うだけでおもしろい記事を探し出すのは並大抵ではない。

 インターネットはその点、便利である。筆者は縁があって四国新聞の「一日一言」と日本海新聞の「鳥取発特報」は日々チェックを入れている。独自の提言があり、分析があると信じているからである。

 一日一言 http://www.shikoku-np.co.jp/html/ichigen/today.htm
 鳥取発特報 http://www.nnn.co.jp/tokuhou/index.html

 ●セルフGS生かすも殺すも消費者次第
 実は10月07日付萬晩報「今こそ読む兆民「三酔人経綸問答」」は日本海新聞の萩原俊郎記者が「鳥取発特報」に書いたコラムである。今日は4月28日付四国新聞のコラム「一日一言」を転載したい。

 そろそろこれを香川の「新・日本一」に数えてもいいだろう。ポイントはセルフ。しかしうどんじゃない。香川は人口比では日本一セルフ給油のスタンドが多い。さすがは讃岐。セルフうどんの風土。昨年4月に消防法が改正され、客が自分でガソリンを入れるセルフ方式のガソリンスタンド(GS)が日本でも解禁になった。米国やドイツではすでに9割がセルフGSだったというから、今や遅しの法改正だろう。

 その後、全国27都府県で85カ所のセルフGSがオープンしたが、そのうち最多は岡山の13カ所、二位は香川の8カ所。人口は岡山がほぼ二倍だから人口比ならどうやら香川が一位。地域的にも中四国の瀬戸内側で出店が目立っているという。

 セルフGSはこれまで中小の業者が大半だったが、今春、とうとう県内大手も参入し、高松市内の幹線沿いに9店目がオープンした。これでますます価格競争が激化し、統計上でも瀬戸内のガソリンが日本一安いようだ。

 とはいえ全国には5万8000店ものGSがあるから、セルフ化への動きはまだ微小でしかない。地域的には北陸、東北、北海道など寒冷地がまるでダメ。理由は客が冬季に車外へ出るのを嫌がるからだ、と分析されている。

 実は昨春からいつもセルフを利用している。価格の問題ではない。県内では有人サービス店も頑張って一回の給油時の価格差はわずか数百円。むしろ遠くて面倒な時も多い。それでもセルフを選ぶのは、全体の価格を抑制できるから。

 うどんも同じ。「安くてうまくて早い」の三拍子はセルフ好みのうどん通が支えている。余計な見えは張らない讃岐主義。時には行き過ぎて”へらこい“としかられるが、いいところもある。ガソリン価格は全物価に影響する。値段を決める力は本来、消費者にある。

 この記事は、めんどうでもみんなでセルフのガソリンスタンドを利用して意識改革を進めようと提言しているのだ。消費者の意識が変われば、世の中が変わるのに「たった数百円」という意識でせっかくの構造改革のチャンスを逃しているという意味合いのことを訴えている。

 書いたのは明石安哲という論説委員である。若いころ東京を拠点とする大手マスコミからの誘いがあったが、「俺は香川から日本を変えたい」といって断った記者である。早くからインターネットを駆使し、内外の話題を県民に伝え続けている。こんな記者がいる県民は幸せである。


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