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いま自在に進化を続ける高知のよさこい踊り

1999年08月02日(月)
萬晩報主宰 伴 武澄



 ことしも8月9−11日の「よさこい祭り」に合わせて高知市に帰省する。筆者がというより子供たちが帰りたいという。よさこい祭りを一言で表現すれば「日本のリオのカーニバル」となる。30年来、そう思ってきたが、旧来の発想から脱却できないNHKがなかなか全国中継をしてくれないから全国ブランドにならない。

 そうこうしているうちに、北海道の青年たちがよさこい祭りに感動して札幌に「YOSAKOI−ソーラン祭り」というのをつくって、そちらの方が全国ブランドになってしまった。地方の時代の発想と合わせて考えさせられることが多い。

 ●思い思いの衣装とリズムに若者が集う
 よさこいまつりは1953年、阿波踊りをモデルにつくられた夏祭りである。歴史は古くないと思っていたがあと4年で50周年である。ペギー葉山が流行らせた「よさこい節」のアップテンポバージョンが基本メロディーで、鳴子をかき鳴らしながら、ところどころで「ヨッチョレヨ、ヨッチョレヨ」のお囃子を入れる。

 元の歌詞のさわりを紹介するとこんな調子だ

 こうちの城下(じょうか)へきてみいや
 じんばもばんばも、よう踊るー、鳴子両手によう踊るー
 とさーのこーうちのはりまや橋で、坊さんかんざし買うをみーた
 よさこい、よさこい、ヨッチョレヨ、ヨッチョレヨ
 「ヨッチョレヨ」というのは「じゃまだ。どけどけ」といった意味合いである。

 ほかの夏の踊りと違うのは、連(踊り子隊)ごとに振り付けが違うことと、メロディーは同じでもリズムは自由自在なことだ。1970年代からはロックやラテンが加わり、最近ではソウルやラップまでなんでも来い。思い思いの衣装を身につけ一部では露出度もエスカレートし、大分前から日本的情緒を逸脱していた。このまま行くと「日本のリオのカーニバル」になると信じた。

 そんな踊りを嫌うお年寄りも少なくないが、若者にはバカ受け、一度踊ったら必ず来年も踊りに来たくなる。筆者も大学時代、友人を引き連れて3回ほど参加した。

 市内に十数カ所の会場があり、主にその会場で整然と踊るのだが、会場の接待場で振る舞われるビールやお酒を飲み、はたまた踊り続けるうちに市内は興奮状態はピークに達する。いまの青年たちはどうだか知らないが、25年前はやりたいほうだい。飲屋街を踊れば、飲み屋のネェチャンたちが、気に入った青年をバーやスナックに引きづり込み、酒をついでは激励し、一部の連では"無礼講状態"になったらしい。

 閉塞状態の若者たちにこの祭りが受け入れられないはずはない。東京や京都で学ぶ高知出身の大学生が仲間を募って「連」が生まれ、1カ月前から練習を重ねて、高知に乗り込んでくる。昨年は県外から北海道、沼津、宮崎など13チームがやってきた。異色だったのは東京ディズニーランドのミッキーも踊りに参加して子供たちを興奮させたことだ。

 ●大学教授も評価する祭りの先見性
 都市研究の一環として「祭り」が学術研究の対象になっているとは知らなかった。東京大学で文化人類学を専攻する伊東亜人(あびと)教授がよさこいにぞっこん惚れて、昨年「高知の人はこの祭りを生んだことをもっと誇りにすべきです」などとマスコミに語っていた。

 「形式や伝統、宗教にとらわれることなくスタートし、市民主導で自由に柔軟に発展してきた。参加の形態も極めて多様で、主体的かつ民主的。地域に根差したカーニバル的要素を取り入れ、時代を先取りする先見性にも富んでいる」

 学者に誉められた数少ない「祭り」であろう。なにやら面はゆい感じもしないではないが、とにかくこの伊東教授もまた、毎年「ヨッチョレヨ、ヨッチョレヨ」のお囃子を聞かずにおれなくなっているだけのことなのだ。

 なにを隠そう、伊東教授の奥さんが高知の出身で、北海道の「YOSAKOI−ソーラン祭り」の創設にあたって学生による実行委員会の顧問を務め、毎年、審査員として祭りに関わっているのだ。

 高知の観光資源は坂本竜馬と四万十川しかないと考えている高知のお役人やマスコミを刺激するためにも、暑い暑い高知市を一度訪ねてほしい。祭りが進化するとこうなるという実物を見てほしい。

 そういえば、今年の春はプロ野球キャンプの松坂と野村ブームで高知県経済はそうとう潤った。


 【投稿0802】 「祭り」文化の創造 九州大学法学部の今里滋(いまさと・しげる)です。現在、ニュージーランドはウェリントンにて在外研究ですが、いつも『萬晩報』をたのしく拝読させていただいております。さて、8月2日号の「よさこい祭り」の記事に関連し、私が昨年の今頃、西日本新聞に執筆した囲み記事を思い出しましたので、参考までに送らせていただきます。
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