ハイブリッド国家 日本の形成1999年04月04日(日)元国土庁審議官 仲津真治
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日本は、多くの指標で世界的地位を占めながらも、真の先進国足り得ず、発展途上段階や復興・高度成長期のシステムを大きく残しており、国際的に存在感も薄い。 その中で、経済が低迷・劣化し始め、高齢・少子化が急速に進行し、十年も経ない内に人口の減少期を迎える。 かつて老大国化したイギリスを指して、英国病という言葉が生まれたが、日本は、現状のまま推移すると、もとより七つの海に君臨するようなこともなく、 衰微し始め、いわば半端な国として、歴史上その役割を終えることになってしまうであろう。そうならずに、21世紀へ向かって日本が再発進し、先進国として成熟し、世界的に重みのある国となり、活力を保つ存在となるには、どう考え、何をなすべきかを考えたい。 ●ユーラシアの西と東で進む二つの対照的な国際的試み 世界の現実は大くくりに見ると、グローバル化と国民国家の疲労に代表される。グローバル化は、世界全体の単一市場化に代表される大きな流れで、否応なしに進んでいく性質のもの。これに対し、近代法制を骨格とし、国旗と国歌に象徴される国民国家は、不調と変容をきたしており、市場と国家の関係も市場優位に変わる中、多様となりつつある。 この大きなトレンドの中で、二つの対照的な国際的試みが、ユーラシアの西と東で進んいる。しかし、日本はその中に入ってはいないし、別の試みも行っていない。この二つとは、EUの統合と、ASEANの伸展である。 EUは、各国の通貨主権を放棄、ユーロという共通通貨の制度化にまで進み、不可能と言わと言われたことを実現、成功に自信を深めつつある。それは単なる経済同盟でなく、基盤はギリシャ・ローマの文化・文明とキリスト教にあり、二度の世界大戦による欧州の悲惨な経験と衰えが危機感を醸成し、戦争の抑止も大切な役割となっている。 EUの深化、拡大が進む中、当面、英など四カ国のユーロ導入、旧東欧などへの拡大、併せて政治・法制面の統合が課題であるが、次いで、回教国トルコ、アジアにも領土を持つロシアの加入が、将来の大テーマとして、登場して来るであろう。 この中で、特に、ロシアが大きな鍵であり、事がなれば、ローマ帝国の東西分裂以来の意義をもつ、統一ローマの再現に相当する歴史的を画する変化となろう。 対照的に、ASEANは、個々の独自性を尊重した国の連合のアプローチ。もともと、反共連合として出発したが、中越戦争等国際的枠組みの激変やベトナムの加盟などで変容しつつある。 欧州のような共通の基盤に乏しく、国の歴史が概ね短い下で、ゆるやかな集まりを形成しているが、その連合の方式や自主性を重んじた決定と実施のノウハウが APECへ活かされつつある。ARFやASEMの結成発展など、日本が及ぶべくもない外向的成果を上げている。 ユーラシアの東はなお不安定であり、戦後なお終わってはいない。中国が加わってG9となる時代が来るか、日本の外交課題は、極めて大きいものがある。EUにおけるドイツのように、日韓関係の充実・成熟を始めとして、友達をつくる努力を地道に進めるべきであり、それがやがては、東アジアの平和で安定的な枠組みの構築に役立っていくであろう。 ●典型的国民国家日本はどうすべきか 明治以来の近代化で中央集権の国を創り、曲折を経るもアジア初の巨大化を達成した。 戦後五十年は経済国家の建設に邁進し、多くの指標で世界的な国となる。反面、極端な官製の一極集中となり、民間と地域の主体性、特性が失われてきた。バブルとその崩壊は経済社会を陰鬱な低迷に追い込み、その最たるもの、金融の危機は、実体経済まで蝕んでいる。構造的措置や改革を欠いた景気対策の限界も露呈している。 現代は、幕末維新の時代と同様、危機を活かす発想と取り組みが大事と思われる。歴史に学べば、日本のダイナミズムが再発見出来る。それは、複数の重心とハイブリッドの形成と考える。 日本は、複数の重心をもち、一極集中によらない国の発展・再生を行ってきた。むしろ、現代が特異といえよう。京、鎌倉、室町、江戸などと、西に東に、国のいろんな力が移動・分散し、時代を転換してきた。現在調査進行中の首都機能移転は国全体の改革に意義をもち、人身一新の効果を有する。それは、各地域の力や特性を活かす大きな契機となりうる。 ハイブリッド合金のようなもの、良いものと別の良いものを組み合わせてもっと良いものを、日本は、独自性や伝統を失わずに、外国の文化、制度、文物を選んで取り入れ、より優れたものを生み出してきた。 典型例は、漢字の音訓両方を使い、ひら仮名とかた仮名を生み出した日本語がそうであり、世界初のハイブリッドカーも、工業分野の代表例である。 これからのハイブリッドをいかに生むかが大切。構造を変えることは、全てを捨てることではない。優れた特性は、製造業の強さ、雇用重視と勤勉、教育の高さと普及、社会の安定にあり、問題点は、縦割り、競争力の弱い産業分野が大半、内と外の区別など多岐にわたる。 そこで、例えぱ、製造業と農業、メーカーと銀行、行政と経営などの連携や融合により、また、公共・民間の共同投資、会社・NPO・個人や外国の人・企業の各分野への参加・参入などにより、ハイブリッドは、醸成されていくと考える。多少の失敗や混乱はあろうが、恐れてはならない。 この認識の下、とるべき道は、将来の希望が開け、活力が養われる方途である。 まずは、巨大な日本経済の低迷・劣化に緊急対処する。 金融問題の整理と解消は欠かせない。なお、施策の現状は何でもありの観を呈し、問題多く、中長期的再生の視野に欠けている観がある。 そこで、プログラムが必要であり、活力の源、民間更新投資を促す減税と金融施策や、大学教育の全年齢層化、給付型に代わる試験雇用方式の導入、年金の改革などよるセーフティネットが大切と考える。 また、施策には財源と負担の考え方をセットにすることを制度化ないし習慣化すべきであろう。単なる陳情型は、依存と無責任を助長する。 国は、基幹的・国家的機能や外交に純化し、民間と地域の主導の体制に切り替える。一言で言えば、元気で育つ民間、小さく生き生きとした政府というところであろうか。そのために、 @ 税財政の仕組みを大転換し、納税者への還元の視点を重視する。 仲津さんは元国土庁審議官。現在、立体道路機構理事。エズラ・ヴォーゲル氏との対談集「ハイブリッド国家 日本の創造」(1997年12月、ぎょうせい)などの著書がある。仲津さんへメール。 |
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