アメリカの都市衰退と買う自治体サービス1999年02月03日(水)フィラデルフィア通信員 川崎 泰子
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●放置されるアバンダンド・ビル 全米でも屈指の大都会フィラデルフィアに着いたのは夜でした。高層ビルの夜景がアメリカの都会を象徴するように広がっていました。しかし翌日街を歩いて気が付いたのは、遠くから見る夜景の方が昼間の町中よりも断然豪華に見えるということでした。市庁舎脇の一等地には暫く前に火事にあったビルがそのまま放置されていました。まるでお化けでもでそうなその外観に、これはないだろと思ったものです。 使われなくなったビル(アバンダンド・ビルディング)が借りても買い手も無く放置され窓が割れるままになっていたり、壁にヒビが入るままになっていたりする例は市中心地のどこにでも見ることができ、駅に続くブルーバード沿いや、繁華街のショッピングエリア、住宅地にまで及んでいます。 バーバリーやティファニーといった高級ブランド店が立ち並ぶ一角も同様で、突然このようなアバンダンド・ビルが現れます。このような建物を見るとそれまでの楽しい気分がそがれ、寒々しい気持ちになります。新しい高層ビルと町中の酷く荒廃した様子が対照的で、これがアメリカなんだな、と東京から来た私が持っていた"都市"のイメージとのあまりの違いに愕然としたものです。 ●都市−欲求を満たす場所 フィラデルフィアの中心市街地には最近まで駐車場完備の大きなスーパーマーケットがありませんでした。(主に韓国人経営の食料品店とコンビニがいくつかありましたが。)日本でいう百貨店も去年、ロード・&テーラーが出来るまではなかったのです。では市民はどこで買い物するのでしょうか。彼らは郊外まで車を飛ばします。 郊外のショッピング・モールはとてつもない規模で、1日歩き回っても一部しか見れないほどです。アメリカの都市生活者は、生活用品から、ちょっと気の利いた物を探すときまで郊外のモールに出かけるのです。日本人だったら気の利いた物を探すのに都心ではなく町田や八王子まで行くような感覚でしょうか。 多くの人は買い物をするというアクティビティーを市街ではなく郊外で実践しているのです。実はロード&テーラーが出来るしばらく前、そこはやはり別の百貨店が入っていたそうです。でも商売にならず撤退したようです。現在のロード&テーラーもあまりはやっている様子ではありません。同様に職場も郊外のオフィス・パークに移転していきます。 映画館もモールに付随したりで郊外のエンターテイメント・コンプレックスは大規模になります。都市部でアクティビティーが少ないのはアメリカが車社会であることとともに、人々はどちらかというと住む場所として郊外を好むという傾向があるためです。 いまやフィラデルフィア市街地に残っているのは歴史的建物と、歴史的建物で行われる文化的イベントやコンサートなどとお役所くらいでしょうか。住むのは郊外、遊ぶのも郊外、学校も郊外、仕事も郊外という傾向は非常に強いものです。 ●郊外化により進む非効率 一つの例は交通システムです。密度の高い都会なら利用者も多く公共交通が生きてきますが、郊外では移動のための手段として公共交通はあまり適切ではありません。 アメリカの場合、鉄道よりも高速道路が発達しているので移動には自動車が使われますが、これもエネルギー消費や公害問題を考えると効率のいい方法ではありません。鉄道を含むインフラの整備にも人が密集して住む都市部よりお金がかかるのは明らかです。 つまり、アメリカ型の郊外生活というのはとてもお金のかかる生活スタイルだということになります。アメリカのガソリン代は安く、郊外型の生活スタイルを支えていますが、ガソリンをいつまでも安く提供し続けることができるのでしょうか。 ●地域で違う警察、教育の質 でも高級住宅地を抱える市なり町なりが、そうではない市や町と違う一番大きな点は、サービスにあるのです。まず水道水の味が違います。というか、水道水が飲めます。私が住んでいるフェラデルフィアの中心市街地の水は私には飲めません。警察のサービスが行き届くため治安が良くなります。公立学校の教育の質も違うそうです。 当然そういったサービスの前提である税金は高いわけです。でも余裕のある人々は高い税金を払ってもそういう高級な所に住みたいということです。税金が、良いサービスを提供することに使われているのですからペイする甲斐もあるというものです。 逆に高い税金を払えない人はそれなりの所に住み、それなりのサービスで満足するしかありません。これは警察力や公立の学校教育というものが払ったお金の多少によって享受されるという、信じられないシステムです。しかしアメリカではこれが一般的なのです。 川崎さんへのメール |
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