海外企業研修でなくなる学生のブランド漁り1999年01月20日(水)萬晩報ロンドン通信員 山下 容寛
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1998年10月19日付萬晩報「イギリスで広がる学生の年間ビジネス研修」(八木博)を読んで、ああそう云えばと、膝を叩いた。僕の勤務する日系メーカーの英国支社にも、取引先や知人から息子や娘を預かってくれないか、という申し入れが結構ちょくちょくあるのだ。
「大学生でマーケティングを専攻しているんだが、半年か一年、面倒見てくれないか」 などどたたみかけるかなり熱心な親が多い。
●断りにくい取引先からの依頼 もっとも社会に巣立つ前の大学生達、どこの企業であろうと、社会勉強という意味なら全く構わないのかも知れない。コピーであれ、棚卸しの手伝いであれ、ビジネスの一端は、少なくとも身体で感じ取れる。 学生のビジネス研修は英国で盛んなようだが、ドイツ人やフランス人から同様の申し込みを受けることもあり、詳しいことは知らないが、多少、制度上の差異はあるにせよ、同じようなビジネス実習による単位取得は可能なようだ。日本の親たちのセリフは決まっている。 「息子は(娘は)、英語が得意でね。いわゆるバイリンガルという奴だから、そっちの方で役に立つと思うよ。なあ、半年でいい。使ってやってくれよ。」 欧州で一番の大都会、ロンドンで暮らしたい、という大学生の本音もあるだろう。その上、英国の研修経験は、ビジネス英語に支障がないことを意味するし、日系企業など外資系で研修したと云えば、豊かな国際感覚有りと受け取られるので、大学卒業後の就職に有利という計算も働いて、申し込みが相次ぐのだ。企業側にも有難い話には違いない、しかし、大歓迎という訳でもない。 先ず、取引先の子弟をあずかると、相手にビジネス上の秘密が漏れる恐れが有る。次に、いくらコピーだけと親が云っても、大事な取引先の子弟に、半年も1年も雑用だけやらせている訳にはいかない。「パパ、この会社、本当に何もやらせてくれないんだよ」てなことを言われかねない。そうなると、親との取引に支障が出る。さらに、不要な職務・ポジションを削りに削って人減らしをする、この時代に、短期の研修とは云え、ひとり採用するのは、雇用政策上、組合対策上、まずいケースも有り得るだろう。 「いや、いろいろ考えたんだが、息子さん(娘さん)みたいな優秀な学生だったら、むしろウチの会社より、ヨソの方が・・・」と、縁談みたいな断り方をすることが多い。 と云っても、企業側に何らかの義務や責任、費用が発生する話ではないので、相手とタイミングによっては「どうぞ、どうぞ」ということになるケースもある。
●日本の大学生にもビジネス研修のチャンスを 大学にはほとんど顔を出さず、一年中アルバイトに精を出す学生など見かけぬ当地では、企業研修という方法で、実社会に触れる機会を、学生に与えているのだろう。そうでもしないと、教室と図書館と寮で、浮世離れした学問にどっぷり浸りきる学生が多いのだろう。 それにしても、この研修制度、八木さんがご指摘の通り、とても良いアイデアだと思う。 仮に企業研修の中身が社会勉強であれ、単位取得の一過程として、実社会に触れるのは良いことだ。学生自身が、専攻科目との関連で、ビジネスを捉えるチャンスになるだろうし、視野を広げて現実的に学ぶことが出来る。アルバイトではなく、科目履修の一形態としての研修だから、個々のビジネス体験が、大学の先生達や研究陣にもフィードバックされる。 その上、特別なコストもかからず、これといった要件もなく、どこでも良いからヨソの釜の飯を食って来い、的な手軽さが良い。知り合いに頼んで半年か一年修行させてもらえば良いのだ。やろうと思えば、すぐに出来そうだ。 日本でも、大学によっては同様の企業研修制度が導入されているかも知れないが、このシステムが広がり、英国のように一般的になれば、「大学」や「勉強」が社会性を伴って、若者にとり、今よりずっと有意義なものになるだろう。 言葉の壁があるので、先の話になるかも知れないが、日本の大学生が海外で企業研修を行えれば、つまり外国の会社に半年でも一年でも席を置き、単位が取れるようにでもなれば、ますます面白くなる。「留学」とはひと味違った形で、より実践的に、グローバルな物の見方や考え方を体得する、良いチャンスになるはずだ。 海外は、実学を求める場所なのだと、日本の大学生達の意識が変わったら、団体でロンドンやミラノへ押し寄せて有名ブランド品を買い漁るのは、昔話になると思うが、どうだろうか。(やました・やすひろ) |
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