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カンニングで100点取ったような西武・松井の盗塁王

1998年10月29日(木)
萬晩報事務局長 岩間孝夫


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 前身の太洋ホエールズ以来38年振りにリーグ優勝を果たした横浜ベイスターズが、その勢いを駆って日本シリーズも制し、今年のプロ野球は幕を閉じた。

 野球の盛んなアメリカと日本で、同時に今年ほど話題が盛り上がった年も少ないだろう。アメリカではマグワイアとソーサの両選手が、37年振りにロジャー・マリスの持つ61本のホームラン記録を塗り替えた。世界が注目する中で、ソーサは66本、マグワイアは70本という夢のような新記録を打ち立て、アメリカンニューヒーローとなった。日本では横浜ベイスターズが、前回の優勝からプロ野球史上最長記録となる38年振りの優勝を勝ち取り、長年優勝を待ちわびたファンの人々を喜ばせた。

 ●シーズン最終日に見せつけられた見たくないシーン
 そのプロ野球レギュラーシーズンが終了する最後の日に、日本の野球ファンはまたまた見たくもないシーンを見せつけられてしまった。

 今シーズン、パリーグでは西武の優勝が決まった後もロッテの小坂選手と西武の松井選手が最後までし烈な盗塁王争いを続けていた。10月12日のシーズン最終日を迎え、小坂選手の盗塁数は43、松井選手は42。そして両チームは最終戦で対戦した。

 小坂が盗塁数で1個リードのまま迎えた7回表、小坂は左前安打で出塁した。盗塁のチャンスをうかがう小坂に対し西武の投手芝崎は牽制球を投げたが、一塁手が取れぬほど大きくそれた。しかし小坂は悠々と二塁に進めるにもかかわらず、コーチの指示に従い一塁にとどまった。このケースでは二塁に行っても盗塁にならないからだ。ところが驚いたことに芝崎は、今度は故意にボークをし、盗塁のしにくい二塁に小坂を無理やり進塁させてしまった。一塁から二塁の盗塁よりも二塁から三塁の盗塁がはるかに難しいためだ。

 更に、二塁に進塁した小坂に対し、西武の遊撃手松井は二塁ベース上に仁王立ちして小坂をマーク。それでも三塁に走った小坂であったが、やはりその三盗は失敗に終わった。そして松井はその7回裏に盗塁を決め、98年度パリーグ盗塁王のタイトルは43個でこの2人が分け合った。

 ●ボールを投げてもブーイングが起きた大リーグ
 一方海の向こうのアメリカでは、シーズン終盤にマグワイアとソーサが62号の大リーグホームラン新記録への先陣争いをしている時、マグワイアの所属するカージナルスとソーサの所属するカプスがカージナルスの本拠地セントルイス・ブッシュスタジアムで対戦した。

 両選手がバッターボックスに立った時、敵味方にかかわらず、ピッチャーが(ストライクではない)ボールを投げただけで観客のブーイングが起こったのには驚いた。もともとピッチャーに逃げる気配はなかったが、これでは更に真っ向から力一杯勝負をせざる得ない。その熱気のなかマグワイアは新記録となる62号のホームランを打ち、球場を埋め尽くした5万人の大観衆と両チームの選手達は心から同選手を祝福した。

 この試合で両選手に対しフォアボールはなかったが、同じようなケースなら自チームの選手の為ライバル選手に対し全て敬遠もしくは敬遠気味のフォアボールを与える日本のプロ野球を今まで何度も目の当たりにしていた私には、衛星放送を通じて接する大リーグのファイティングスピリットは大変新鮮かつ刺激的更には感動的でさえあった。

 スポーツ大会での開会式の選手宣誓で、最もよく使われる言葉は「スポーツマン精神に則り、正々堂々と戦うことを誓います」だろう。日本のプロ野球選手や監督、コーチも、子供の頃から耳にタコが出来るぐらいこの言葉を聞いているに違いない。

 松井が今回のようなやり方で得たタイトルは、テストでカンニングをして取った百点と同じようなもので、西武はあまりにも目先の成績にこだわり取るべき手段を誤った。最高のパワーと技量に溢れアマチュアには出来ないハイレベルなプレーを観客に見せることこそがプロスポーツ選手の職分であり、それであるが故にマグワイヤ、ソーサやマイケル・ジョーダンらのように人々に夢と感動を与えることが出来るのだ。タイトルは逃したが今シーズンのソーサの活躍を人々はいつまでも忘れないだろう。

 今やインターネットや衛星放送で世界の出来事が即時に世界中に伝わる時代だ。こんなせこいやり方はもういいかげんにして欲しいと思う。スポーツマンらしく、いさぎよく爽やかに正々堂々とやろうじゃないか。たかがスポーツ、されどスポーツ。

 そして10月28日、その西武・松井がパリーグの最優秀選手に決まった。(Takao Iwama)

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