軽油を農漁業用にA重油として売ってきた日本の税制1998年10月23日(金)萬晩報主宰 伴 武澄
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東京や大阪などの石油業者が輸入粗油(そゆ)を重油と偽って軽油取引税を脱税した事件が今週、日本列島をを駆けめぐった。すぐに親しい石油会社の友人に電話して「輸入された粗油は日本の油種でいうA重油に近いはず」と聞いてはピンと来るものがあった。 この事件の分かりにくさは、ディーゼルエンジン用燃料に「軽油」と「A重油」の二通りあり、前者が課税され、後者が非課税となっている点に凝縮される。そして「A重油」が基本的に農漁業用であることがさらに問題をややこしくしている。いずれにせよ、どちらでもディーゼルエンジンが回るから、トラック業者が非課税燃料を欲しがるのは当然だ。 萬晩報は石油会社の代弁者ではないが、燃料に異常に高い税率を賦課してきた日本の税制が変わり、さらに課税燃料が公道を走るトラック向けで、非課税燃料が農漁業向けという差別も解消しない限り、脱税事件はいつでも起きる。分かりやすくするため、萬晩報は「A重油」を「非課税軽油」と呼びたい。
●産業優遇が複雑怪奇にした石油税制 第一分類の、ナフサ(Naphtha)は専門用語で「軽質ガソリン」という。化学工業の原料である。多くのプラスチックはナフサを分解したエチレンから生まれる。ナフサが無税であるのに対して「重質ガソリン」であるガソリンは1リットル=53.8円のガソリン税が取られている。ちなみにガソリンが実質的に輸入禁止されてきた1995年までもナフサの輸入は自由自在だった。かつて通産省に反旗を翻したスタンド業者が1986年に輸入したガソリンが輸入統計で「ナフサ」に化けた経緯もある。ここらの事情は02月25日「 ガソリンの価格破壊を10年遅らせた通産省の策謀」で書いた。 第二分類の灯油とジェット燃料と灯油(Kerosine、Heating Oil)は基本成分はまったく同じである。"贅沢"とされた航空産業には1リットル=26円課税され、個人の暖房需要とされた灯油は非課税である。
●農耕用に使えば還付される軽油取引税 業界の人には「トラック用ディーゼルはA重油で回る」という事実は常識の部類だ。ただ、質問すれば誰もが「長く使うとエンジンを駄目にする」とその事実をオブラートに包むことを忘れない。ヤンマーディーゼルにA重油の話を聞いたことがある。彼らは「ヤンマー重油」を売っている。
「A重油の用途はなんですか」 真相はこの会話に近い。萬晩報は、軽油とほとんど同じの油種を非課税にするために通産省があえて「重油」という名称をかぶせたのだと疑っている。 ここでトラック業界だって産業だ、同じ産業向けなのに軽油だけ課税されるのはどうしてかという疑問が当然湧いてくるはすだ。役所その理由を聞けば「軽油取引税は地方の道路建設のための財源となっているから」という説明を受けるだろう。だが、道路財源になったのは故田中角栄の時代で、軽油取引税が創設された1956年当時、政府にとってトラック業界などはただの"雲助集団"に過ぎなかった。トラック輸送が増え始め、取りやすいところに課税しただけである。 問題の粗油だが、通産省の油種分類に粗油などは存在しない。大蔵省の通関分類にあるのみである。「その他油種」とする方が分かりやすい。輸入業者はディーゼル用燃料つまり Gas Oilを輸入したはずである。日本語で軽油である。軽油を粗油と認めたところに大蔵省の怠慢がある。
●日本にしかない脱税阻止のため添加物クマリン 笑ってはいけない。業者側もこの「識別剤」の効果をうち消すような添加物を次々と「開発」してきたため、「開発」と「摘発」はいたちごっごとなっている。精製した油種はどれも1リットル=20-30円程度のコストである。一方、税金は30-50円と商品価格を上回る。業者にとって脱税のメリットは小さくない。脱税のための新物質開発が止まらないのも当然だ。 軽油取引税は、地方税だから自治体が思い出したように業者を摘発してきた。今回の事件も自治体が財政難を背景に全国規模で脱税摘発に動き出した背景がある。だが今回は、輸入粗油だったからクマリン効果がなかった。 |
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