HAB Research & Brothers



21世紀は低コストの社会

1998年09月13日(日)
シリコンバレー 八木 博

八木さんへ  インターネットを使ってみると、通信の内容にマルチメディアが使えて、しかも国際通信が使えて、電話代は国内料金ということで、通信コストが大幅に下がっているのを感じます。国内の電話料金が高い日本の事情は別として、これだけのインフラが使えるということは、低コストの社会を構成する上で非常に有利な状況になっていると思います。今回は、将来のコストの推移を考え、どうしたら豊かになれるかを考察してみたいと思います。

 日本は商品の品質向上に大きく貢献

 1980年代からの日本の工業製品の品質向上は目をみはるものがありました。日本製イコール高品質、低価格という構図が出来上がりました。今から10年前には、日本の半導体が世界を制覇するかと思われました。Intelは汎用メモリーから撤退し、当時の日本の半導体大手メーカーN社の社長は「米国からもはや学ぶべきものはない」とまで発言しました。これは、たった10年前の話です。その時の日本の製品は、地道に品質管理を導入し、そして、生産性も向上させ、コストも大幅に下げたわけです。

 しかし、この手法はすでに米国で開発されていたものが大部分で、後発のアジア諸国や、米国でも次々と取り入れられてゆきました。そして、90年代に入ると、日本はその得意の分野であった品質とコストという2つの面から、アジア諸国の製品と競争する場面が出てきました。そして、現在ではMade in Japanは高品質、高価格の代名詞となっています。

 高品質、高価格でなくてもいいという人たち

 日本製という機器を日本で見ると、多機能イコール高性能という構図に入るものが多いように思います。ビデオデッキなど、マニュアルなしでは使いこなせません。しかし、同じメーカーが米国に輸出しているビデオデッキは、録画、再生、早送り、巻き戻しの基本機能しかありません。そして、価格は安いです。($100−$200です)これは、機能は必要最低限でいいという、基本概念によると思われます。ですから、お客さんは機能の強化より、価格の低下を期待していると考えることが、ポイントになります。逆に作る側でも、性能向上に注力するよりもコストをいかに下げるかを考えることが重要になります。

 そうすると、付加価値という考え方は、作るほうが思い込みで考えるのではなく、多くの人が必要とする部分について考えるべきものということになります。言い換えますと、マーケットを理解して、製品の形を決めて行くことが必須となります。日本のメーカーではビデオデッキに関しては、国内と輸出で、住み分けをしているということがいえるのかもしれません。でも、余分な機能のないビデオが日本でも大いに売れたということもあるそうですから、高機能イコール高価格という構図は長続きはしないでしょう。

 なぜ低価格に移るのか

 商品価格は、(金融商品も含めて)かかったコストに利潤(適正かどうかはよく分かりませんが)という構造で考えてきていました。しかし、自国の中だけの閉じたマーケットでなく、自由な国際競争になった現在、価格はこのような構成ではやってゆけないことが分かってきました。しかし、どこのマーケットでも“低価格”は大歓迎されます。それは、同じ所得だとしたら、豊かな生活につながるからです。

 話が飛んで申し訳ないのですが、有限な地球資源という観点からも、省資源、省コストという観点は重要だと思います。そして、低コストで生活資源を供給できるときに、私はそれを豊かな社会と呼べるのではないかと思うのです。これは、見方を変えると縮小する経済でも人々は豊かになれるという可能性を示していると思います。(これと同じ内容の事を、NTTの社長が1年ほど前に言っておられました。私には、とても印象に残りました)

 21世紀が低コスト社会になる背景

 私は、21世紀は、世界中の人々、一人一人がネットワークに参加し、それが本格的に稼動するという点で、人類史上未だかってない社会が出現すると思っています。その時の人々のネットワークは、あらゆる情報が瞬時に流されるという点と、一人一人の思いがネットワークに込められて動くという点が大きなインパクトを持つのではないかと思っています。

 ですから、低コストというキーワードがあれば、マーケットはそちらへと大きくシフトして行きます。日本で現在それが出来ないのは、消費者が十分な情報を持っていないこと、それから、高性能イコール高価格というロジックを信じていることが原因していると思います。現状の日本の経済状況では、所得の伸びも期待できそうもありません。

 そんな時こそ、コストを下げるということについて、考える必要があると思います。それは、コストをかけて検討するのではなく、自分で出来ることから始めるということで動くのがいいのではないかと思っています。日本の平均所得はすでに国際的には最高の賃金水準に到達しています。それを更に上げることを考えるのではなく、その枠内でもっと豊かな生活が出来ないかを考える時期だと思います。そのためにネットワークを使うということが、非常に重要な事のように思えるのです。(八木 博「Lafayette Dr. Digital Weekly 第51号」)

トップへ 前のレポート



© 1998 HAB Research & Brothers. All rights reserved.