プリウスの衝撃-電気自動車普及への近道1998年03月11日(水)共同通信社経済部 伴武澄 | |
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●変わりばえがしなくなった自動車 久々にに欲しい車が登場した。トヨタ自動車のプリウスだ。エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車である。燃費は普通のガソリン車のほぼ2倍まで伸びる。場合によっては軽乗用車より燃費がいい。排気ガスに占める二酸化炭素や窒素酸化物の量もガソリン車の半分以下。昨年12月、京都市で開かれた環境会議の最中の新発売だった。価格は215万円。ファミリーカーとしては少し高いが輸入車よりは安く許容範囲である。 筆者は、車好きだった。日産自動車の長いこと昔々のスカイラインGTに乗っていた。スカイラインの前部を長くして6気筒エンジンを積み、ほかの車と馬力が違っていた。高速道路でも抜かれることがなかった。やがてパワー競争の時代となったが、マツダのロータリーエンジンはまた格別だった。ファッションとしての車は速いことが一番だった時代である。 ロータリーエンジンは主張を持っていた。ホンダのCVCCエンジンに次いで「AP車」という低公害車の認定を取ったものの、燃費が悪すぎた。ロータリーエンジンへの過信がその後のマツダの経営危機を招く引き金になったが、ドイツで開発され実用化できなかった技術を日本で実用化できたことは技術立国日本の誇りだった。その後、セリカだとかプレリュードといったかっこのいい車が流行したが、いま車が高性能化し、どれに乗っても変わりばえがしなくなった。
●電気自動車はファッションで買おう これまでのEV(Electrorical Viecle)の難点は、価格が高いことだった。2000ccクラスの乗用車で400万円も500万円もした。環境のためとはいえ、500万円も出費する消費者はいなかった。だから旧来の電気自動車の需要は、電力会社や官公庁に限られていた。プリウスは純粋な電気自動車ではないが、EVを初めて消費者の手に届く価格帯で発売した点でひとつの快挙である。 これまでも燃費は自動車購入の選択肢のひとつだったが、プリウスは燃費の良さで買われているのではない。「地球温暖化への配慮」というコンセプトが乗用車購入の際のひとつのファッションとなりつつある。「速さ」「かっこ良さ」というファッションに「環境」が新たに加わった。環境への配慮がファッションであってはいけないという考えもある。だがファッションでなぜ悪いのか。そう思っていいる。
●量産でいくらでも安くなる ふつうの記者なら「そうか。電気自動車の時代はまだまだだ」と考えるだろう。しかし「萬晩報」はそう単純ではない。この1億円のほとんどが研究者の人件費なのだ。電気自動車はエンジンもトランスミッションもいらない。ラジエターからクラッチ、燃料噴射用のキャブレターも不要だ。単純にいえば、エンジンルームにあるのは、モーターと動力を車軸のつなぐジョイントだけである。部品で一番高いのがエンジンである。産業用の高性能モーターはそこらにごろごろしている。あとは電池だけだ。一つだけ高価なのはインバーターといって周波数変換で電圧を上げる装置であるが、これは量産でいくらでも安くなる。構造が簡単で部品点数が圧倒的に少ない。だから手作り電気自動車の会があちこちで生まれている。
●発想を変えれば世の中変わる 2台、3台車を保有している家庭も増えてきた。2台目以降は確実に買い物や通勤向けだ。1日走っても50キロが限度だ。しかも1回の走行は数キロから10キロ程度と推測できる。家の車庫に入っている間を充電時間とすれば、1回の充電で最大100キロも走れれば電気自動車は"実用レベル"とはいえないだろうか。 バイクの走行距離をうんぬんする人はいない。日本の軽自動車の用途はバイクとほとんどだぶっている。だからこそ、自動車メーカーはいますぐにでも電気自動車をつくって売るべきなのだ。ちなみに1リットル100円のガソリンには53円の税金がかかっているが、電力会社生み出す電気には輸入原油に関税がかかっているでけである。軽自動車タイプの電気車両を売り出せば必ず大ヒット間違いなしである。発想を変えれば世の中変わる。そのうち業界にコペルニクスが出現するはずだ。 |
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