日本の円が上がり続けた1990年代前半、銀行の為替交換手数料が横並びの上、高すぎるのではないという議論があった。この問題をかなり突っ込んで追及したマスコミもあり、共同通信としても取材を始めた。そして筆者と取材記者との実際にあったやりとりを再現する。騙されないようよく読んで欲しい。
●1ドルで360円渡すのも100円渡すのも手間は同じ?
筆者「おまえなぁ。1ドルが100円以下になっているのに為替手数料が高いと思わないか。ちょっと取材してきたらどうだ」
記者「僕も高すぎると思っていました。それに自由化されているはずなのにとこでも手数料が同じなことはおかしいと感じていました。でもそれってニュースになるんですか。」
筆者「当たり前だ。早く取材してこい」
翌日、くだんの記者は顔を紅潮させて報告した。
記者「いくつかの銀行で聞きましたが、どこでも交換手数料は2円80銭でした。1ドル=360円の時代から変わっていないのです。横並びの意識はない。結果的に同じになっているだけと言っていました」
筆者「360円も時代の2円80銭はパーセントに直すと1%以下だが、今では3%だぞ。今どき、銀行に1年お金を預けても1%か2%にしかならない。たかが1回の手数料に3%も取るのかちゃんときいたか」
記者「はい。銀行は1ドル紙幣を持ってきて360円渡すのも、100円渡すのも手間が同じだからといっていました」
筆者「それで納得したのか。あほやなぁ。1泊2万円のホテルに泊まるのに1ドル=200円の時代なら100ドル交換すればよかったのが、今では200ドルいるんだぞ。銀行には手数料が2倍入るじゃないか。騙されるなよ。銀行の言い分が正しければ、2万円を手渡すのに100ドル受け取るのと200ドル受け取るのと同じ手数だから、手数料も同じでいいはずだ。なんでそうやって聞き返さないんだ。それで何で横並びなのか突っ込むんだのか」
「広報ではらちが明かないので、店頭の女性に今日のレートの決め方を聞きました。彼女の説明では、朝10時に東京銀行(当時)がレートを決めて各行にファックスするそうで、それに右へならえしているからみんな同じになるといっていました」
●消えた「金融なぜなぜシリーズ」
そんなことで1991年夏、「金融なぜなぜシリーズ」をやろうということになった。消費者の素朴な疑問を解明しようする試みは後輩記者にやる気を出させた。しかし、この企画はいっぺんにつぶれる運命にあった。証券会社による損失補填事件が発覚、金融機関による闇社会との癒着などが切れ目なく続き、やがて担当も変わった。
その後も不祥事が次から次へ発覚、住専問題、ビッグバン、金融破綻などと金融担当記者は息つく暇もなかった。結果的にマスコミに日本の金融機関の本質的問題を取材させる時間を与えなかった。おかげで割高な為替交換手数料ひとつでさえ、なにも変わらずに7年を経過した。
しかし当時の問題提起はまだ生きている。取材される側が故意にマスコミ誘導をしたとは考えないが。取材する側もされる側も「1ドル=何円」に慣れきっているからで、「1円=何ドル」の発想がないからこうなっただけだと信じている。
ただし、今回は違う。4月からの外国為替管理法の改正で、コンビニでも街のチケット屋でもだれでも為替の交換ができるようになる。金融機関の牙城の一角が確実に崩れる。個々の金融機関は窓口での為替交換手数料収入まで明らかにしていないものの、為替交換手数料は法外な振替手数料とともに金融機関の大きな収入源となっている。
為替交換規模は数兆円の巨大市場である。規制緩和の波はすぐそこまで来ている。
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