●韓国商社が加速させたウオン安
韓国を担当する友人の商社マンからおもしろい話を聞いた。筆者が「なんでアジアの通貨はあんなに乱高下するんだ。1日に2割も3割もどうして動くんだ」という質問の答えである。
「韓国では為替市場にウオンの買い物がほとんど出ないんだ。売りばっかりで気配値がずるずる下がる。少額の買いが出たところでパッと値が付く。もはやアジア通貨は売り買い交錯の中で付くはずの市場価格ではなくなっているのだ」
「韓国だって巨額の輸出をしているし、輸出で稼いだ外貨で労働者に賃金を支払わなければいけない。大手商社の輸入代金は為替市場でウオン買いの要素ではないのか」
「いい質問だ。韓国の大手商社は昨年末までは輸出代金の振込先をソウルではなく、東京支店やニューヨーク支店に変更していた。だから輸出で稼いだドルが一切、韓国に環流しなかった時期があるんだ。為替の動きをよく調べてみてごらん。韓国ウオンが急落したのは10月から12月でしょ。あの時、韓国の大手商社がちゃんと国内に環流させていたら、あんなめちゃくちゃなウオン安は起こらなかったはずだよ」
事実、韓国通貨は昨年12月は朝方、1ドル=1400ウオンだったのが昼過ぎに1900ウオンになり、夕方再び1500ウオンに戻る乱高下が続いていた。筆者はアジア通貨下落の引き金は国際通貨マフィアだったと信じている。しかしその後の展開は通貨マフィアといえども予想できなかったのではないかと思う。
●アジアから逃避する華僑資本
国際通貨マフィアといえば、端的にいえばロンドンやニューヨークに拠点を置くユダヤ系金融資本となる。ルービン財務長官などアメリカの歴代の財務長官はいつも、いくつかの金融資本のトップ経営者から選ばれている。この事実は日本では意外なほどに忘れ去られている。アメリカの支配下にある国際通貨基金(IMF)の動きが速かったのは記憶に新しい。500億ドル超の韓国支援策はあっという間に決まった。さすがに「行きすぎた」と考えたのだろう。日欧米は巨額の資金を韓国に貸し込んでいたから、回収不能になっては元も子もない。
ここらの分析については回を改めたい。話を戻そう。通貨下落の引き金は通貨マフィアだったとしても、その後の下落は国内的要因に負うところが少なくなかった。韓国の場合は特にそうである。稼いだ外貨が環流しなかった。一番被害が大きいインドネシアも経済的強者である華僑社会を痛めすぎたつけが回ってきた。そもそもインドネシアで政治的弱者だった華僑財閥は1996年から資本を安全なシンガポールや香港に移し始めていた。これは資本逃避であり、資金流出である。メキシコの通貨危機は毎回、国内財閥の資本逃避が悲劇を大きくした。インネシア華僑のそうした経営手法はきのう、今日に始まったものではない。いつの時代も資金の運用先として香港を重視していた。
●橋本首相はアジア首脳と苦悩を共有すべきだ
きっと日本企業の現地法人だけが律儀に輸出で稼いだ外貨を為替市場に持ち込んでいるのではないかと想像している。皮肉にもグローバル・スタンダードである「資本の論理」が欠如している上、通貨変動に対するクイック・デシジョンができないからだ。日本の現地法人は現地雇用の大規模解雇を断行したわけではない。逆になんとか部品の現地調達比率を上げられないか考えている。日本企業の後進性が現在のアジア経済を救っている側面は否定できない。
いまは、日本がアジアを救う戦後最大のチャンスである。国内に不良債権問題に端を発した金融不安を抱えていることは確かだ。しかし、昨年後半来、アジア各国首脳が緊密に取り合っており、台湾の李登輝政権は行政院長(首相)自らが「南向政策」の一環としてインドネシアやフィリピンを訪問し、金融支援の手を差し伸べている。台湾は外交関係がない国々に対して関係強化を目指す絶好のチャンスととらえている。日本はすでにIMFを通じた支援に加えて多額の個別支援策も表明しているが、せっかくのチャンスに「face to face」の関係を築こうとしない。こういう時勢にこそ橋本首相自らがアジアを歴訪して、アジア首脳の苦悩を共有すべきだと思う。
トップへ 前のレポート 次のレポート
|