消費者団体って誰の味方なの/ワシントン・アップル事件1998年02月15日(日)共同通信社経済部 伴武澄 | |
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日本が農薬王国であることは、2月3日の「偽りのリアリティー(1)コメ・ブレンド事件」で一部述べた。「日本の農民はそんなに農薬を撒くほど暇でない」という抗議のメールももらった。農水省は発表していないが、OECD(経済協力開発機構)のレポートに「日本の農水省報告」として先進各国との比較が出ている。3年前、なぜ日本で公表しないのか聞いた。「義務付けられていないからです」と簡単にあしらわれた。 当時、輸入米、輸入野菜、輸入リンゴの急増で、世論があまりにも「国産農産物への無害信仰」に毒されていていたから、積極的に記事化しなかった経緯がある。
●アメリカ産リンゴの日本撤退を誘発した告発のウソ● しかし、肝心の農水省は「検出されたのは事実だが規制値のはるかに下の水準で、ためにする議論だ」と取り合わなかった。子孫基金が「日本で認められていない農薬」と言った「TBZ」は、プレハーベスト(収穫前)での使用は認められていたからだ。農水省の説明では「収穫後農薬として使用申請がないだけ。申請があればいつでも認められる製品だ」という。基本的に、ポストハーベストの農薬散布は輸入国側が輸出国側の業者に要求する性格のもの。国内の農産物に収穫後の農薬散布などはしないから使用申請などあるはずがない。農産物の安全性議論は確かに重要だが、これでは片手落ちだ。というより「ウソ」を告発したに等しい。 なぜ農水省が取り合わなかったのか。背景はすぐに分かった。青森県のリンゴも少量ではあるが、アメリカに輸出していて、アメリカ側が青森県のリンゴ農園の農薬散布状況を克明に調査していたからだ。これはワシントン・アップル協会の人から聞いた。 輸入品は微量な農薬が検出されればすぐさまニュースになる。しかし国産は基準値を上回らないかぎり絶対といってよいほどニュースにならない。これでは輸入業者はたまらない。内外の機会均等の原則に反する。20年もの長い年月をかけて日本市場をこじ開けたつもりのワシントンアップル協会は、アメリカ産リンゴの売れ行きが悪かったせいで、ほとんど日本市場から撤退した。彼らにとって農薬問題は撤退の理由の一部でしかない。安く売れるはずだったワシントンアップルが日本の農産物の複雑な流通経路を経ると日本のリンゴと競争できる価格ではなくなってしまったのが一番の理由だった。当時の日本担当者は「incredible」を連発して香港に去った。
●国内にはない農薬使用状況のチェック体制● では、国産の野菜や果物は大丈夫なのだろうか。実は、卸売市場で取り扱う農産物は、年に何回かの抜き打ち検査があるだけ。ほとんど「ノーチェック」で小売店に届くとのだという。だから危険だといっているわけではない。輸入物を論議する際には、チェックしていないという事実だけは知って置くべきだ。市場関係者によると「そもそも野菜の表面に付着している農薬なんてものは、水洗いすればほとんど落ちてしまう」のだそうだ。心配なのは土壌汚染から植物の細胞内に取り込まれる農薬だ。消費者団体は輸入野菜に目を光らす暇があるのならここらの詳細な研究をしてもらいたい。 野菜の輸入業者に聞くと最近急増しているアジアからの農産物のほとんどが有機栽培に近いという。中国やベトナムで日本向け野菜を栽培している業者に聞くと「農薬の方が農民の人件費より高い」からだけのようだ。アジアは別として、日本のように高温多湿な気候は病害虫の生存にぴったりなのだそうだ。オーストラリアやカリフォルニアには、害虫そのものが少ないのだ。比べたことはないが北海道と本州の単位面積当たりの農薬散布量はかなり違うはすだ。
有機栽培の農産物が最近人気だ。ただ露地栽培の場合、農薬をかけないと収量は3分の1に落ちる。自分の庭で栽培してみれば、すぐに分かる事実だ。 |
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