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世界平和は「和譲」から

2006年09月29日(金)
 (財)人間自然科学研究所理事長 小松昭夫
 はじめに

 先進国と言われる米国、西欧、日本は、文明の違いにより、勝敗、健康、環境の価値観の順位に相違があり、相互理解が難しい。さらに、現在は次の3つの危機が複雑に絡まり、展望が開けない現状になっている。
  1. 「対立」 (1)世代間の対立(2)地域間の対立(3)国家間の対立
  2. 「恐怖」 (1)核兵器拡散(2)化学・微生物兵器の開発(3)地球規模の不信感蔓延
  3. 「人口問題と資源」 (1)発展途上国の人口爆発(2)資源エネルギーの高騰(3)先進国の少子高齢化
 特に北東アジアには、日本が深く関わった、激動の歴史の中から生まれた韓国・北朝鮮分断国家が存在する。戦後60年経っても解決の見通しがつかず、最近特に緊張が高まっている。このような状況を打開するには、生命の起源、人類の特性、人間の定義という根源的なところから見直すしかない。東洋・西洋文明の融合から生まれた日本は、敗戦国にも関わらず、戦後、産業基盤を確立、豊かな生活をしてきた。日本が世界に先駆け、韓国、北朝鮮とともに、大国である米国、中国、ロシアの理解を得て、ソフトパワーで、平和への潮流を生み出す時に来ている。

 西欧では二つの大戦から生まれた怨念を、和合に変えるべく、当事国による共同歴史調査研究が行われ、書籍、映像とともに多くの「戦争と平和記念館」が建設された。インターネットの発達と、国家間を跨ぐ大旅行時代を迎え、これらの記念館は、歴史教育基地として大きな影響を及ぼしている。

 このような状況下、日本の対戦国だった国では、巨額の資金を投じて、たくさんの記念館が、愛国歴史教育基地として作られてきた。日本では、近・現代史を総合的に考察した施設は造られず、また教育もほとんど行われてこなかった。このままでは歴史認識の差は開くばかりであり、このような状況で備忘策を労し、表面を取り繕っても本質的な解決にはならない。本質的な議論ができる人材の生まれる環境の整備からはじめるしかない。

 1、 恒久平和への一歩

 A)平和のシンボル・タワーの建設

 首相の靖国神社参拝が政治問題化している最中、島根県で「竹島の日」が制定された。これが北朝鮮にも影響し、北東アジアの緊張が一気に高まり、日米のハードパワー(軍事力)が急速に増強されたが、ソフトパワー(調和力)の充実も急ぐべきである。

 日本の島根県と鳥取県にまたがる中海・宍道湖圏には、戦争末期、海軍航空隊本土決戦基地があり、7000名が配置されていた。中国山脈を隔てた広島に人類最初の原子爆弾が投下され、敗戦が早まり、この地は戦災を免れ、たくさんの命が救われた。また、この地には古代、平和的に日本を作った証として建立された出雲大社があり、「縁結び・和譲」という伝説が伝わっている。これは、「与え合うことから尊敬と平和を生み出すこと」という意味である。また、2013年には出雲大社で遷宮が計画されており、同年、全国の神社を総括する伊勢神宮の遷宮も計画されている。

 これにあわせ、この地で平和シンボル・タワー構想を呼びかけている。これは古代の出雲大社神殿の高さ48mとし、日本との戦争で亡くなった国内外の2300万人とも言われる方々をその中にすべて記録する計画である。

 B)世界写真・映像 戦争と平和記念館

 写真と映像で世界の「戦争と平和記念館」を同じ場所で総合的に学ぶことができれば、戦争と平和に対して大局、具体的な思考が生まれる環境が整う。

 ユーラシア大陸、朝鮮半島の対岸であるこの地で、定期的に各界の平和会議を開催することにより、北東アジアから平和への流れを生み出すことができる。世界の記念館を写真と映像で観覧できる施設は、世界に先例が無く、想像を超える効果が生まれる可能性が高い。ブロードバンドの普及によって、世界の記念館の展示内容の変化を即座に見ることもでき、また、入場者の反応も共有することができる。

「世界写真・映像 戦争と平和記念館」は、各地の記念館を訪問するきっかけと、記念館同士の縁結びとなり、平和への自立的な動きが期待できる。世界の人々が定期的にこの記念館に集まり、ブロードバンドを使って未来志向で議論を重ねる中から、恒久平和への動きが始まる。

 このプロセスを世界に広報することは、メディアにとって重要な役割である。また、スポンサーにとっても、社会有用企業として認められる良い機会を提供することになる。

 C)平和碑林公園

 ここに日本が戦火を交えた土地から樹木を移植、現地の人たちと共同作業で平和公園を作る。プロジェクトに貢献した人を後世に伝えるため、経歴や写真などを2000年の耐久性がある陶版画に記録、これを石碑にはめ込んだ碑林を造り、建設・運営資金調達を促進する。

 2、環境問題への取り組み

 最初の生命といわれるシアノバクテリア(藍藻・酸素を放出する独立栄養生物)は、太陽エネルギーと水・硫化水素・窒素・微量元素から生まれ、次に酸素を利用する従属微生物が誕生、生命の連鎖と進化が始まったと考えられている。微生物の中には、有害な重金属、ダイオキシンでも無害化するものもいる。

 中海・宍道湖圏は豊富な微生物群が育ちやすい温暖湿潤地帯で、地表は豊富な火山表土に覆われている。しかし、この地域は、近年、酸性雨により生態系が壊され、松林も全滅、また、中海・宍道湖の富栄養化により魚貝類大量死も毎年のように起きている。

 これらのことから、ここは微生物を活用した先進的な自然農法、栽培漁業、下水道処理施設の先端技術開発と技術者の養成にもっとも相応しい地域といえる。

 3、健康問題への取り組み

 人類は食べ物と環境により、限りなく悪魔にも近づき、神にも近づく生命体である。戦後、化学肥料、農薬、食糧の商品化、そして近年の酸性雨によって農地と湖沼が疲弊し、免疫力の高い食糧の生産ができなくなった。先進的な微生物技術を活かし、大地・魚場を蘇生化、主食として最も優れた玄米食に適した米、免疫力の高い野菜、果物、魚貝類を生産する。この原料を使って高機能発酵食品・栄養補助食品の製造もできる。

 おわりに人類は他の生命体と違い、生まれてから進化する生命体である。依存から自立、そして相互依存段階へすみやかに人類を進化させるために中国の古典は非常に大きな役割を果たすと考えられる。

 当研究所では北京オリンピックまでに日中英韓の4カ国語で中国北京の学苑出版社にお願いして「中国古典名言集」を出版することにとなっている。さらに西欧で発達した哲学、演繹法、帰納法、弁証法、及び21世紀の生命科学を加えることによって新しい知の体系を北東アジアで作り出すことが恒久平和への入り口になると確信している。

 理不尽なことの多い社会で、道理を追求するうちに、ヒラメキが起き、仮説が組みたつ。老子の言葉が今、光を放つ。「道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず」

(この原稿は9月24日〜25日、中国の南京市で開かれた2006年南京国際平和フォーラムで行った講演の原稿を元に萬晩報に寄稿されたものです)

 小松さんにメール webmaster@green.hns.gr.jp

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