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北の打ち上げ花火に舞い踊る人々
2006年07月11日(火)
萬晩報通信員 園田 義明
■北の打ち上げ花火
「北朝鮮がミサイルを発射した4日(米国東部時間)は、米国の独立記念日だった。7発も撃って祝福してくれたようなもので、結構なユーモア・センスではないか、と思ったくらいだ。発射を軍の強硬派が支配的になった表れと見る人もいるが、やはり金正日総書記の考えだろう。」
ミサイル発射の翌日とあって緊張に包まれた講演会場はこの発言によって一気に雰囲気が和らいだことだろう。ジョークを飛ばしたのは日本の守護神ことリチャード・アーミテージ元米国務副長官、7月6日に東京・丸の内の東京会館で行われた特別講演会「日米同盟と対東アジア政策」(読売国際経済懇話会主催)での発言であった。
日付変わって7月7日の外国特派員協会。ここでジョークを連発し外国人記者の笑いを誘ったのが金正日の「非公式スポークスマン」と言われるキム・ミョンチョル朝米平和研究センター所長である。アーミテージ発言など知らんふりで「アメリカ人にはユーモアのセンスがない」から始まり、「金総書記は米国の独立記念日とブッシュ大統領の60歳の誕生日のためにお祝いをした」と繰り返した。
確かに7月4日は米独立記念日、そして7月6日はブッシュ大統領の60歳の誕生日である。アーミテージとミョンチョルのジョークを重ね合わせると、将軍様のミサイル連発は米国とブッシュ大統領の誕生日を祝うための盛大な打ち上げ花火のように見えてくる。この打ち上げ花火は大失敗のように見えたが、これをきっかけに盛大なお祭り騒ぎが始まり、その儲けが「誕生日プレゼント」となって日本から米国へと流れ込んでいく光景を目の当たりにする。
小泉首相は5日夕方に行われた会見で、「どういう意図があるにせよ、北朝鮮にとってプラスはない」と批判、続けて「日本に対しても米国に対しても他の国に対してもプラスはないと思う」と強調したが、その背後でここぞとばかりに北の花火にほくそ笑む人々の姿が露骨に見えてきた。
■始まったお祭り騒ぎ
今回の発射に先立ちイランのミサイル技術者10人が北京経由で北朝鮮入りしており、北朝鮮にとってもプラスはないとは言い切れない。今回の「実演販売」によるテポドン商材の受注実績は散々たる結果になったかもしれないが、それでも燃料供給用ターボポンプなどのテポドン周辺商材やノドン、スカッド・ミサイル商材にはイランはもとよりパキスタンやベネズエラなどからの注文が殺到している可能性すらある。
しかし、このチャンスを逃すまいと日本側からの納期前倒し依頼や新規注文の問い合わせが殺到しているのはミサイル防衛(MD)システムに関係する米国防省と米防衛企業だろう。今回は日本政府のお墨付き。しかもである。珍しく日本世論の後ろ盾まである。
7月5日の時点ですでに防衛庁幹部は「一刻も早くMD計画を進め、迎撃能力を取得しなければならない。当然、今回のことでそういう動きが加速する」との見方を示す。同日沖縄市議会では地対空誘導弾パトリオット・ミサイル(PAC3)の配備に反対する抗議決議をめぐり紛糾、「緊張状態の中で、配備の賛否を議論するのはおかしい」と保守系議員らが主張し決議は見送られた。
さらに翌6日に急遽開かれた衆院安全保障委員会では、額賀福志郎防衛庁長官がMDについて「監視レーダー網整備とともに、迎撃面も米国と協調して一刻も早く形をつくりたい」と強調し、9日には敵基地攻撃能力の必要性にまで踏み込んだ。この額賀福志郎こそが日米にまたがる軍産インナー・サークルが集結する「日米安全保障戦略会議」の常連さんのひとりである。
そして早くも7日、政府は2008年3月末をめどとしていたPAC3計3基の配備を前倒しし、06年度末の入間基地(埼玉)配備予定の最初の1基も含めて07年中にも霞ヶ浦(茨城県)、習志野(千葉県)、武山(神奈川県)の4基体制とする方針を固める。読売新聞によれば08年度以降の配備分は国内でのライセンス生産する予定とのことで、日本の防衛企業もすでにお見積書を提出していることだろう。また海上自衛隊も米軍の電子偵察機RC135S(通称コブラボール)の新規導入を検討し始めている。
読売新聞社が6、7日の両日に実施した緊急全国世論調査では、米国と協力して「ミサイル防衛(MD)システム」の整備を急ぐべきかについて、63%が「そう思う」と答え、「そうは思わない」は24%となっており、この調査内容は英文にされて米国への祝電扱いで大量にばらまかれているに違いない。
■逃げ切るカナダ
7月7日に産経新聞が真っ先に報じたテポドン2号ハワイ照準説は、ロイターやAPによって英訳され瞬く間に世界中に配信された。これによって真珠湾の記憶を呼び起こし、米国民を奮い立たせ、米国を北朝鮮にぶつけることができればいいが、裏側を覗けばそんな単純なシナリオで動いているとは思えない。
おそらくブッシュ大統領とその取り巻きにいる日米軍産インナー・サークルは、せめてハワイ周辺海域まで届かずともその一歩手前までは到達して欲しかったというのが本音であろう。そうなれば距離的にカナダも他人事ではなくなるからだ。
米国はカナダに対しても公然とミサイル防衛(MD)システムへの参加要請をしていたが、マーティン自由党政権時の05年2月に不参加の意志を表明している。今年2月のハーパー保守党政権誕生後、ここぞとばかりに米国は巻き返しを謀ってきた。ミサイル発射直後の6日にはブッシュ大統領とハーパー首相との会談が行われたが、どうやらここでも再度参加要請が話し合われたらしく、会談後の共同記者会見でハーパー首相は「MD参加に関する議論を再開する準備ができていない」と表明、またしても逃げ切りに成功したようだ。
米国のミサイル防衛の歴史は古く、現在の原形は冷戦下のレーガン政権時代に開始された「戦略防衛構想(SDI)」に端を発している。以来現在まで米国は累計約10兆円を超える投資を行っており、この回収と将来の利益につなげるべく官民挙げて必死で世界中に押し売りしているのである。
カナダのように逃げ切れない日本は、共同開発費を含め総額1兆円を上回る負担を強いられることになる。金額に見合った効果が得られればいいが、実戦に耐えうる精度に達するまでには更なる膨大な費用と時間が必要になるだろう。
決して口には出さないものの、日米軍産インナー・サークルはその時まで凶暴なままの北朝鮮でいてほしいと密かに願っているに違いない。彼らにとって都合のいい敵の本丸はあくまでも中国、しかし何をしでかすかわからないという意外性ではやはり見劣りする。期待通りの役割を演じることでその存在意義を世界に見せつけた北朝鮮の狙いもこのあたりにある。
とはいえ米国の下請け的な日米軍産インナー・サークルとは距離を置いて、日本人としての気概に目覚め、日本独自のミサイル防衛にこだわる日本主体の軍産インナー・サークルの登場を内心待ち望んでいたりもする。
■統一教会得意の「誕生日プレゼント」
アーミテージ元米国務副長官が講演した「日米同盟と対東アジア政策」には安倍晋三官房長官も招かれていた。この時の講演で安倍晋三はテポドンのほかノドン、スカッド・ミサイルを発射する可能性について事前に把握しており、5日早朝6時半過ぎという極めて異例な早さで実現したシーファー駐日米国大使との官邸での会談も打ち合わせ通りだったと得意げに披露している。
この安倍晋三にブッシュ大統領と金正日総書記とくれば、どうしても気になるのが合同結婚式や霊感商法などで知られる宗教団体「世界基督教統一神霊協会」(統一教会)の存在である。
統一教会創始者の文鮮明とその妻が昨年創設した「天宙平和連合(UPF)」が今年5月に日本国内12カ所で「祖国郷土還元日本大会」を開催、同月13日の福岡市での大会では安倍晋三官房長官や自民党の保岡興治・元法相名の祝電が読み上げられた。
この件で安倍晋三は「私人の立場で地元事務所から『官房長官』の肩書で祝電を送ったとの報告を受けている。誤解を招きかねない対応であるので、担当者によく注意した」とのコメントを出しているが、ポスト小泉を狙う大事な時期のことだけに釈然としないものがある。
この大会では安倍晋三を「岸信介元総理大臣のお孫さんでいらっしゃり・・」として紹介しているがこれには深い意味がある、反共を旗印にした世界反共連盟(WACL)のもとで統一教会の政治団体である国際勝共連合が設立されたのが1968年、その設立には安倍晋三の祖父である岸信介、そして笹川良一や児玉誉士夫といった戦後右翼の大物達も関わった。安倍晋三の父、晋太郎も勝共推進議員名簿に名を連ね、統一教会も安倍晋太郎政権の実現のために積極的に動いた時期もある。
このWACLの議長を務めたジョン・シングローブ米退役陸軍少将はベトナム戦争当時には暗殺や秘密工作専門の特殊戦争統合司令官、後に在韓国連軍司令官を務めた。イラン・コントラ事件で重要な役割を果たしたノース中佐は部下の一人である。WACLと米中央情報局(CIA)とのつながりは深く、シングローブもCIA出身、そしてCIA長官を務めたブッシュ・パパも統一教会とは切っても切れない関係にある。
ブッシュ・パパは1995年9月に夫妻で来日、文鮮明の妻が率いる「世界平和女性連合」が東京ドームで開いた大会では祝電どころか講演まで行っている。翌年にもアルゼンチンを訪問、統一教会系の地元新聞の創刊パーティーでスピーチしている。息子のブッシュ現大統領も、2002年5月にワシントンで開かれた統一教会系ワシントン・タイムズ紙創刊20周年の集まりにメッセージを寄せているが、このワシントン・タイムズ紙はイラン・コントラ事件でも一貫してレーガンを擁護する記事や社説を掲載、ブッシュ父子の選挙活動においても明確に支持を宣言した。
統一教会はワシントン・タイムズ紙以外にも世界日報、UPIを傘下に持ちながらメディア戦略を強化してきた。一方で北朝鮮との関係では力による勝共から今や経済相互依存関係に移行しつつある。経済力によって北朝鮮を内部崩壊させるのが狙いであろう。そのきっかけは1991年末の文鮮明と故金日成主席との会談であり、その後北朝鮮でのホテル経営、ソウルからの直行ツアー事業などを展開、その中には文鮮明の定州(チョンジュ)にある生家を訪れる「聖地巡礼」ツアーもある。
とりわけ象徴的なのは自動車事業で、統一教会系列の平和自動車は北朝鮮の「朝鮮民興総会社」と70対30の資本比率で北朝鮮・南浦工業団地に合弁自動車工場を設立、イタリア・フィアット社の「シエナ」と「ドブロ」の部品から組み立て生産した「ポックギ(かっこう)」、「フィパラム(口笛)」などを生産している。この車名は男女の愛がテーマの歌謡「フィパラムとポックギ」に着眼した金正日総書記本人が直接名付けたと伝えられており、極めて異例なことに平壌に続く道路にはフィパラムの看板広告が立ち並んでいる。
当然のことながら統一教会と金正日の間に相当な金が動いていたことは十分予測される。長年にわたって統一教会を追跡しているベテラン調査レポーターのロバート・パリーは、米情報自由法を申請して入手した米国防情報局(DIA)文書から、文鮮明が関係する団体が北朝鮮指導者に対して何百万ドルもの資金提供をしており、その中には金正日への300万ドルも含まれていると報告している。なんとこの300万ドルは金正日への「誕生日プレゼント」として贈られたものだった。
今回の北朝鮮のミサイル発射で安倍晋三はまた一歩総理の椅子に近づいた。とても気になるこの安倍晋三の誕生日は9月21日。注目の小泉首相の後継を選ぶ自民党総裁選の投開票は誕生日の前日、9月20日に行われる。この時に備えて、一応追加の「誕生日プレゼント」が準備されているのだろうか。
□引用・参考
YIES特別講演会「日米同盟と対東アジア政策」
2006.07.07 読売新聞
War threat as North Korea talks tough
Peter Alford, Tokyo correspondent
08jul06
http://www.theaustralian.news.com.au/printpage/
0,5942,19721155,00.html
ミサイル防衛PAC3、配備前倒し…来年中に4基体制
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060708it01.htm?from=top
北朝鮮ミサイル、制裁措置「支持」が92%…読売調査
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060707it12.htm?from=top
テポドン2号、ハワイ周辺海域に照準
http://www.sankei.co.jp/news/060707/kok011.htm
The Moon-Bush Cash Conduit
By Robert Parry
June 14, 2006
http://www.consortiumnews.com/2006/061406.html
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