「ポスト小泉」のみならず「ポストアナン」を考えてみたい。10月の国連総会で任期5年の次期国連事務総長が選出される運びである。それも次期国連事務総長は、アジア国家から出る可能性が高いにも拘らず日本ではあまり議論されてないようである。
日本外交の3本柱が、日米同盟、アジア外交、国連外交であるとすると、国連の頂点に立つ総長の存在は重要である。過去の国連事務総長の国籍(ノルウェー、スウェーデン、ミャンマー、オーストリア、ペルー、エジプト、ガーナ)が示すように、国連外交は妥協の産物であると言われる如く、大国でなく中立国や小国から選出されてきた。日本と波長の合うアジア国家から次期国連事務総長が選ばれるか、反日的なアジア国家の息のかかった代表が国連を運営するかにより日本の国益や安全保障にも大きな影響を及ぼすものと考えられる。
キャピタルヒルの上院の外交委員会で行われたボルトン国連大使の公聴会に出席(5月25日、9時半―12時)し、国連改革に対する米国の見解を垣間見たのでそれを記したく思う。
通常の外交委員会と比較して、上院議員から厳しい質問が飛び交い、ボルトン国連大使とのバトルが見られた。その空気から米国の国連改革に真剣に取り組む姿勢を感じると同時に国連に対する不満や苛立ちが蔓延しているようにも感じた。
ネオコンの中心的存在であり核問題等で強硬な姿勢を崩さぬボルトン国連大使は、国連改革という変化に対応するにタフな存在でもあるし、また危険な存在でもあると思われる。
国際テロ、地球環境問題、人権問題、民主化、エイズ等の多国間で協議すべき問題が増えており国連の役割が重要視されている。
それらの問題を解決するために効率的な国連の運営を行うための国連改革、とりわけ機構や事務改革が必要である。
米国は国連の通常予算分担金の約22%を拠出している。同盟国である日本は約20%であり、日米の二国で全体の40%以上を占めている。一方、グループ77など発展途上国171カ国の合計は、約11%である。中国は2%、ロシアは約1%であり、発言権と分担金は不公平な関係にある。
国連安全保障理事会の拡大を望む日本、ドイツ、インド、ブラジルによるG4決議案に対する米国の姿勢は消極的であるが、日本の常任理事国入りには賛同している。
人権の抑圧を行っている国が国連人権委員会に入っており、国連の人権問題を困難にしている。
■次期国連事務総長の動き
上院の外交委員会の公聴会で上院議員がボルトン国連大使に次期国連事務総長の動きについて質問がなされた。ボルトン国連大使は、「国連事務総長の選出は、最重要議題の一つであり、この1年ほど水面下で議論されている」との返答があった。しかし、暗黙の了解で具体的な動きについては話されなかった。
正式に立候補しているのは、タイのスラキアット副首相、スリランカのダナパーラ前国連軍縮局長、韓国のパン・ギムン外交通商部長官の3人である。その他、東ティモールのノーベル平和賞受賞者のホルタ外相などが挙がっている。
中国がタイの候補を推薦する動きを示している。ボルトン国連大使は、ポーランドの元大統領を推す動きがあるが、現実の動きは複雑である。
常任理事国の拒否権が認められ、安保理15カ国のうち9カ国の推薦を受けなければならない。エジプトのガリ国連事務総長は、安保理15か国中、14カ国の支持を得ながら、米国の拒否権行使により再選を阻まれたという例がある。
中国・ロシアの台頭が著しく、国連改革、安保理拡大の問題も絡み、米英仏と中ロの対立により、次期国連事務総長選出は難航すると予測される。
韓国は、日本より国連常任理事国である中国に接近すると考えられるが、日米の親密な国連外交から日本との関係も大切にすると読む。仮に国連常任理事国であり、核兵器を保有し、靖国問題等で反日的な行動を示す中国と関係の深い国が国連事務総長に選出された場合、日本の国連外交は弱体化する。
ベストのシナリオは、米国と協議し日米の利益に担うアジアの候補を国連事務総長として選出し国連改革を進めることである。名前をあえて挙げないが、外務大臣、国連機関の長官を経験し、親日、新米でありながら中ロとも協調できるアジアの候補者は存在している。本命は、最終局面まで表に出ないようである。
最悪のシナリオは、反日的な国連事務総長が選出され、日米が国連を軽視する行動に出る事態である。ブッシュ大統領とブレア首相はイラク戦争の失策を認知した。それ以上に米国民は、中東の民主化等の海外への干渉より、米国内の充実並びに投資を望んでいる。換言すれば、孤立主義に向かう傾向にある。第一次世界大戦の教訓と米国のウッドロー・ウィルソン大統領の提唱により生まれた国際連盟には、米国が加盟しなかった。米国の孤立主義が、外交の真空状態を形成しファシズムの台頭を許し、第二次世界大戦を勃発させたとすると米国の孤立主義を回避する多国間外交は非常に重要であると考えられる。
■協調の理想としての国連を
国連は、戦勝国で構成されている日本から見れば不平等な多国間機構である。しかし、世界大戦の膨大なる犠牲を経て生まれた平和を構築するための世界的な機構である。筆者は国連の機構に7年間勤務し、国連を内部から観察した。国連を地球益を追求するための最重要機構だと思うが、理想と現実を握手させるためには抜本的な改革が必要であると考える。
日本では、いや米国でも国連への分担金は血税の無駄遣いだという議論も聞かれる。しかし、冷静に国連の分担金を考えてみるとそれ程、高額だとは思えない。例えば、190カ国以上が加盟する国連の通常予算分担金の合計は、年間で1754百万ドルである。2000億円に満たない。日本の分担金は、約400億円である。一人当たりで換算すると400円である。一方、日米同盟に伴う米軍の再編に関わる日本の負担は、3兆円とも言われている。沖縄からグアム島への約8000人の米海兵隊の移転に伴う日本の財政負担は約7000億円と言われている。この移転費用の額だけで国連の3年分の予算である。
アーノルド・トインビーは、「歴史の研究」の中で国連について以下の見解を述べている。
衰退に至った文明の歴史の中に、必ずしも実現することに成功しなかったとしても、事態を収拾する別の解決法が発見されたことが認められる。それが協調の理想である。その精神が現代に現れたのが、国際連盟と国際連合である。国連そのものは、世界のそれぞれの国の人民とは直接つながっていない。政府を通じてつながっている。人民に直接つながる国連が必要である。
中野さんにメール nakanoassociate@yahoo.co.jp
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