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ハミルトンプロジェクト

2006年04月23日(日)
Nakano Associates 中野 有
 ワシントンのブルッキングス研究所が今月始めにブッシュ政権の経済政策に挑戦する「ハミルトンプロジェクト」を発表した。ブルッキングス研究所で開催されたそのシンポジウムは、期待と好奇心と緊張感の空気で満ち溢れていた。

 このプロジェクトは、ハーバード大学やプリンストン大学を主席で卒業した実務者を始め産官学の約30人の叡智を結集し、実践向きに設計されたものである。ブルッキングス研究所のピーター・オーザックのコーディネートにより、ロバート・ルービン元財務長官、若手黒人のカリスマ的な存在感を示すバラック・オバマ上院議員が基調講演を行った。今週号のエコノミスト誌の表紙には、次期大統領選に影響を与える人物としてオバマ氏が入っている。

 米国の経済政策の未来像を把握する意味でハミルトンプロジェクトを知る必要があると思う。シンポジウムで学んだエッセンスを説明したく思う。以下のエッセンスからは、それ程、新しいビジョンは見られないと思う。でも、現政権の経済戦略とは明らかに違い、民主党の考えらしく中間層や弱者への教育や勤労の機会の増大を通じた米国の経済成長戦略が練られているところに魅力を感じる。このシンプルな経済戦略が、米国の実務を経験した最高の頭脳集団で考案されたと思うと今後、米国内で浸透していく可能性はあると考えられる。

 同時に米国の孤立主義への動きが指摘されているが、米国国内の投資に主軸を置くこのプロジェクトの意味する所は、無益な世界への干渉をできる限り排除し、国内に投資することにより米国を活性化させる政策を垣間見ることができる。また、日本の野党が自民党に対抗する経済戦略としてハミルトンプロジェクトは活用できると思われる。余談だが、日本では高橋是清プロジェクトの方が良いかと思う。

 プロジェクト名は、米国の初代財務長官のアレクサンダー・ハミルトンに由来している。西インド諸島で育ったハミルトンは独学で貧困を克服しワシントン大統領の右腕として米国の財政政策、金融システム、商業主義の基礎を築き、10ドル紙幣にも載っている。ハミルトンは、伝統的な米国の価値観を代弁する人物であり、ブルッキングス研究所が21世紀の今日、米国の経済政策の原点に戻り経済成長戦略を策定するにあたり、ハミルトンを礎にしたところに不思議と新鮮味を感じる。

 米国の価値観は、教育と勤勉を通じ豊かな人生の機会を提供してくれるところにある。しかし、今日、価値観を見出す投資がなされているのであろうか。今、求められているのは、長期的な繁栄と成長に向けた明確な経済政策であり、空論や政策上の主義を述べるのでなく成功の証となる実践や経験の新機軸となる理想の経済成長戦略である。

 米国が抱える問題

 1.世界の5%の人口を占める米国が20%の世界経済を担っているにも拘らず世界の繁栄に向けた未来志向的な政治的な意思が見られない。

 1.財政不均衡、最大の財政赤字(GDPの2.5%, 3000億ドル)、今後10年で5兆億ドルに達すると予測される。

 1.慢性的な財政赤字、低い貯蓄率、外資の依存は、米国の生活水準を低下させる。

 1.中国、インドをはじめとするグローバル経済の影響力に対し米国の革新的な科学技術の分野への大幅な投資なしでは米国の国際競争力が低下する。

 これらの問題に対処する経済成長戦略としてハミルトンプロジェクトの3つの基本原則
 1・ 大多数の国民が経済成長の恩恵を受けることができる経済政策
 1947−1973年の中間層の年間平均の経済成長は、2・8%であった。1973年以降、生産成長率は、2・7%にもかかわらず中間層の年間平均所得の上昇は1%であった。高額所得層に不均衡に分配されるシステムを是正する必要がある。

 2・ 経済保障と経済成長の両立
 経済成長は経済保障を増大させると同時に、経済保障は、経済成長を実現させために必要である。教育、健康保険、トレーニング等への適度な財政支援は、国民に経済的な刺激・動機を提供する意味で重要である。

 3・ 効率的な政府は経済成長を促進させる
 市場経済は経済成長の礎である。しかし、民間セクターの投資が拡充されない分野への政府の効率的な投資は重要である。

 ハミルトンプロジェクトの4つの機軸

 1・教育分野への投資と仕事の機会の提供
 米国経済の成長は、人的資源に依存している。政府の試算によると、米国の民間の建物等の資産は13兆ドルであるが、人的資源は48兆ドルとなる。幅広い層へ教育の機会が提供されることにより競争力のある分野への潜在的な労働力を生み出す。

 2.イノベーションとインフラ整備
科学技術の発展を目指すインフラ整備は、経済発展の機軸である。スイスの研究機関(IMD International)の発表によると、世界のトップ50の科学技術研究機関の内38が米国の研究機関が占めている。しかし、米国の科学技術の影響力が低下傾向にある。4年以内に、中国人のエンジニアの博士の人数が米国を追い抜くと予測されている。科学技術の分野への本格的な投資・社会資本整備が必要である。

 3・貯蓄と社会保険
 米国の貯蓄率は急激に低下している。その一因は、健康保険のコストが影響している。
 4.効率的な政府
 民間経済と効率的な政府の相互補完的な統合的な協調が経済成長を維持させる。

 今日、米国はグローバル経済の指導者として様々な挑戦を受けている。今、次世代に向けた幅広い層が経済成長の恩恵を享受できる先行投資が期待されている。

 中野さんにメール nakanoassociate@yahoo.co.jp

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