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源流と表流の考察
ユーラシア・アジア太平洋時代の到来


2005年03月25日(金)
アメリカン大学客員研究員 中野 有
 中国の経済成長に伴い、日中の経済連携も増加しているが、同時に中国脅威論も盛んである。安全保障の分野でも、日米同盟や戦略的開発同盟を基軸に日本の積極的な紛争予防や復興支援も行われている。このような表面的な現象からも、日本の座標軸を揺り動かすだけの歴史的潮流が押し寄せていることが観察できる。その歴史的潮流を人類文明の推移、ユーラシア大陸の統合、多面的視点で考察してみたい。

 ■人類文明の中心軸の推移と東西の融合

 立命館大学の坂本和一副学長のビジョンは、広く深く雄大である。人類文明の大きな流れを以下のように述べておられる。

「ユーラシア大陸に誕生したメソポタミア、エジプト、インダス、中国文明には、二つの流れがある。主としてメソポタミア文明、エジプト文明を出発点として、その中心舞台が次第に西方に遷移していった。もう一つの方向は、主としてインダス文明と中国文明の動きである。これらは、中心舞台が遷移するというよりは、それを古代文明発祥の地が引き継ぎつつ、その影響が周辺、つまりアジアの各地域に拡大し、韓国、日本、ベトナム、東南アジアなど、地域毎に多様な文明が展開していった。中国、インド文明を発祥とするアジアの諸文化の蓄積と、他方、西方への中心舞台の推移のなかで進化してきた人類文明の流れがアジア太平洋地域を舞台に改めて融合を遂げる可能性がでてきた。これまでの人類史の上では、「東西文明の融合」といわれる現象はいく度か起こっている。とくにシルクロードを通じての「東西文明の融合」が有名で、さらに「海のシルクロード」といわれるインド洋を通じての「東西文明の融合」がある。しかし、今度のそれは、人類史が経験しなかったレベルのものであり、これまでの人類文明史の蓄積を総集約するレベルの「東西文明の融合」といってよい」。

 ■ユーラシア大陸の胎動

 7000年の人類文明の大きなリズムの中で、その中心軸は西へ移っているが、同時に東西の冷戦後のユーラシア大陸の潮流は、EUやNATOの拡大に伴い東に移動している。ヨーロッパは、世界の人口の集積地である中国やインドのパワーに惹きつけられている。また、ヨーロッパとロシアの関係が密接になっている。これらのヨーロッパの東方への流れは、ユーラシアにおける東西の融合を活発化させている。

 日本人の遺伝子は、北方系と南方系の2つの遺伝子の複合で構成されており、特にウラルアルタイ語の文化圏(日本語、モンゴル語、朝鮮語)に限りなき関心を持ってきた。韓流ブームで、数千億円の経済効果が生み出されたのも日本人の大陸に親しみを覚える遺伝子と関係しているからだろう。

 
 アジアの経済発展は、日本―NIES(台湾、韓国、香港、シンガポール)―ASEAN―中国と続く雁行型発展形態で成し遂げられてきた。しかし、東アジアの経済危機後は、中国の興隆が際立ち10年後には日本を追い抜き一気にアジアの先頭に立つ勢いである。東アジアの国際水平分業や直接投資の動きは、概して、東から西へ向かっている。即ち、確実に中国に惹きつけられている。

 歴史的潮流の中で中国の発展を観察すると、この150年の中国の停滞は一時的な現象に過ぎないと考えられる。16世紀のスペイン・ポルトガルの大航海時代以前の中国は、世界の中心であり、少なくともそれが1000年間続いた。特に18世紀後半の産業革命をバネとしたヨーロッパ優位の時代で、中国の地位が大きく低下したが、70年代後半から始まった中国の改革開放政策の成功による中国の発展は、目覚ましい。中国の経済力は、今年、イギリス、5年後にはドイツ、10年後には日本、20−25年後にはEUそして30年後にはアメリカを追い抜くと予測されている。これらは、必然的な中国の復活であると解釈できる。加えて、インドの経済力も中国に続く勢いで成長している。

 ■宗教の対立と調和

 冷戦は米ソを中心としたイデオロギーの対立であった。冷戦後は、民族紛争、宗教の対立が顕著である。世界人口の3割を占めるキリスト教が、経済、安全保障、政治、科学技術の中心であり、世界人口の2割弱のイスラム教が、化石燃料によるエネルギーの中心である。そして0・4%であるユダヤ教がこれらの根元的な分野において大きな影響力を及ぼしている。これら一神教の宗教間の兄弟喧嘩が冷戦後の不安定要因を作りだしている。これらの宗教はユーラシア大陸の西方で生まれ、ヒンズー教、仏教、儒教、神道は東方で生まれた。キリスト教は、主にヨーロッパ、アメリカと西へ拡張し、イスラム教は、主に東や南に拡張し、仏教と儒教は東に移動した。

 ユーラシア大陸の人口は、世界の3分の2以上を占めている。世界の人口のへそ(中心)は、中国とインドであり、この両国と如何に宗教上の摩擦を低下させながら経済発展に結びつけるかがキリスト教国家やイスラム国家の課題でもある。

 宗教を大きく分類すれば4つのパターンがある。第1は、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の一神教のパターン、第2は、インドのように多くの宗教が混沌としているパターン、第3は、中国のように国が正式に宗教を認めないパターン、第4は、日本のように神道、仏教、キリスト教、新興宗教と同時に多くの宗教を理解できる多神教のパターンである。宗教の視点で考察すると、加速度を増す中国、インドを中心としたダイナミックな「東西文明の融合」に柔軟に対応できるのは、キリスト教やイスラム教の一神教より、日本の多神教だと考えられる。

 
 ■海洋国家と大陸国家

 日本はユーラシア大陸の東の果てに位置する海洋国家である。一方、英国は、西の果てに位置する海洋国家である。米国と英国のアングロサクソンである海洋国家が、中東の民主化と石油の確保を目的にイラク戦を強硬に行った。米英に追随したのは、海洋国家である日本であった。他方、大陸国家であるフランス、ドイツ、ロシアは、戦争に反対した。

 日本人は農耕民族であると同時に、モンゴルの大草原に留まることなく太平洋まで移動した狩猟民族の遺伝子も引き継いでいる。また、大陸の北方系と海洋の南方系がブレンドされた多様性に富んだ民族でもある。歴史が語るように日本は、力で大陸に進出したし、敗戦後は、一貫して平和路線を貫いている。

 ■多面的かつ時空を越えた俯瞰視

 世界にはヨーロッパ、北米、東アジアを中心とした3極の経済圏が存在している。制度的には、EUやNAFTAが進んでおり、東アジアは発展途上にある。中国が華僑との連帯で東南アジアを包み込み、また朝鮮半島においては、中国の勢力が増している。中国を中心とした東アジア共同体や経済圏が拡張する地政学的動向を支持する考えも懸念する考えも聞かれる。歴史的潮流を考察するとヨーロッパや北米は、アジアのパワーに惹きつけられると考えられる。従って、米国が懸念する中国を中心とする東アジア経済圏を全面的に出さなくても自然発生的な開かれた経済圏が成り立つ。

 アジア太平洋を挟み歴史の浅い米国と歴史の最も深い中国との戦略的な競合が既に始まっている。よって、北朝鮮問題は、米中の戦略上の問題でもある。米国の歴史は浅いがユーラシアの西の文明が西に移動しながら蓄積されたのが米国の文明でもある。

 1世紀前にアインシュタインは、相対性理論を生み出した。また戦後は、戦争の犠牲により創立された国連を超越する博愛主義に根ざした「World Government」を提唱した。時代の空間を越え、人類文明の基軸が、米国と中国との接点であるアジア太平洋で融合する。人類史上希なる潮流の中で日本の役割を明確にしなければいけない。開発コンサルタントとして歴史的潮流の中でユーラシアやアジア太平洋の広大な空間に大きな開発構想を描くことが求められている。

 参考文献
 坂本和一 「アジア太平洋時代の創造」法律文化社 2004年
 Sachs, Jeffrey D. The end of poverty. The Penguin Press. New York 2005.
Einstein, Albert. Out of my later years, Philosophical Library, New
York,1950

 中野さんにメールは mailto:tomokontomoko@msn.com

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