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ラスト・リゾートをめぐるふたつの戦い
2004年12月01日(水)
萬晩報通信員 園田 義明
■巻き起こる「北朝鮮・レジーム・チェンジ」論
情報通信社インター・プレス・サービス(IPS)やアジア・タイムズ・オンラインなどで活躍し、日本メディアの隠れたネタ元として知る人ぞ知る存在となってきたジム・ローブが11月23日に「タカ派は北朝鮮でのレジーム・チェンジ(体制変更)を押し進める」と題するコラムを掲載し、アジア各国で大きな話題となっている。
この中でローブは、ウィークリー・スタンダード誌の編集長としてネオコンの代表格を務めるウィリアム・クリストルが「北朝鮮のレジーム・チェンジに向けて」とする声明をオピニオン・リーダー向けに配布したことを明らかにしている。
クリストルはニコラス・エバースタット・アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)客員研究員のウィークリー・スタンダード誌掲載の論文を引用しながら、ブッシュ政権二期目の最優先事項の一つは北朝鮮問題であると明言している。
エバースタット論文は「専制政権を崩壊させよ」とする刺激的なタイトルから始まり、北朝鮮問題に対する米国のアプローチは明らかに欠陥があると指摘した上で、非外交的手段なオプションの必要性を説いている。これまでのエバースタット発言から、この気になるオプションには経済制裁、そして軍事攻撃までもが含まれていると考えられる。
論文に先立って11月9日に行われたAEIの「第二期ブッシュ政権の外交政策」をテーマとするセミナーに出席したエバースタットは、この非外交的手段なオプションが外交的手段による解決の可能性をも高めるとしながらも、「北朝鮮への軍事攻撃での核開発阻止という最終の方法は犠牲やコストの巨大さのために不可能と断じる向きがあるが、決して考えられないということではない」と述べている。
■日米ネオコンの狂宴
ここで気になる日付について整理しておきたい。
クリストルの「北朝鮮のレジーム・チェンジに向けて」が「新しいアメリカの世紀のためのプロジェクト(PNAC)」のウェブ・サイトで公表された日付は11月22日である。
エバースタット論文「専制政権を崩壊させよ」はウィークリー・スタンダード誌の11月29日号に掲載されているが、ウェブ・サイトに掲載された日付は11月19日である。
そして、PNAC公表に合わせるかのようにフジテレビの「報道2001」に出演し、全く同じ主旨の発言を行った政治家がいる。この発言内容は次の通りである。
「多くの人が命がけで国から逃げようとしている状況で、金正日政権が今後も存続していくことができるのか。この政権と交渉して果たして結果を出すことができるのか、最近疑問を感じている。レジーム・チェンジの可能性も選択肢に入れたシミュレーションを今からはじめておく必要がある」(産経新聞朝刊より)
この発言の主は自民党の安倍晋三幹事長代理である。そして、この「報道2001」は11月21日に放送された。
このネオコンと安倍晋三をパイプ役となっているのが産経新聞の古森義久であり、古森は11月9日のAEIのセミナーに関する記事を11月11日付け産経新聞で掲載している。
この日付の関係から、すでに安倍晋三は古森義久を通じて完全に米国のネオコンと一体化していることがわかる。
安倍晋三が今年4月29日(日本時間30日)、AEIで講演し、ネオコンの首領としてキリスト教右派とユダヤ系米国人を結びつけ、ウィリアム・クリストルの父でもあるアーヴィング・クリストルに対して深い尊敬の念を表したことはすでに拙稿『ふたつのアメリカ/ 「ムーア vs ミッキー」とBCCIスキャンダル』で取り上げた。
エバースタットは今や韓国が逃亡した同盟国とした上で、韓国国民と直接話し合いながら、窮極的には同盟を回復させるための韓国内の政治集団を建設、育成しなければならないと力説しており、現在の米国にとって頼もしい存在としての韓国版安倍晋三を待ち望んでいるようである。
■エバースタット家と偏狭なラスト・リゾート
「政界のプリンス」こと安倍晋三は、安倍晋太郎元外相の二男で、自宅をデモ隊に取り巻かれながら日米安保条約改定を強行し、憲法改正に執念を燃やした岸信介元首相の孫に当たる。
一方のニコラス・エバースタットは作家兼写真家の父フレデリックと母イザベルの間に生まれた。フレデリックの父、つまりニコラスの祖父はフェルディナンド・エバースタットである。
このフェルディナンド・エバースタットこそが戦中戦後における軍産インナー・サークルの中心人物であった。
フェルディナンドは名門投資銀行ディロン・リードなどを経て、第二次世界大戦中には戦時生産局副長官(計画担当)として原爆開発に関わり、終戦直後の1945年9月にはエバースタット・レポートを作成、戦争の規模や頻度の異常な増大と原爆に象徴される科学技術の進歩によって米国は厳しい挑戦にさらされており、これを回避するために戦争動員の迅速化と兵器開発の中枢としての国防総省、国家安全保障会議(NSC)、中央情報局(CIA)の創設を提案した。つまり、フェルディナンドこそがこの三機関の生みの親なのである。
このフェルディナンドは母校であるプリンストン大学の名門クラブとして知られるコテージ・クラブを中心に名門大学出身者を「グッド・マン・リスト」として結集させた。この中には初代国防長官となるジェームズ・フォレスタル、ユダヤ系財界代表バーナード・バルーク、"エレクトリック・チャーリー"ことチャールズ・E・ウィルソン、ルシアス・グレイ、クラレンス・ディロン、ウィリアム・ドノヴァン、ジョン・F・ダレス、アレン・ダレス、W・アヴレル・ハリマン、ハーバート・フーヴァー、デイヴィッド・リリエンソール、ウォルター・リップマン、ジョン・J・マクロイ、ロバート・パターソン、ロバート・ロヴェットなど、当時の政財界を代表する人物が名を連ね、以後国防総省と産業界と一体化させながら冷戦時代を見事に演出していった。
そして、その孫がネオコンを装いながら南北朝鮮問題の専門家として急浮上してきた今、歴史がその祖父の時代へと逆戻りし始める。ラスト・リゾートにかける彼らの想いが伝わってくるようだ。
■バック・パッシング合戦の行方
彼らにとって既に内部崩壊の兆候が見え始めた北朝鮮は緊張を煽るための道具でしかない。北朝鮮問題を契機に北東アジア一帯の緊張を高めることで巨大な兵器庫を作り上げることが狙いである。
しかも、ネオコンが何と言おうが背後にいる彼らは北東アジアの地では脅しだけで最後まで自ら手を下すことはない。他国に対峙させ、場合によっては打ち負かす仕事をやらせる戦略を採る。そして、息の根を止める最後の一撃の瞬間に彼らは現れる。これが戦略としての「バック・パッシング(buck-passing=責任転嫁)」である。
この「バック・パッシング」は米国のみならずEUも採用するに違いない。北東アジアにおける米国にとっての他国とは日本であり、米国に対抗するEUにとっての他国とは中国である。過去の事例から考えれば、すでに米国とEUは日中を中心とする巨大兵器マーケットの創出に向けて手を組んでいると見ていい。
米・欧にまたがる軍産インナー・サークルが紳士を気取りながら仲良くラスト・リゾートとしての北東アジアにすでに群がり始めている。米軍の変革・再編(トランスフォーメーション)に伴い、陸軍第一軍団司令部のキャンプ座間(神奈川県)への移転や横田の第五空軍司令部の第十三空軍司令部(グアム)への移転・統合などが日本に打診され、まもなくEUの中国に対する武器禁輸措置も解除される。
■もうひとつのラスト・リゾート
北朝鮮拉致問題と並んで小泉首相の靖国参拝問題が急浮上してきた。靖国が教科書問題ともに中韓両国によって「歴史カード」に使われるのは対外政策の未熟さの表れに過ぎない。また中韓両国が恐れるのは小泉首相に国家神道の亡霊を見ているからだろう。
この靖国参拝問題や「飛んで火に入る夏の虫」としての中国原潜領海侵犯事件を表面化させることで、日本政府は新たな「防衛計画の大綱」案に中国の安全保障上の「脅威」を盛り込ませることに成功し、事実上の日中冷戦時代の幕開けとなった。
同時にミサイル防衛(MD)システムのおこぼれを回収するための武器輸出三原則の見直しが進められ、憲法改正によって名実共に米国の身代わりとして進み出ていくことになる。そして、米国は最後の仕上げとして米国か中国かの踏み絵を迫り、この時初めて日本人はことの重大さに気付くのである。
米国生まれの憲法九条を盾に米国に依存しながらのらりくらりとかわしていく日本流「バック・パッシング」戦略も老朽化で役に立たず、ひ弱な反戦平和運動はなすすべもなく立ちすくみ、北東アジア構想などは無残にも引き裂かれ、もはや八方塞がりの中で最新兵器に取り囲まれた緊張感溢れる素敵な生活が目前に迫っている。
無駄だと思うが、まもなく訪れる中国経済のバブル崩壊後を狙って、米国のネオコンとキリスト教右派から成る「左手に兵器、右手に聖書」連合の反共思想を刺激し、日本の身代わりとして中国にぶつけるシナリオは今から用意しておくべきだろう。安倍晋三や古森義久、そしてこの二人を支持する方々も、信じるものに従って米国へと旅立ち、「左手に兵器、右手に聖書」連合の旗の下で共に戦えばいい。
日本に残る人々にはもうひとつの戦いが待っている。伝道者としての宮崎駿がアニメを通じて世界に広めた神道や縄文の思想が、今再び偏狭な小泉国家神道によって壊されようとしている。根源としてのラスト・リゾートになりえるこの「太古からの宝物」を救い出し、宗教・民族を越えて存在する内なる神道を呼び起こしながら、共生への道を切り拓かなければならない。
12月1日現在の「miyazaki hayao shinto」の検索結果はYahoo!で573件、Googleで1650件ある。
□引用・参考
Hawks push regime change in N Korea
By Jim Lobe
http://www.atimes.com/atimes/Korea/FK24Dg01.html
「米ネオコン、金総書記追放をブッシュ大統領に圧力」
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2004/
11/23/20041123000075.html
November 22, 2004
MEMORANDUM TO: OPINION LEADERS
FROM: WILLIAM KRISTOL
SUBJECT: Toward Regime Change in North Korea
http://www.newamericancentury.org/northkorea-20041122.htm
Tear Down This Tyranny
From the November 29, 2004 issue: A Korea strategy for Bush's second term.
by Nicholas Eberstadt
11/29/2004, Volume 010, Issue 11
http://www.weeklystandard.com/Utilities/printer_preview.asp
?idArticle=4951&R=A0A32EEE8
「防衛計画の大綱」案概要 新たに中国の脅威追加 政府、与党PTに提示
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041126-00000006-san-pol
▼古森義久記事
第2期ブッシュ政権の北核問題対応 非外交的手段に移行も 朝鮮情勢専門家
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041111-00000010-san-int
中国の人権改善なし 法律武器に宗教弾圧 米政府と議会の年次報告書
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041006-00000009-san-int
▼神道国際学会
http://www.shinto.org/top.htm
神道と自然の聖なる次元
ケンブリッジ大学東洋学部 カーメン・ブラッカー博士
http://www.shinto.org/drcarmen.htm
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