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球界を閉鎖系から開放系へ(10)プロ野球解体論のススメ

2004年11月09日(火)
萬晩報通信員 成田 好三
 『腐ったリンゴ』の話がある。箱の中に腐ったリンゴが1個か2個あったら、見つけ次第取り除かなければならない。そうしないと、箱の中のリンゴすべてが腐ってしまう。

 箱の中にもっと多くの腐ったリンゴがあったらどうするか。もったいない気もすぐが、思い切って正常なものも含めすべてのリンゴを廃棄するしかない。そして、箱そのものを取り替えなければならない。そうしないと、新しく入れた正常なリンゴもすぐ腐敗菌に取り付かれてしまう。

 プロ野球は、箱の中に1個か2個の腐ったリンゴが見つかった程度の、なまやさしい状況ではない。複数のリンゴ(球団・親会社)が既に腐っており、箱(プロ野球機構)そのものを取り替えなければ再生できない状況にまで至っている。

 来季からの新規参入球団が楽天に決まった後も、プロ野球は非常識な話題に事欠かない。もっとはっきり言えば、反社会的行為が繰り返されている。腐ったリンゴから発生した腐敗菌は、いまや球界全体を覆っている。

 ■2年連続で主力選手をただで放出したダイエー球団

 ダイエー球団は、昨年行った小久保裕紀の読売巨人軍への無償トレードに続き、今年は井口資仁を自由契約にした。球団にとって選手、特にスター選手は重要な経営資源である。優勝を争うには欠かせない存在であり、観客動員にも大きな役割を果たす。

 小久保、井口とも高額な価値をもつ商品でもある。有償トレードすれば、2人とも億単位の収入が球団の財布に入る。そんな高額商品を、球団は2年続けて、ただで放出した。

 小久保の無償トレードに関しては、いまもって球団から納得のいく説明はない。井口の自由契約に関しては、高橋廣幸球団社長が会見で説明をした。

 それによると、高塚猛オーナー代行(当時)が昨年の契約更改時に、中内正オーナーか高塚オーナー代行が球団経営から離れた場合は自由契約にするという「覚書」を井口と交わしていた。契約は有効であるため、井口を自由契約にせざるを得ない、という。

 そんな説明で納得できる話ではない。球団の大事な経営資源であり、高額な価値をもつ商品をただで放出する行為を、明らかに球団に不利益をもたらす行為を、球団幹部が独断で行ったならば、この行為は特別背任罪に該当する。

 球団と親会社であるダイエー本社は速やかに高塚氏と高塚氏の行為を容認した中内オーナーを特別背任罪で告訴しなければならない。球団を除く「福岡事業」を外資「コロニーキャピタル」に売却した際に、球団売却の決定権を放棄した「秘密契約」が明らかになったダイエー本社が、既に当事者能力を失っているとすれば、支援が決定した産業再生機構がその役目を果たさなければ、筋が通らない。

 高塚氏は福岡ドームなどを運営する「ホークスタウン」社長当時のセクハラ容疑で起訴されているが、容疑はセクハラにはとどまらないだろう。逮捕前の高塚氏は、一部の中小企業家グループから『カリスマ経営者』扱いをされてきた。そうした中小企業家に目を覚ましてもらうためにも、高塚氏の反社会的行為は、明らかにしなければならない。

 ■参入審査中に球団売却を持ちかけた西武の親会社・コクド

 高塚氏が行った反社会的行為に驚いていてはいけない。もっと悪質な反社会的行為が、西武球団の親会社であるコクド(西武グループの中核会社)によって行われていた。

 コクドが西武球団を売却し、プロ野球から撤退する方針を固めたことが、11月6日に明らかになった。日経が朝刊で抜き、各紙が夕刊で後追いした。

 各紙の記事の中には、見逃すことができな記述がある。各紙ともライブドアを含めた複数の企業に対し、コクドが売却を打診したと書いている。

 11月8日のサンケイスポーツ、スポーツ報知両紙によると、ライブドアの堀江貴文社長は、打診は新規参入審査の時期だったことを明らかにしている。

 コクドと西武球団は、楽天とライブドアいずれかの参入を審査中に、一方では球団売却をライブドアに持ちかけていた。しかも、新規参入を審査する日本プロ野球組織(NPB)の審査小委員会の委員には西武球団の星野好男球団代表が名を連ねている。
 
コクドの行為は、こう解釈する他はない。コクド・西武球団を含めたNPB側には、初めからライブドアの参入を認める考えは毛頭なかった。楽天を加盟させることははなから決まっていた。ただ、審査の正当性を装うために審査小委員会による参入審査が必要だった。正当な理由でライブドアを排除したという理由が必要だっただけである。

 コクド・西武球団が、ライブドアに参入のチャンスがあると考えていたならば、参入審査の最中に球団売却を持ちかけるはずはない。語るに落ちた、という言う他はない。

 ■アダルトサイトはライブドアだけの問題か

 新規参入を巡っては、メディアの取材記者数を制限した上で、録音も記者の途中退席も許さない、『公開ヒヤリング』が2度にわたって行われた。このえせ公開ヒヤリングで焦点となったアダルトサイト問題では、露骨なまでのライブドアはずしの意図が見え見えだった。

 インターネットの検索サイトからは、アダルトサイトどころか原爆製造サイトからアルカイダ関連サイトまで、若干の英語力と検索の労を惜しまない能力さえあれば、簡単に接続することができる。それがインターネットの特性である。中学生でも知っている常識である。

 アダルトサイトに容易に接続できるとして、ライブドアの検索サイトだけがやり玉にあがったが、これはおかしな話である。そんなことを糾弾するならば、楽天の三木谷裕史社長が所有するインフォシークも、ダイエー球団買収に名乗りをあげた孫正義氏のヤフーも、同じである。

 この問題で三木谷氏は、アダルトサイトを未成年者が見られない仕組みがあると説明し、委員が納得したそうだが、三木谷氏の説明自体がおかしい。検索サイトの管理者(所有者)には、そんなことができる権限も能力も機能ない。これも中学生でも分かる常識である。

 ■腐ったリンゴは取り除かなければならない

 プロ野球は、もはや再編成や小手先の改革などで再生できる段階はとうに過ぎている。真に再生させるためには、腐ったリンゴの1つや2つを取り除いても無駄である。箱の中のリンゴすべてと、箱そのものを取り替えなくてはならない。

 権限がないと逃げてばかりいる根来泰周コミッショナーを含めたプロ野球界全体の『総取替え』が必要である。役目を終えた、時代遅れになった『三文役者』には退場してもらわなければならない。

 新聞、TVなど主要メディアには期待できない。彼らは本来の役割である監視機関ではなく、プロ野球の利害当事者になっている。プロ野球12球団のうち、『勝ち組』であるセ・リーグの3球団はメディア企業が所有している。読売新聞、中日(東京)新聞、TBSである。パ・リーグ会長の小池唯夫氏は毎日新聞元社長である。他の主要メディアもプロ野球の生中継、スポーツニュースショー、プロ野球中心のスポーツ面を展開することで、プロ野球と利害を共有している。

プロ野球を再生させるためには、プロ野球ファンが、プロ野球を『ボイコット』するしかない。「裏金など反社会的行為が横行するプロ野球は見ない」「球場に足は運ばない」「TV中継もプロ野球中心のスポーツニュースも見ない」「新聞の野球のページも見ない」と宣言して、宣言どおり実行することである。

 もはや、ファンによる『プロ野球解体』運動に期待するしか、プロ野球再生への道はない。いったん解体して駄目になるようなプロ野球ならば、そうなればいい。解体後に現れた新たな担い手とファンによって、新たなプロ野球を創造すればいいだけのことである。(2004年11月9日記)

 成田さんにメールは mailto:narita@mito.ne.jp
 スポーツコラム・オフサイド http://www.mito.ne.jp/~narita/

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