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ビッグ・リンカー達の宴2−最新日本政財界地図(18)
2004年10月29日(金)
萬晩報通信員 園田 義明
■ジェイコブ・シフが小国日本を救った理由
1874年1月、ドイツ系ユダヤ人としてフランクフルトに生まれたジェイコブ・シフは18歳の時にニューヨークに渡り、ブルックリンやマンハッタンで古着の屋台店を開いて小金を貯え、やがてクーン・ローブの娘と結婚、38歳でクーン・ローブの代表となった。このジェイコブ・シフが日本を支援したのは、エドワード・H・ハリマンと共にユーラシア大陸横断鉄道に進出することによる鉄道の世界制覇に向けた野望以外に理由があった。
日本への金融協力には、クーン・ローブ・グループ以外に英国のロスチャイルド家、ドイツのウォーバーグ家、フランスの銀行家アルベール・カーンなども関わっているが、これら欧米金融界のエスタブリッシュメント達が、商売上のこととはいえ日本を手助けしたのは、彼らがいずれもユダヤ系であり、ユダヤ人を迫害していた帝政ロシアに対する強い反発があったからだ。そして、ジェイコブ・シフも当時米ユダヤ人会の会長を務めていた。彼らは、果敢にもユダヤ人を迫害するロシアに立ち向かった小国日本を助けることで、一矢を報いることができると思ったのである。
また同時に英国は、英皇室のロシア皇室との縁戚関係や有色人種支持ともとられかねない外交上の問題から、米国のクーン・ローブ・グループを参加させたいとの狙いもあった。
■ネオコンとジャクソン・バニク条項とロシア系ユダヤ移民
実はこのロシアのユダヤ人政策はイラク戦争にも深く関わっている。1974年に米国はユダヤ人などの移民の出国を制限している共産国家への最恵国待遇や政府信用供与などを制限したジャクソン・バニク条項を制定している。これはソ連がイスラエルへ移住しようとするユダヤ人に対して、事実上出国を禁止したことに対する制裁措置として、民主党のヘンリー・スクープ・ジャクソン上院議員とチャールズ・バニク下院議員が提案したものだが、このヘンリー・ジャクソンを支持し、ジャクソン・バニク条項の草案づくりに関わった人物こそが、イラク戦争を主導したネオコンのリチャード・パールである。
このジャクソン・バニク条項は大きな成果を上げ、ソ連から57万人以上のユダヤ人、エヴァンジェリカル・クリスチャン、カトリック教徒が米国へ移住し、約100万人のユダヤ人がイスラエルに移住した。その多くがブッシュ共和党政権、そしてイスラエルのアリエル・ブルドーザー・シャロン首相率いるリクードや極右政党の支持者となっている。
つまり、リチャード・パールらネオコンがソ連からの大量のユダヤ移民票を米国とイスラエルに振り分け、当時にブッシュ政権とシャロン政権をつなげる役割をも担っている。そして、このネオコンのユダヤ戦略の賛否をめぐってユダヤ系の金融機関や名門一族が大きく割れる結果となっている。
また、ロシア系ユダヤ人を引き入れることがエゼキエル書に基づくロシアの参戦を意味することから、ハルマゲドンとしての世界最終戦争を演出し、かつ煽りながら、ブッシュ政権とキリスト教右派を一体化させているのである。
■高橋是清と森有礼とスウェーデンボルグ主義
ここで高橋是清とキリスト教との関係も触れておきたい。
高橋是清を見出し、キリスト教思想の影響を与えたのが日本初の文部大臣となる薩摩出身の森有礼である。森は英国留学中にスウェーデンボルグ主義の教団のカリスマ的指導者であったトーマス・レイク・ハリスに出会いクリスチャンとなっている。
批判的な意味合いも込めてキリスト教神秘主義と称されてきたスウェーデンボルグは、スピリチュアリティ(霊性)という言葉が頻繁に登場するようになった今、「ニューエイジの父」として再び注目を集めつつある。
スウェーデンボルグ研究の高橋和夫によれば、『スウェーデンボルグは、最終戦争(ハルマゲドン)も人類の滅亡もないと説く。それどころか、人類の宗教的自立を意味する「新しい教会(宗教)の時代」が訪れると予測し、新しい時代には、個々の宗教や教会は普遍的な宗教原理−−つまり彼の有名な言葉「あらゆる宗教は生命に関係し、宗教の生命は善を行うことにある」で要約される原理−−のもとに、その形式や教義・信条の差異を超えて共生し続ける(1995年4月30日付産経朝刊)。』としている。
ハリスは、この「新しい教会(宗教)の時代」の「新しい地上のエルサレム」がアフリカのどこかかアジアの日本に出来ることを確信し、日本の神道に大きな関心を寄せていた。そして、ハリスの影響から使命感を抱いて帰国した森は、後に文部大臣としてキリスト教の賛美歌をもとにして作られた「蛍の光」「庭の千草」「隅田川」などの唱歌を日本に導入しながら「新しいキリストの道」を目指したのである。
■ふたつのユダヤ人のハルマゲドン
スウェーデンボルグが目指した宗教間の共生の中にはユダヤ教も含まれていた点が重要である。高橋是清もキリスト教思想に影響され、終生聖書を手元に置いて生きた。高橋はクリスチャンにはなっていないとする見方が定説になっているが、恩師である森有礼の影響からスウェーデンボルグ主義のクリスチャンであったことを隠していた可能性すらある。少なくとも、高橋とジェイコブ・シフの信頼関係には、スウェーデンボルグ主義が寄与したと見るべきだろう。
ハルマゲドンを回避するために、宗教間の共生の必要性を説き、「新しい地上のエルサレム」を目指したスウェーデンボルグのネットワークの中に森有礼や高橋是清がいた。
一方でハルマゲドンを待ち望むネオコン主導のキリスト教右派とユダヤ教右派との強力なネットワークの中に、現在の日本は完全に組み込まれている。
そして、これを象徴するかのように10月16日、ブッシュ大統領は2000年同様に勝敗の鍵を握るフロリダ州を訪れ、「反ユダヤ主義が現代の世界で居場所を見いだすことがないようにする」と語り、国務省の反対を押し切って、世界の反ユダヤ主義を監視し、各国のユダヤ人に対する扱いの善し悪しを毎年評価することを義務づける「全世界反ユダヤ主義監視法(the Global Anti-Semitism Review Act of 2004)」に署名したことを明らかにした。
ともにユダヤ人が深く関係するものの、その目指す方向がハルマゲドンをめぐって大きく異なるものであることを日本人は深く認識しておくべきだろう。
しかし、小泉首相が「ブッシュ大統領とは親しいからね。頑張っていただきたいね」と言ったかと思えば、「ブッシュ大統領でないと困る」発言(自民党武部勤幹事長)まで飛び出すこの国は、ハルマゲドン・プレイヤーとして、自ら進み出る覚悟を決めたようだ。
ただし、ブッシュ再選は米欧の国際派エスタブリッシュメント達も歓迎しているようだ。ブッシュ政権の継続が米国の衰退を決定づけるものになることを過去4年の実績から認識しているからである。ブッシュ政権が思い描くハルマゲドンが「ブーメラン効果」となって移民国家である米国自らに襲い来るシナリオを見越しているのだろう。つまり、ハルマゲドン自爆テロによって米国は超大国から普通の大国へと転がり落ちていくのである。
ブッシュ政権再選支持を打ち出す小泉政権は、心中覚悟で米国を過去の国へといざなう役割を担っている。太平洋戦争での多大の犠牲によって米国の世紀を生みだした日本が、今まさに米国の世紀の終わらせようとしているかのようだ。
▼参考引用
反ユダヤ主義監視法に署名=米大統領
http://news.goo.ne.jp/news/jiji/kokusai/20041017/
041016204846.4ndw73v.html
Bush signs bill to monitor anti-Semitism
http://www.jpost.com/servlet/Satellite?pagename=
JPost/JPArticle/ShowFull&cid=1098018533349
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