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配当の有無でしかない営利・非営利の分岐点

2004年09月26日(日)
萬晩報主宰 伴 武澄

 株式会社による病院経営について考えている中、「営利」とは何かという疑問が湧いてきた。

 会社の同僚にも「営利ってなんだと思う?」などと質問した。病院だろうが企業だろうが、従業員の給与など諸経費を支払って余りがなければ誰も経営に乗り出さないだろう。病院だって事業である。徒手空拳では何も始まらない。利のないところに事業などあるのだろうかという疑問である。

 そこそこの“投資”が必要であり、銀行から借金すればそれはそれで返済が伴う。借金を支払って後、自分への見返りがサラリーマン並みならばだれも病院を経営しようなどとは思わない。もちろん例外はある。私財を投げ打つ人もいないわけではないが、大方はそうでない。

 そうなると、病院経営だって“営利事業”のひとつとなる。その証拠に病院は財団法人のように非課税団体ではない。

 先日、麻生飯塚病院が株式会社だったことを知って思わずコラムを書いた。翌日、仙台市の読者から「2004年3月末で全国に59カ所もある」とのメールがあった。世の中を知らないわが身を恥じたばかりである。20年前には100以上もあったというのだから、株式会社による病院経営の是非をうんぬんするなどはもはや時間の無駄であろうと思えてしかたなくなってきた。

 さて「営利」である。元住友銀行の専務で現在広島国際大学教授である岡部陽二氏の論文「業員経営への株式会社参入の是非を問う」に鮮やかに説明してあった。これも読者からメールをいただいて知った情報である。長年経済部記者をやっていて「営利」について真剣に考えてこなかった反省もある。少々長いが引用させてもらう。
「会社は営利事業を行って、その事業から得た利益を出資者に分配することを目的とした社団であり、営利性の本質は「利益の出資者への分配」に求められる。利益配分の方法は利益配当、残余財産の分配であるが、出資者は持分の譲渡により譲渡益を得ることもできる。逆に、利益をすべて内部留保して永久に分配しない法人が、非営利法人である」
 なるほど「もうける」ことが「営利」ではないのだ。利益の配分をするかしないかの問題に単純化すれば、分かりやすい。大学の経済学部でもそんな授業をやってくれていれば、もっとまっとうな経済部記者になれたかもしれない。岡部氏の説明はさらにアメリカの病院経営へと続く。
「米国では病院を営利(for−profit)と非営利(not-for-profit)を分別しているが、非営利病院も最終的に利益が上がらなければ存続できないので、利益を追求する点では営利病院と何ら異なるところはない。区分のポイントは出資者への利益配分を意図しているか否か(forかnot-for)にある。逆に、出資者の側から見ると、その投資から得られる配当・譲渡益などの利益分配(profit)を期待しての拠出であるのか、社会貢献を目的とした利益配分は求めない寄付であるのかの違いとなる」
「政府としても非営利病院への寄付を奨励するために寄付にかかる税金は減免し、非営利病院の利益に対する課税免除の代償として、救命救急・小児医療や予防啓発活動など必ずしも利益を生まない不採算医療にも注力し、事業を通じて社会還元を行うことを義務づけている。また、通常非営利病院は多くのボランティア活動によって支えられており、いわば寄付と慈善とボランティアの複合経営体と理解すれば分かり易い」
 非営利病院が成り立つ背景に、寄付社会アメリカならではの税制がちゃんと存在しているということなのだ。そしてなぜ営利主義の病院経営が必要なのかを説明する次のくだりは、反対論者をもうならせるものとなっている。
「民間中心の医療供給体制の中で、非営利法人が市場を独占している場合の問題点は、市場競争を排除し非営利組織内で働くものの利益を含む供給者主体の運営に陥りがちである点にある。医療は非営利病院主体での供給体制が望ましいとしても、営利病院との競争に曝されて効率経営を追求せざるを得ない環境に非営利病院をおくことに意味がある。非営利病院間で競争原理を働かせることも不可欠ではあるが、参入主体を制限すればするほど競争は行われなくなる。福祉事業においても、社会福祉法人の独占体制には問題点が多い」
 岡部先生の論文によれば、非営利団体ばかりの業界では競争がなくなり、それぞれの組織運営がどうしても非効率に陥ってしまう。営利団体の参入はそうした非効率経営に多大な刺激を与えるためにこそ必要なのだということになる。

 筆者は株式会社による病院運営を認めるべきだと考えてきた。その趣旨は岡部先生と同じである。付け加えるならば、民間の病院経営が地域への貢献だとか弱い者への慈悲の心だけで成り立っているわけではないということも強調したい。この日本では、営利であろうと非営利であろうと過疎地で経営する民間病院は皆無である事実をみればすでに明らかである。

 もっともこれまでの日本的株式会社にも問題があった。経営者たちは、内部留保ばかりやって株主配当をほとんど無視してきた。揚げ句の果てはその株主のものであるはずの巨額の内部留保をバブルでなき物にしてしまったという事実も忘れてはならない。

 岡部先生の論文
http://www.okabe.org/yoji/yoji_docs/021107Hospitalincorporated.htm

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