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イラク戦から展望する北朝鮮−紛争予防の開発構想を
2003年03月29日(土)
ブルッキングス研究所客員研究員 中野 有
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米国の容赦のないイラク戦を金正日総書記は、どのように見ているのであろうか。
イラクと同じ悪の枢軸であり、NPT脱退から核を含む大量破壊兵器の開発まであらゆる瀬戸際外交を行っている北朝鮮は、今回の米軍のイラクへのハイテク攻撃を見てどのような選択を模索しているのであろう。
米国の徹底した攻撃により北朝鮮の闘争心が挫かれるという見方と、北朝鮮の核抑止力が機能するとの楽観主義か、核に妥協せぬ恐るべき米国の先制攻撃のオプションが高まるとの予測に分かれる。
イラクの次は、中近東に並ぶ世界の火薬庫である朝鮮半島で、このままでは戦争が発生する確率が高い。あるリベラルな専門家から70%の確率で朝鮮半島で紛争が発生するとのことを聞き、もう悠長な議論は通り越して戦争回避のロードマップを作成しなければいけないと感じる。
その手始めとして、ワシントンのシンクタンクや大学の邦人の研究員が集まる、PRANJ http://pranj.org/default1.htm という政策提言の組織で、北朝鮮問題についての発表の機会を得た。
結論から言えば、紛争回避のためには、米朝の不可侵条約の締結をいかに実現させるかであり、そのための多国間協力による北東アジアのグランドビジョンを早急に完成させるかに尽きる。
北朝鮮が望むところは、金体制の存続と外部からの資金を引き出すかにある。北東アジア諸国やEU諸国は、金体制の存続に否定的でなく、北朝鮮というブラックホールがラストフロンティアに変貌することを望んでいる。問題は、米国の破壊による朝鮮半島の国際秩序の構築が推進されようとするところにある。要するに、米国と北朝鮮との共通の利益の合致点を明確にすることが紛争回避に直結する。北朝鮮を如何にして開かれた市場経済に溶け込ませるかにある。
北朝鮮は、156カ国と外交樹立を達成させており、EUにおいてはフランスとアイルランドを除く13カ国と国交を結んでいる。北朝鮮の市場経済化に向けた努力とここ数年の経済成長は、正当に評価すべきである。
ブッシュ政権の北朝鮮政策について次期大統領候補であるジョン・ケリー上院議員は、「メリーゴーラウンド政策」と批判している。これは遊園地でお金を払い木馬にまたがり何もせずに元の位置、すなわち1994年の一発触発の核危機に戻したのみならず、その間、北朝鮮の核開発を放置したことを指している。さらにブッシュ政権の近視眼的な一国主義から、進歩的な多国間主義に修正する必要があると述べている。
このようにブッシュ政権の対北朝鮮無策政策が批判されることにより、今後、封じ込め政策から対話や外交も活発になろうが、パウエル長官の協調路線がラムスフェルド長官のタカ派路線に追いやられる可能性が高い。このような米国の一国主義から脱却するためにも北東アジア6カ国(日本、中国、ロシア、韓国、北朝鮮、モンゴル)による多国間主義を強化する必要がある。
北東アジアの多国間協力の推進、すなわちロシア・モンゴル・北朝鮮の天然資源、中国の労働力と大規模な市場、日本.韓国の資金・技術力が相互補完的に機能することにより自然発生的経済圏が生み出されるという北東アジアの発展の気運を再考することが重要である。
北東アジアの経済圏構築のためには、大規模なインフラ整備が不可欠である。民間企業の投資や貿易、そして本格的な交流が深化されるためには、国際公共財としてのインフラ整備が必要である。
北朝鮮は北東アジアの地政学的に重要な位置にあり、発展から隔離されたこの地域を中心に道路、鉄道、エネルギー、通信等の国際公共財のみならず、人材育成、教育等の知的インフラや貿易、投資、観光等のソフトインフラが構築されることにより北朝鮮が自ずと経済発展の原動力に組み込まれるだろう。
このような大規模な国境を越えたインフラ整備を行うためには、年間1兆円近くの資金が少なくとも10年は必要となろう。北朝鮮を国際社会に導くためには、このような「アメ」が必要である。このような経済協力を基軸とした、紛争を未然に防ぐための予防外交による開発構想は、イラク戦から展望できる破壊による復興支援に比較すると如何に平和のための構想であるか一目瞭然である。
恐らく、ブッシュ政権はイラクの次には、朝鮮半島の秩序の構築に乗り出すであろう。北東アジアの前世紀は、日清戦争から朝鮮戦争、そして現在の冷戦構造を鑑みると戦争の世紀であり、その流れを変貌させるためには、東洋の叡智による米国の北東アジア政策を紛争回避による国際秩序の構築に向かわせる奇策が要求されよう。日本の戦前の開発構想から学ぶべきことが多く、それを北東アジアの多国間協力のみならず、欧米の参加による開かれた「北東アジアのグランドデザイン」として発展させることにより、平壌は、現在のバグダッドの破壊の道から回避でできると信ずる。
萬晩報を通じ、イラク戦争の苦い経験を糧にした北東アジアの安定と発展のための平和構想に関する意見交換を提案したく考える。
中野さんにメールは mailto:TNAKANO@BROOKINGS.EDU
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