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再びパール、そして真意

2003年03月27日(金)
ワシントン在住ジャーナリスト 堀田 佳男


 その日は早朝からイラク情勢のブリーフィング(説明)を受けるため、保守派の牙城であるアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)というシンクタンクに出向いていた。AEIはホワイトハウスの北東約1キロのオフィスビルの中にある。ファラガット・ウェストという地下鉄の駅を降りて、17丁目を北に向かって歩くと柔らかい春風が頬に心地よい。

 ビルの正面玄関に近づくと、プラカードを手に何か叫んでいる女性たちがいた。そばまでいくと「ダンプ・リチャード・パール」と連呼している。リチャード・パールはその日のブリーフィングの主役である。ダンプというのは「投げ捨てる」という意味だが、「殺す」という語意もある強烈な単語だ。以前、このコラムでも反戦活動家に触れたが、叫ぶだけでは戦争は終わらないしブッシュの考え方も変わらない。私も戦争に反対するが、彼らは路上で声を張りあげる代わりに現実的な「反戦政策」を実践できる力を備える必要がある。まして戦争が始まってしまった以上、アメリカが歩むコースを反転させることはミシシッピ川を逆流させることくらい難しい。それでも戦争が半年以上続き、米英軍の戦死者が1000人を越える戦況になったとき、川の流れの向きを変えるチャンスが生まれるかもしれない。

 反戦活動家の配ったビラには、ネオコン(新保守派)のボスであるパールは、「ブッシュ政権外の人物としては、アメリカを戦争に突入させた最大の責任者」と記されていた。その記述はおおかたあたっている。25日の説明会で、パールは米政府が戦争にまい進した理由を2点に絞った。それはメディアからの質問頻度の「ナンバー1」と「ナンバー2」の答えとさえ思えた。

「アメリカ軍は多くの場合、イラク市民に(フセインの圧制からの)解放者として受け取られている。戦争が終わったとき、イラク市民は『解放』という本当の意味を十分に感じることができるだろう」

 これは「アメリカ主導の戦争が本当にイラクを解放するための戦争だと思うか」という質問の答えである。聞こえはいいが、パールは今回、2月のブリーフィングで述べたイラクの大量破壊兵器の脅威を一掃するためという点には一言も触れなかった。さらに「大御所」は戦争反対派がもっとも口したがる「石油のための戦争」という問いの答えも用意していた。

「アメリカ軍の任務のひとつはイラクの油田を死守することだ。なぜか、答えはただひとつ。イラクが新しい政権を築き、国家を建設するときに使うからだ。(イラクの原油)はイラク国民と国家のためのものである。アメリカは関心がない。戦後、原油はイラク国民のために産出され使われるだろう」

 ここまではっきりと断言されると「ウソ」という二文字が背後に見える。私はネオコンが抱える戦争理由は複数あると思っていた。大量破壊兵器の脅威、石油、軍需産業、中東の安定だ。その中でも大量破壊兵器への脅威が比重としては最大だろうと推断していた。2月27日付コラムで書いたパールのナチスの話に、多少なりとも動かされたこともある。さらに「9.11」以降、アメリカがテロリズムの脅威に晒され、危機感が国民の中にあることを体現していた。

「しかしパールよ。今日の説明はナンゾヤ」

 石油が戦争を始めた理由の「小さな柱」として立つことは当然というより、必然である。その理由を完璧に否定したことで、彼の理由付けは失墜した。言葉のレトリックとして「石油が背景にあります」と認めたことに等しい。ノーベル経済学賞にもっとも近い経済学者といわれるポール・クルーグマンでさえニューヨーク・タイムズで「石油は戦利品」とはっきりと書いている。

 ブッシュ政権の戦争の意図がおのずと知れた日となった。

 堀田佳男 のDCコラム「急がばワシントン」2月27日から転載
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 堀田さんにメールは mailto:hotta@yoshiohotta.com

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