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新たな国際秩序の構築にチャンス有り

2003年03月11日(火)
ブルッキングス研究所客員研究員 中野 有


 もはやイラクの武装解除やフセイン追放といった小さな問題を通り越し、多国間の協調による新たな国際秩序の構築か、国際非秩序によるカオスの状態に陥るかといった地球の運命を豹変させる事態に直面している。

 ブッシュ大統領が盲信するイラク戦を傍観するわけにはいかない。傍観するどころか日本は、世界の潮流に逆らい戦争を回避するラストチャンスを逸しているのである。冷静に考えてみるとおかしな話である。イラクが戦争を仕掛けているのでなく、アメリカが戦争を仕掛けているのである。こんな戦争が回避できないようでは、永遠に戦争がなくならないだろうし、いつかは第3次世界大戦により地球が大やけどをしてしまうだろう。

 恒久的平和(核戦争回避を意味する)は、広島と長崎への人類史上最悪の悲劇が抑止力として機能してきたから成し遂げられてきた。このように考えると、日本は精神的な面において世界平和に貢献している。しかし、現在の日本の存在感は寂しい限りである。ワールドカップで暖かい日本のもてなしを受けたカメルーンでさえ15カ国で構成される国連安全保障理事会に入っているのに、国連第二の金庫番である日本にはその活躍の場がない。イラク問題はともかく北朝鮮の核問題においては、日本と韓国という北東アジアの主役が不在の国連安全保障理事会ではどんな話し合いが行われるのであろうか。

 国際舞台における存在感は、昔の日本の方があったのではないだろうか。国際連盟の常任理事国であった日本は満州事変の調査報告書の不満を理由に、国際連盟を脱退した。アジア独自路線をとった日本の方向は間違っていたが、松岡洋右代表の演説とその姿には、世界が一目おく日本の存在感として今も残る。物質的に豊かになった日本は、いったいどこに行ってしまったのであろうか。国際秩序の構築という国益と地球益を包括した壮大な創作活動が行われようとしている今、日本の軍事的関与には限界があろうが、日本が唱える平和構想を国際舞台で堂々と伝えなければ、日本の地位が低下することは間違いないだろう。

 日本ではどのように報道されたか知らないが、C−SPANで放映された3月7日の国連安全保障理事会の討論には、外交の駆け引きを超越した戦争を未然に防ごうとする予防外交と国際秩序を構築しようという空気が漂っていた。特に、フランスやロシアの外相の討論には、イラクの武力行使という目前に迫る問題を現実主義的に対応するのみならず、新しい国際秩序の構築という理想主義を掲げたものであった。フランスの外交の華やかさとロシアがアメリカの覇権主義に挑戦する気骨が現れた建設的な討論であった。

 アメリカは孤立しようとしている。最近のニューヨークタイムズやワシントンポストの論調は、ブッシュ批判が目立つ。日本のマスコミの方が、ワシントンの新聞よりイラク攻撃の正当性を訴えているとの印象を受ける。

 世界最強の軍事力を持つアメリカが、アメリカの価値観に楯突く国に戦いを挑むことは、歴史を振り返ればそれほど驚嘆に値することではない。イラク戦が始まれば、いくら最悪の状況を予期しても軍事面におけるアメリカの被害は、たいしたことはないだろう。世界の軍事と経済の頂点にあるアメリカは、911というトラウマから開放され、アメリカを守るために先制攻撃や予防戦争といった強硬な姿勢に徹することも納得がいく。昨年の9月12日のブッシュ大統領による国連演説に始まり、アメリカ議会における戦争容認、そして11月の国連安全保障理事会が満場一致で容認した国連決議案までの一連の動きは、国際テロ撲滅に対する国際社会の協調が成立したという点で何ら問題はない。むしろ、世界が21世紀型の戦争に対処し、新たな国際秩序の構築のための地ならしができたと評価するのが正当だろう。

 米国国家安全保障戦略にある先制攻撃も国際テロ撲滅のためには否定されるべきものではないと考える。ある国やテロ組織が大量破壊兵器を使い世界を脅かす行動に出ようとした場合、先制攻撃という選択がなければ抑止が効かないと思う。1981年のイスラエルによるイラクの核疑惑施設攻撃がなければ、クウェートの運命も変わっていたかもしれない。

 アメリカが911を梃に国際テロへの宣戦布告をしたからこそ、国際テロ撲滅に向けた国際協調が生み出されたのである。国連決議案1441が全会一致でまとまったのは、予想以上のアメリカの功績であった。IAEAがイラクをクロと判断した場合、国連安全保障理事会は、イラクの武装解除を目的とした戦争を容認するであろう。

 ブッシュ政権の問題は、国際協調なしで戦争を行うところである。戦争を行ってもアメリカは勝つ。加えて戦後復興における日本の役割は重要である。が、戦後復興といっても、新しい国を作ろうという作業なのである。復興のためのインフラ整備のみならず、イスラムの人々の心理的かつ宗教的側面を考慮すれば、何十年もかかる国造りになろう。こんな大それたことアメリカが行おうとしているのである。

 アメリカの側近である日本は、アメリカに「待てば海路の日和あり」と伝え、イラクも妥協していることだし、とにかく時間を稼ぎ頭を冷やすことで国際協調と新たなる国際秩序が生み出されるのではないだろうか。フランスもドイツも戦争には反対してないのである。ブッシュ大統領は、フランス、ロシア、中国の代表と直接話し合い、国連のブリックス委員長が提示した数カ月の猶予を決定すれば良いのではないだろうか。

 アメリカの軍事のおかげでフランスや国連の外交が機能するのである。21世紀の国際秩序の構築のチャンスは、この1週間が勝負である。これをのがせば、日本のみならず世界は混沌とするであろう。日本の代表は、国際連盟脱退の松岡洋右の演説に並ぶ存在感のある演説を行い、日本の堂々威風たる風格を世界に鼓舞すべきであろう。それが恐らくラストチャンスであろうし、またそれが実ることにより世界はまとまり発展へのギアにシフトされるだろう。

 中野さんにメールは mailto:TNAKANO@BROOKINGS.EDU

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