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アメリカのソフトパワーと日本思想

2002年12月16日(月)
ブルッキングス研究所客員研究員 中野 有


 9月20日に出された米国の「国家安全保障戦略」には、先制攻撃(ハードパワー)から経済協力(ソフトパワー)まで包括した幅広い戦略が織り込まれている。アメリカの安全保障戦略を分析するに「アメとムチ」の両方のパワー、すなわち軍事のみならず、ODAが50%も引き上げられたという側面を理解しなければいけない。そのソフトパワーの実施機関がUSAIDである。

 ブッシュ政権は、自由、民主主義といった米国の価値観を国際テロ組織やならず者国家から守るため軍事、経済協力、インテリジェンス機能を強化した。小さい政府を目指す共和党政権があえて「HOMELAND SECURITY」という新しい巨大官僚組織を創設した。このように米国があらゆる戦略で不安定要因を除去し、かつアメリカ式国際秩序を蔓延させようとしているときに、日米同盟の視点からどのような日本の役割が期待されているのであろうか。

 安全保障における日本の弱点は、専守防衛のオプションしかないことである。一方、米国は先制攻撃から経済協力まで幅広いオプションの中から「アメとムチ」を使い分けながら包括的な戦略を練ることができる。では、米国には弱点があるのであろうか。米国の弱点は「一神教」にあり、中東和平を遂行させることができないのは宗教に対する妥協がなく、また排他的で共存の哲学に欠けていることと考えられる。

 そして、宗教には4つのパターン(キリスト教・イスラム教・ユダヤ教等の一神教、インドのように宗教が混沌としている、中国のように宗教を認めない、日本のように神道・仏教・キリスト教を同時に信仰できるといった極めて柔軟性のあるパターン)が存在するとの福地理論を唱えたところ、この考えに同調し、米国の「一神教」と「一国主義」の関係を指摘する米国の専門家が多かった。

 さらに日米同盟には、「餅屋は餅屋」という役割分担が存在するなら米国の苦手とする分野を日本の意志を貫きながら相互補完が成り立たないかについて提示してみた。果たして、一発触発の北東アジアの現状に一神教の弱点を埋める柔軟性に富んだ「和の精神」を尊ぶ日本思想が生きてくるのであろうか。

 米国が「悪の枢軸」というレッテルを貼った国が本当に戦争を起こすのだろうか。戦争が起こるとすると「火に油を注ぐ」政策を貫いたときであろう。イラクと北朝鮮に共通するのは、一人の思惑で大量破壊兵器を使用することができることである。

 今後、独裁者による大規模な戦争が起こるのであろうか。それを問い掛けるにあたり、どうして米国とソビエトは無数の核兵器を製造したのに60年近くも世界規模の戦争を回避できたのであろうか。その答えは戦前の石原莞爾の「世界最終戦論」の予言の如く核の犠牲で恒久的平和に至った。

 日本は世界平和のために貢献したのである。そして21世紀の今日、再び日本の周辺が大国の駆け引きが絡み揺れ動いているときに、柔軟な日本思想を世界に発信すべきである。東洋医学と西洋医学の違いがあるように日米の安全保障戦略には違いがある。また、ブッシュ政権の国家安全保障戦略の中にも経済協力による信頼醸成構築という東洋医学的な手法もある。

 アフガニスタンでは戦後復興の平和構築がなされている。紛争と発展の可能性を秘めた北東アジアには、紛争を未然に防ぐ予防外交が求められている。現在の米国の対北朝鮮外交は、食糧支援などで北朝鮮を支援しても北朝鮮が抜本的に変わらなければ、あるいは政権を交代させなければ、紛争の脅威から逃れることができないというのが主流である。

 しかし、USAIDの長官と意見交換を通じ、北朝鮮の対応次第で「21世紀のマーシャルプラン」といえる協調を通じ紛争を未然に防ぐ芽もあると感じた。なぜなら、米国の安全保障戦略には幅があることと、北東アジアで戦争が起これば犠牲が大きすぎるからである。ナティオス長官に北東アジアの開発構想を提出するとの約束をした。米国の会議では意外と日本思想が評価されることをひしひしと感じた。萬晩報の平和構想に関する読者のアドバイスを頂きたい。

 中野さんにメールは mailto:TNAKANO@BROOKINGS.EDU

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