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多国間協力の融合と北東アジア天然ガスパイプラン構想
2002年12月09日(月)
ブルッキングス研究所客員研究員 中野 有
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本日(12月5日)ワシントンのブルッキングス研究所主催の朝食会にてプリチャード朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)大使の講演を聞いた。ワシントンの研究所の醍醐味は、外交・安全保障の現場に携わっている第1人者の内輪の話を聞くことができると同時に考えを伝えることができることである。どうして北東アジアにはびこる緊張の呪文を取り除くことができないのか。個人的見解を述べてみる。
北朝鮮が核の開発を進めているとの米国の見解と、北朝鮮側の自己防衛のため核の開発を行う権利があるとの見解にはニュアンスの違いがある。しかし、いずれにせよ北朝鮮の核の問題に関しては、中国もロシアもこれを批判しており、国際協調が得られると考えられる。イラクの核の査察問題で国連常任理事会が15-0で米国の主張を通したようなシナリオが北朝鮮問題でも成り立つと考えられる。
北朝鮮が1994年の米朝の枠組み合意を守らなかったのだからKEDOの意味がなくなる。ブッシュ政権は、中間選挙の共和党の勝利もあり、北朝鮮への重油提供等の制裁を強化する運びである。日本や韓国は、北朝鮮の孤立を避けるための関与政策を主張しているが11月のKEDO総会で表明されたように重油提供の一時的な停止と活動の再考とあるように北朝鮮が核開発をやめない限りKEDOが頓挫すると考えられる。
KEDOは、米国・韓国・日本が中心となりEU・オセアニア・アルゼンチン等も加わり構築された北東アジアにおける多国間協力機構である。北東アジアは朝鮮半島の38度線を境に未だに冷戦構造が温存されていることから察すると、北東アジアの6カ国の重要なプレーヤーである中国とロシアがKEDOに参加していないことが理解できる。
一方、中国が主役となり国連が音頭をとりながら90年代初頭より推進している豆満江流域開発がある。豆満江は、中国・北朝鮮・極東ロシアの国境を流れる川である。この浅瀬の豆満江を渡れば北朝鮮から中国へ行くことができる。このプロジェクトは韓国と北朝鮮が国連に同時加盟したときに南北の協力推進を目的としたものであり、筆者は、国連機関で勤務していた90年初頭より深く関わってきた。しかし、このプロジェクトの問題は、日本と米国の関与が少なかったことにある。
KEDOと豆満江流域の開発を見た場合、北東アジアには米国型と中国型の多国間協力が相容れない関係にあるように考えられる。中国の多国間主義には注意を要する必要がある。例えば、上海協力機構(中国・ロシア・中央アジア4カ国)、中国とASEAN(東南アジア諸国連合)との関係を見ると中国の多国間主義がアジアの大半を覆う勢いである。そのように考えると、国連が推進する北東アジアの多国間協力を目指す豆満江流域開発は中国式の多国間協力であるゆえに限界が感ぜられる。
果たして冷戦が残る北東アジアにおいて北東アジア6カ国と米国等が利益を共有できる多国間協力のプロジェクトが有るのであろうか。
1996年1月にホノルルで開催された「第6回北東アジア経済フォーラム」において、三菱総研の朝倉堅五氏が、北朝鮮を含む参加者を前に提唱された「北東アジア天然ガスパイプライン構想」が思い出される。これは、21世紀は気体エネルギーの時代であり、世界の30%の天然ガスが埋蔵されている極東ロシアからモンゴル・中国・北朝鮮・韓国を経由してガスパイプラインで日本まで天然ガスを運ぶという構想である。このメリットは、天然ガスは環境に最も優しい化石燃料であり、酸性雨や黄砂に関係する中国の環境問題を解決し、日本のエネルギーの中東依存を減らし、朝鮮半島の南北を貫通しエネルギーを通すことにより地域の信頼醸成が生まれるというものである。東西の冷戦中から東西ヨーロッパに天然ガスパイプラインが通っていた事実から見るとエネルギーの安全保障と信頼醸成は補完関係にあると考えられる。
KEDOの問題は、中国とロシアの関与が少ないことである。中国もロシアも北朝鮮の核開発に反対している。とすると、北東アジアすべての国が主役となる北東アジア天然ガスパイプライン構想こそKEDOを凌ぐプロジェクトになるのではないだろうか。とりあえずプリチャード大使にこのプロジェクトの重要性について聞いてみた。まだまだ時を要する話かもしれないが、米国と中国が納得する多国間協力構想を日本発で発信することも悪くないのではないだろうか。北朝鮮の拉致問題を通じ、日本人が外交や安全保障に興味を持ったとすると、次に重要なことは、北東アジアの安定と繁栄のための大きな構想ではないだろうか。
現在北朝鮮が核を持っていても持ってなかってもいずれにせよ技術進歩を考えれば、将来的に小国でも個人でも核開発が可能な日が到来するだろう。そのように考えると、エネルギーを共有できる大きな構想や具体的なプロジェクトの方が意義があるのでなないだろうか。勿論、北朝鮮が国際ルールを守らなかったことに対しては、強力な制裁が必要であると思う。そして同時に武力制裁を避けるためにも解決策も提示する必要があると考えられる。読者の意見を頂きたい。
中野さんにメールは mailto:TNAKANO@BROOKINGS.EDU
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